最新の治療法など、地元の医療情報を提供する「メディカルはこだて」の編集長雑記。

函館で地域限定の医療・介護雑誌を発刊している超零細出版社「メディカルはこだて」編集長の孤軍奮闘よれよれ・ときどき山便り。

糖尿病性腎症重症化予防へ積極的な取り組みを展開

2016年11月23日 10時49分11秒 | メディカルはこだて
第60号の特集は「糖尿病性腎症重症化予防へ積極的な取り組みを展開〜日本慢性疾患重症化予防学会道南支部の活動に注目〜」

平成28年4月厚生労働省は、日本医師会や日本糖尿病学会などの日本糖尿病対策推進会議とともに、糖尿病性腎症から透析治療に移行する患者を減らすための「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定した。
糖尿病性腎症が進行すると透析治療が必要になるので、腎臓の働きが低下する前に治療を始めることが大切だ。腎症は透析の原因になるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の重大な危険因子でもあり、患者のQOLを低下させるだけではなく、医療経済的にも大きな負担を社会に強いることとなる。プログラムは糖尿病が重症化するリスクの高い医療機関の未受診者などについて、関係機関からの適切な受診勧奨、保健指導を行うことにより治療に結びつけるとともに、糖尿病性腎症等で通院する患者のうち、重症化リスクの高い者に対して主治医の判断により保健指導対象者を選定し、腎不全、人工透析への移行を防止することを目的としている。
昨年1月函館稜北病院の佐々木悟副院長の呼びかけで日本慢性疾患重症化予防学会(JMAP)の道南支部が設立された。同学会では慢性疾患の重症化予防が地域の医療を守り、医療費の増加を食い止め、国民皆保険制度を存続させることにつながると確信し、その実現を目指している。日本慢性疾患重症化予防学会道南支部の佐々木悟会長は、同支部のミッションを糖尿病性腎症重症化予防(国が策定した糖尿病性腎症重症化予防プログラムのJMAP方式による実践遂行と地域内展開)、糖尿病の無症候性冠動脈疾患の重症化予防として病病連携を基盤にした頸動脈エコーと冠動脈CTによるハイリスク患者の層別抽出と治療を掲げている。函館稜北病院と函館五稜郭病院が実施中の注目の取り組みを紹介した。

◎急速進行性糖尿病腎症となる患者を早期に発見し重症化予防を行う「稜雲プロジェクト」を開始
慢性疾患、特に糖尿病は重症化に伴って起こるさまざまな合併症が医療費高騰の一因ともなっている。慢性透析の患者数は年々増え続けているが、新規透析導入の原因となる病気の第1位が糖尿病で、右肩上がりで増加している。透析医療費の増大は医療経済上におけるインパクトも非常に大きく、糖尿病性腎症の防止が強く求められている。
函館稜北病院と稜北クリニックは、定期通院中の糖尿病患者から急速進行性糖尿病性腎症となる患者を早期に発見し、重症化予防を行う「稜雲プロジェクト」を開始した。平成26年11月透析導入予測患者を抽出したのがプロジェクトの出発点で、翌27年1月函館稜北病院の佐々木悟副院長の呼びかけで日本慢性疾患重症化予防学会の道南支部が設立され、同年2月以降は疾病管理MAPとΔeGFRを活用した急速進行性糖尿病性腎症患者の層別抽出や対象者と介入方法の確定、重症化予防外来スタートなど、プロジェクトは順調に進展を続けている。


函館稜北病院医事課主任の中尾健さん。


◎患者の推定塩分摂取量と塩分味覚閾値を比較、塩分過剰の原因や減塩のポイントが明確化
日本においては、高齢化が進む中で、生活習慣と社会環境の変化に伴う糖尿病患者の増加が課題となっている。糖尿病は放置し悪化すると、網膜症や腎症、神経障害などの合併症を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させるだけではなく、医療経済的にも大きな負担を社会に強いている。このため、糖尿病性腎症による年間新規透析導入患者数の減少と医療費の適正化が強く求められているが、腎機能を低下させる危険因子の低減に関しては、「減塩」が大きなテーマとなっている。
函館稜北病院では、患者の推定塩分摂取量および塩分味覚閾値を測定することで、減塩への取り組みを行っている(閾値とはある反応を起こさせる最低の刺激量のこと)。同病院検査科科長の滝沢智春さんに話を聞いた。


函館稜北病院検査科科長の滝沢智春さん。


◎推定塩分摂取量と塩分交換表を活用した減塩指導、外来看護師の在宅訪問療養指導も9月から開始
函館市の平成27年度における国民健康保険給付の人工透析患者は189人。1人当たりの医療費でみると、月平均47万2464円、年間で約570万円となる。また、起因が明らかになったのは116人で、生活習慣を起因とする糖尿病性腎症は98人(84・5%)。人工透析患者189人の52%が糖尿病性腎症が原因となっている。
このように人工透析の最も大きな要因となる糖尿病性腎症と塩分摂取量の関連に関する知見として、稜北クリニック内科外来看護師の高橋友美さんは「塩分摂取過剰は血糖や血圧とは独立した糖尿病性腎症の発症促進因子。糖尿病腎症2期では塩分摂取過剰は尿中微量アルブミンの増加をもたらす腎症進展促進因子。CKD(慢性腎臓病)3b期の糖尿病性腎症では減塩により、eGFRの低下が改善したなどの知見がある」と話す。


稜北クリニック内科外来看護師の高橋友美さん。


◎地域ぐるみの減塩をめざす「減塩サポーター構想」、外来で塩減ができない患者をサポートする方法とは
層別化機能を持った患者データベースに基づき、多職種による糖尿病を中心とする慢性疾患の重症化予防を目指している日本慢性疾患重症化予防学会道南支部(佐々木悟会長)のキックオフセミナーが開催されたのは昨年1月。今年9月には第1回道南支部総会が函館五稜郭病院で開催されたが、同学会の道南支部では退院後の糖尿病腎症や心不全の患者を対象に自宅で減塩指導を行う「減塩サポーター」の展開を計画中だ。
地域ぐるみの減塩をめざす「減塩サポーター構想」は、全国で函館が初の試みとなるが、その目的について、函館五稜郭病院栄養科の工藤茂さんは「塩分味覚が低下している患者では、調理する家族の指導と支援を通じた減塩実践が重要で、そのための在宅で減塩実践を行うサポーターを育成すること」と話す。


函館五稜郭病院栄養科の工藤茂さん。


◎冠動脈エコーと320列CTを利用した無症候性冠動脈疾患の地域連携
函館五稜郭病院と函館稜北病院は、糖尿病患者の重症化予防を目的に、冠動脈エコーと320列CTを利用した無症候性冠動脈疾患の地域連携を開始した。連携の概要は、函館稜北病院の外来に定期通院する糖尿病患者に、冠動脈エコーや安静時心電図(長期データの比較)、心エコー、ホルター心電図等の検査を実施、検査結果から無症候性冠動脈疾患が疑われる患者を抽出し、函館五稜郭病院へ紹介する。同院では320列CTによる冠動脈造影を実施し、その検査結果から、心臓カテーテル検査、高度狭窄病変に対してはPCI(経皮的冠動脈形成術)やCABG(冠動脈バイパス術)による治療を行うというもの。
連携を開始するにあたり、函館稜北病院の外来に定期通院する糖尿病患者約800人全員に頸動脈エコーを実施。IMT(頸動脈の内腹中腹複合体厚)が1・5ミリ以上はIHD(虚血性心疾患)のリスクが高く、CCAT(冠動脈CT造影検査)が推奨される中で、1・5ミリ以上の患者は579人、実に検査を受けた72%の患者がリスク高と判定された。その後、両院で検討を重ね、IMT1・5ミリ以上の患者の中でも特に心筋梗塞などのおそれがある、両または片側が2・0ミリ以上2・5ミリ未満の患者(153人)、両または片側が2・5ミリ以上の患者(179人)、合計332人を対象に連携をスタートさせた。


函館五稜郭病院経営企画課長の船山俊介さん。

(以上、本文より一部を抜粋)


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