万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカ経済の“脱中国シフト”の政治的意図とは?

2018年04月02日 12時41分59秒 | アメリカ
【米輸入制限】米経済に“自爆”懸念 雇用喪失14万人超 ブッシュ政権の二の舞いも
 今般、アメリカが、海外から輸入する鉄鋼とアルミニウム製品に対して高額の関税を課した理由として、一般的には、大統領選挙遊説中からトランプ大統領が主張してきた“アメリカ・ファースト”、即ち、アメリカに雇用を取り戻す雇用政策の一環として説明されています。しかしながら、その背景には、国際情勢の変化を睨んだ政治的意図が隠されているようにも思えます。

 かつて、国際政治学の世界では、国家間の経済的な依存関係が戦争を抑止し、平和をもたらすとする相互依存論が一世を風靡しました。ジャパン・ハンドラーの一人ともされたジョセフ・ナイ教授などがその代表的な論者でしたが、米中経済関係の現状は、まさに、分ち難い相互依存関係が成立しているように見えます。米企業が中国国内で製造したものであれ、安価な中国製品が大量にアメリカ市場に輸出されることで、中国は、貿易黒字大国となると共に、潤沢な外貨準備を背景に積極的な海外投資を実現し、国内の経済成長をも促すことができました。しかも、中国に製造拠点を構えた米企業や中国人留学生や研究者にも開放的なアメリカ国内の大学や研究所等から先端技術をも吸収できるのですから、中国経済の対米依存度はハイレベルです。一方、アメリカ側も、消費者は安価な中国製品を手にできますし、中国の貿易黒字がアメリカ国内への投資、あるいは、アメリカ製品の輸入代金として還流される限り、アメリカ経済を潤すことが期待されたのです。今般の関税引き上げでも、実際には、14万人もの雇用喪失となるアメリカの自爆行為であるとする試算もあり、米中相互依存関係を力説する向きもあります。もっとも、短期的には雇用喪失が上回るかもしれませんが、変化への対応力が高いアメリカ経済のことですので、時間が経つにつれイノベーションも起こり、中国製品の空白を埋めるかの如く、雨後の竹の子のように新たな製造方法や中国製品より安価、かつ、安全な製品が開発されるかもしれません。

 何れにしても、少なくともウィン・ウィンとなるプラス面のみを切り取れば、米中両国は持ちつ持たれつの経済的関係にあるとして説明されるのですが、こうした相互依存論を念頭に置くと、政治的観点からは、むしろ敢えて相互依存関係を解消させる選択肢があり得ることが理解されます。

何故ならば、今般、習主席独裁体制を固めた中国では、共産主義のイデオロギーの下で政治と経済がリンケージしており、このままアメリカ依存が継続されれば、国家戦略として経済力を軍事力に転用させた中国が、近い将来、アメリカの地位や安全をも脅かすことが予測されるからです。政経両面において凡そ100%のプラス率となる中国に対して、アメリカは、政経両面においてマイナス面が強く、特に安全保障面では凡そ100%のマイナスとなるわけですから、米中の相互依存関係の実態は、明らかに中国に有利です。どちらかと言えば、中国による対米依存の構図として描くことができますので、この一方的依存関係を断つことができれば、中国は、アメリカに挑戦する技術力も資金力も大幅に削がれるのです。

 トランプ大統領は、ビジネス界出身であるために、落としどころを見出す取引上手として見られてきましたが、案外、中国に対する政策変更の機敏さからは、経営危機や外部環境の変化に対して迅速な決断が下す辣腕経営者の顔をも覗かせているように思えます。おそらく知的財産権の侵害に対する対中制裁もこの文脈にあり、米中関係の抜本的な見直しと方向転換を意味する“脱中国シフト”には、近い将来における米中軍事衝突をも視野に入れた、中国に依存しない米国経済の再構築を急ぐトランプ政権の政治的な意図があるのではないでしょうか。

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