北海道新聞みなみ風の「立待岬」。3月15日掲載は「海のしっぽ」。
後志管内黒松内町は自生北限地帯として国の天然記念物にも指定されているブナ林が見事だ。雪の林の中をスノーシューで歩く。冬は葉がなくなったブナの細い枝と空がよく見えた。
ブナ林のそばにはヤマメやアユなどが生息する朱太川(しゅぶとがわ)が流れている。同管内寿都町を経て日本海へと注ぐ清流は、豊かな森の滋養を運ぶ。この海水を使って塩づくりを始めるため、2003年に和歌山県から黒松内に移住した夫婦がいた。
塩とにがりは独自の三段釜による製塩釜で、海水を煮詰めてつくられる。煮詰まった海水からもうもうと水蒸気が立ち上る窯元で話を聞いたことがあった。
「寿都湾からくみ上げる海水は黒松内の豊かな森や貝化石の地層を通るため多くのカルシウムを含み、塩の旨(うま)みを増してくれます。ここは塩づくりには理想的な場所」と語っていた。
商品化した釜炊き塩「海のしっぽ」はデパートや老舗料理屋などで好評を得たが、3年前、夫婦は塩窯を閉鎖し黒松内を去った。理由は朱太川上流に進出した養豚業者の排水だった。養豚施設では浄化設備を設置したことで数値の上では問題はないとしたが、アユの解禁日に施設から大量の豚の尿が川に流出し、魚の死骸が浮いたこともあった。なにより浄化されても毎日多くの排水が流されることで豊饒(ほうじょう)な海はなくなったと夫婦は考えた。
朱太川は昔と同じ様相だが、もう海のしっぽではない。夫婦の住んでいた家は深い雪におおわれていた。
(メディカルはこだて発行・編集人)
後志管内黒松内町は自生北限地帯として国の天然記念物にも指定されているブナ林が見事だ。雪の林の中をスノーシューで歩く。冬は葉がなくなったブナの細い枝と空がよく見えた。
ブナ林のそばにはヤマメやアユなどが生息する朱太川(しゅぶとがわ)が流れている。同管内寿都町を経て日本海へと注ぐ清流は、豊かな森の滋養を運ぶ。この海水を使って塩づくりを始めるため、2003年に和歌山県から黒松内に移住した夫婦がいた。
塩とにがりは独自の三段釜による製塩釜で、海水を煮詰めてつくられる。煮詰まった海水からもうもうと水蒸気が立ち上る窯元で話を聞いたことがあった。
「寿都湾からくみ上げる海水は黒松内の豊かな森や貝化石の地層を通るため多くのカルシウムを含み、塩の旨(うま)みを増してくれます。ここは塩づくりには理想的な場所」と語っていた。
商品化した釜炊き塩「海のしっぽ」はデパートや老舗料理屋などで好評を得たが、3年前、夫婦は塩窯を閉鎖し黒松内を去った。理由は朱太川上流に進出した養豚業者の排水だった。養豚施設では浄化設備を設置したことで数値の上では問題はないとしたが、アユの解禁日に施設から大量の豚の尿が川に流出し、魚の死骸が浮いたこともあった。なにより浄化されても毎日多くの排水が流されることで豊饒(ほうじょう)な海はなくなったと夫婦は考えた。
朱太川は昔と同じ様相だが、もう海のしっぽではない。夫婦の住んでいた家は深い雪におおわれていた。
(メディカルはこだて発行・編集人)