最新の治療法など、地元の医療情報を提供する「メディカルはこだて」の編集長雑記。

函館で地域限定の医療・介護雑誌を発刊している超零細出版社「メディカルはこだて」編集長の孤軍奮闘よれよれ・ときどき山便り。

キリストの墓

2023年09月24日 09時05分45秒 | 新聞コラム
北海道新聞みなみ風の「立待岬」。
9月22日掲載のタイトルは、「キリストの墓」



 青森県八戸市から十和田湖に向かう国道454号をJR八戸駅から1時間ほど進む。同県新郷村の「キリストの里公園」を訪れたのは真夏の日曜日。駐車場から上り坂を歩くと汗が吹き出してきた。目指すキリストの墓は小高い丘の上にあった。
 ゴルゴダの丘で処刑されたはずのキリストがひそかに日本に渡り新郷村に住んでいた。この荒唐無稽な仮説は、1935年(昭和10年)、宗教家・竹内巨麿が、家に伝わる「竹内文書」に書かれていると主張。文書に基づいて竹内らが新郷村を訪れた際にキリストの墓を発見したという。
 竹内文書は偽書とされたが、村とキリストとの関わりを示唆する事例は少なくない。盆踊り唄の歌詞「ナニャドヤラ」はヘブライ語に関係するという説。墓を守ってきた沢口家の家紋はダビデ(ユダヤ王)の星形によく似ている。生まれて間もない子どもを初めて外に出す時は額に墨で十字を書く習わしなどだ。
 ミステリーには新たな謎も追加された。東日本大震災後に十和田湖の神代ヶ浦と呼ばれる場所に崖崩れが発生、そこに現れた石仏がキリスト像のようだと話題になる。湖の対岸には礼拝堂があるが、キリストの墓とキリスト像、そして礼拝堂とは一直線に並んでいる。
 神秘の村は偽書やオカルトブームに関係なく風習を守り続けている。人気の「キリストラーメン」は梅干し入りの醤油味でおいしかった。(メディカルはこだて発行人・編集人)


キリストの里公園にある「キリストの墓」
手前がキリスト墓で、奥が弟のイスキリの墓。
キリストはゴルゴダの丘で処刑されたことになっているが、実は弟のイスキリを身代わりにして日本に渡来し、その後ここで亡くなり、葬られたのだという。


キリストの里 伝承館
キリスト渡来伝説の発端となった「竹内文書」の謎から、墓発見に至るまでの資料が展示されている。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない

2023年09月02日 16時33分14秒 | 読書
「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」。心に深くしみこんでくるタイトルです。行方不明となった心はどこに行ってしまったのか。
本書は、心が見つからない夜、迷子になったあなたを助けてくれる1冊だ。
著者の東畑開人(とうはたかいと)さんは臨床心理士・公認心理師で、精神科クリニックでの勤務や十文字学園女子大学で准教授を経て、現在は白金高輪カウンセリングルームを開業、現代人の心の問題に向き合ってきた。
「僕らは今、無数の小舟がふわふわと浮遊している世界で生きている。それぞれの小舟は、ときにくっついたり、ときに離れたりするけど、本質的にはポツンと放り出されている」。東畑さんは、これがこの本の原風景として話を始める。さあ、これから、東畑さんとあなたは夜の航海に出立する。そういうとき、サポートとなるものが二つある。一つ目は心の処方箋で、それはあなたが行くべき航路を照らす灯台となる。もう一つは心の補助線で、それはあなたとその周囲を照らす懐中電灯だ。どちらが必要であるかは、ケース・バイ・ケース。今、あなたに必要なのは処方箋なのか、補助線なのか。「どうでしょうか。少し考えてみてもらえませんか?」と東畑さんは問いかける。
夜の航海をサポートするための心の補助線とはどういうものか。補助線とは複雑な図形を複雑なままに扱うための技術。たとえば、いびつな五角形の面積を求める場合、そのままではどこからどう手を付けていいかわからない。ところが、補助線を引くと、それが三角形と四角形の組み合わせであることが見えてくる。
三角形の面積と四角形の面積をそれぞれに求めて、足し算をすれば、いびつな五角形の面積がわかる。複雑なものを一度シンプルな形へと分割して、再びそれらを結び付ける。これが補助線の役割である。心の補助線も同じことをするそうだ。それは複雑な心を複雑なままに扱う技術だという。
アナウンサーの有働由美子さんは本書の書評の中で、「仕事をしていると、気が紛れます」という四十代後半の女性の話は、身につまされる物語だったと書いている。自分のことは自分が一番知っていて、コントロールできていると思い込んでいること自体が大きな苦しみだったのかと、クライエントと先生の会話を読みながら気付いたそうだ。「それぞれの物語を、先生と同時スタートで一から体験する。一体どんな患者さんなのかを一緒に読み手が探っていく。心が重い方、苦しい方はもちろんだが、私のようになんとなくしんどいという方にこそ読んでいただきたい一冊です」


「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(新潮社)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする