第68号の特集は、臨床でモヤモヤする症例に役立つのは定型的ツールを使った「臨床倫理4分割カンファレンス」。
函館稜北病院副院長・総合診療科科長の川口篤也医師に話を聞く特集の3回シリーズ。
前回は急性期病院を持ち回りで開催する「函館オープンカンファレンス」を取り上げた。
医療や介護などの関係者に高い評価を受けているオープンカンファレンスの取り組みが継続しているのは「小さな成功の積み重ねだった」と川口医師は教えてくれた。
オープンカンファレンスは開催する病院を急性期以外にも広げ、開催頻度も増やす予定だ。
そして、医療や介護関係者だけではなく、様々な職種の人に参加してもらえるようにすることで、地域全体の様々な立場の人の共通基盤に立つことができるような活動を目指している。
特集の2回目は「臨床倫理4分割カンファレンス」について話を聞いた。
日々の生活の中でモヤモヤすることは多くある。モヤモヤとは「わだかまりがあって心がさっぱりしないこと」「もめごと」「ごたごた」のこと。こうしたモヤモヤは患者や家族、医療者など、さまざまな人の意向が交錯する臨床現場も例外ではない。
「モヤモヤする事例は倫理的な問題を抱えていることが多い」と川口医師は話す。
「臨床倫理は特別なものではなく、日常臨床に常に存在しています。モヤモヤした時には立ち止まって考えることが大切で、気づいてからどのように対応するかが問題なのです」。
倫理とは人として守り行うべき道であるが、「倫理とは、人と人とが関わり合う場でのふさわしいふるまい方とも言えます」。
倫理的な問題を考えるために日常臨床でモヤモヤする具体的な事例をあげてもらう。
「患者さんは0歳です。72歳くらいから認知症が目立ち、誤嚥性肺炎を2回起こしました。嚥下機能が落ちていて、経口摂取はすすめられないとの医療者の判断です。胃ろうを作りますか。すんなり答えは出ましたか。さらに『患者さん』を『あなた』や『あなたの親』に置き換えると、答えはどうですか」。
患者と自分と親という条件で、答えが変わるとしたら、その違いはどこにあるのだろうか。
それは情報不足だと考える人も多いかもしれないが、それではどういう情報があれば決めることができるのか。
「胃ろうを入れたらどうなるという医学的事実『エビデンス』と本人や周囲がどういう価値観でこれまで生きてきたかという『ナラティブ(ものがたり)』で判断は変わります。
自分の価値観にも自覚的になることが必要です」。
すべての意思決定はエビデンスと価値の二本の足の上に立っているそうだ(二本の足の原則)。
函館稜北病院副院長・総合診療科科長の川口篤也医師