この美しいご婦人方は、何のグループなのだろう。お揃いの黒のパンツで勢ぞろいし、先住民芸術の前で記念撮影に興じている。ここはバンクーバー・スタンレーパークのトーテムポール広場。この地には、遥か昔ベーリング地峡を経てアジアからやって来たファースト・ネーションやイヌイットの長い生活があるのだが、ヨーロッパ文明が進出して来たのは17世紀になってからだ。建国は1867年、実に若い国だ。
おばさま方はヨーロッパ系白人の子孫なのだろう。バンクーバー近郊で育ち、久しぶりに同級生が集まって、昔、遠足を楽しんだスタンレー公園にやって来た、というのは私の推測。カナダの白人の半数はイギリス系とフランス系だというが、アイルランドやドイツ、イタリアなどとともに、ウクライナ系も多いのだそうだ。おばさま方の美しさは、こうした国々から移住して来た祖先の血が、様々に混じった結果なのだろう。
誰もがそうだろうが、幼いころ私は世界の国旗を見るのが好きだった。様々なデザインにその国情を想像し、地図で所在地を確認する。カナダの国旗はサトウカエデの葉をモチーフにしたメイプルリーフ旗と呼ばれる。世界でも出色のデザインだと思うけれど、私が幼いころに眺めていた旗とはどうも違うようだ。調べると、ユニオンジャックを含んだ国旗を1965年に変更したのだという。大英帝国から自立したのだ。
コロンブスが新大陸を「発見」したのは1492年。まずスペインが、そしてイギリス、フランスが新天地の富を求めて進出する。以後、北米植民地戦争、米英戦争などを経て、新大陸に国境が引かれて行く。米国政府による1890年のフロンティア消滅宣言まで、この大地は先住民の殺戮と、われがちに土地を奪い合う文明人の競い合いの場だった。凄まじい時代があったものだ。もはや地球上にそうした土地はない。
ただバンクーバー市民は、今では先住民と融合した暮らしを望み、先住民芸術には畏敬の念さえ抱いているように感じられる。巨大なトーテムポールが林立するスタンレーパークの広場にしても、博物館の先住民族コーナーにしても、「自分たちの浅い歴史のベースには、こうした長い文化の蓄積がある」ことを誇りにしている感があるのだ。そう思うのは私の思い込みかもしれないけれど、日本社会のアイヌへの思いより濃い。
ダウンタウンの中心部、高層ビルに埋もれる緑のオアシスを探してビル・リード・ギャラリーに行く。ビル・リード(1920-1998)はヨーロッパ系白人とカナダの先住民・ハイダ族との混血アーティストだそうで、伝統様式を受け継ぐ、カナダの代表的彫刻家らしい。大胆な造形と独特の色彩は、私には「エスキモーの世界」を連想させるが、そうした言い方は正確ではないらしい。遠くて寒い森の暮らしを想う。
ダウンタウンに結構多いギャラリーも、目玉の作品として先住民アートを並べている。よく売れるのだろう。しかし実を言うと私は、この造形は苦手である。面白くはあるが私の美意識とは溶け合わない。どうやら私は、ベーリング海峡を越える集団には加わらず、ユーラシアに留まったDNAの末裔なのだろう。バンクーバーに来て、距離の近さに驚きながらも、「やはりカナダは遠い」と噛み締めるのである。(2019.6.24-28)
おばさま方はヨーロッパ系白人の子孫なのだろう。バンクーバー近郊で育ち、久しぶりに同級生が集まって、昔、遠足を楽しんだスタンレー公園にやって来た、というのは私の推測。カナダの白人の半数はイギリス系とフランス系だというが、アイルランドやドイツ、イタリアなどとともに、ウクライナ系も多いのだそうだ。おばさま方の美しさは、こうした国々から移住して来た祖先の血が、様々に混じった結果なのだろう。
誰もがそうだろうが、幼いころ私は世界の国旗を見るのが好きだった。様々なデザインにその国情を想像し、地図で所在地を確認する。カナダの国旗はサトウカエデの葉をモチーフにしたメイプルリーフ旗と呼ばれる。世界でも出色のデザインだと思うけれど、私が幼いころに眺めていた旗とはどうも違うようだ。調べると、ユニオンジャックを含んだ国旗を1965年に変更したのだという。大英帝国から自立したのだ。
コロンブスが新大陸を「発見」したのは1492年。まずスペインが、そしてイギリス、フランスが新天地の富を求めて進出する。以後、北米植民地戦争、米英戦争などを経て、新大陸に国境が引かれて行く。米国政府による1890年のフロンティア消滅宣言まで、この大地は先住民の殺戮と、われがちに土地を奪い合う文明人の競い合いの場だった。凄まじい時代があったものだ。もはや地球上にそうした土地はない。
ただバンクーバー市民は、今では先住民と融合した暮らしを望み、先住民芸術には畏敬の念さえ抱いているように感じられる。巨大なトーテムポールが林立するスタンレーパークの広場にしても、博物館の先住民族コーナーにしても、「自分たちの浅い歴史のベースには、こうした長い文化の蓄積がある」ことを誇りにしている感があるのだ。そう思うのは私の思い込みかもしれないけれど、日本社会のアイヌへの思いより濃い。
ダウンタウンの中心部、高層ビルに埋もれる緑のオアシスを探してビル・リード・ギャラリーに行く。ビル・リード(1920-1998)はヨーロッパ系白人とカナダの先住民・ハイダ族との混血アーティストだそうで、伝統様式を受け継ぐ、カナダの代表的彫刻家らしい。大胆な造形と独特の色彩は、私には「エスキモーの世界」を連想させるが、そうした言い方は正確ではないらしい。遠くて寒い森の暮らしを想う。
ダウンタウンに結構多いギャラリーも、目玉の作品として先住民アートを並べている。よく売れるのだろう。しかし実を言うと私は、この造形は苦手である。面白くはあるが私の美意識とは溶け合わない。どうやら私は、ベーリング海峡を越える集団には加わらず、ユーラシアに留まったDNAの末裔なのだろう。バンクーバーに来て、距離の近さに驚きながらも、「やはりカナダは遠い」と噛み締めるのである。(2019.6.24-28)
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