万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由貿易主義は日本にとって“勝てない戦い”では?

2018年04月18日 15時22分55秒 | 国際政治
 中国、車生産の外資制限撤廃へ 商機も
1941年12月8日における日米開戦に関しては、常々、“勝てない無謀な戦争”を戦ったと評されてきました。日米間の国力の差は歴然としており、軍事力や調達可能な物資等に関する客観的なデータに基づく分析では、圧倒的に日本国側が不利であり、長期戦となれば日本必敗と報告されていたからです。

 今日と当時とでは国際状況は違いますし、政治と経済を同一視するわけにもゆきませんが、日本国政府をはじめとした日本国内全般に見られる自由貿易主義への無批判な礼賛は、どこか、当時の決断の危うさと重なって見えます。何故ならば、世界大での自由貿易が拡大し、さらには単一のグローバル市場が誕生したとしても、規模の経済が働く限り、日本企業、否、日本経済が勝者となる見込みは極めて薄いからです(近い将来、グローバル・レベルで競争政策が強化され、巨大化した中国企業が分割されるとも思えない…)。

 国際通商史を振り返りますと、自由貿易体制の中心国となった国は、最初は保護主義で自国の産業を徹底的に守りつつ(幼稚産業の育成…)、産業育成で十分な国際競争力を付けた後、満を持して自由貿易主義へと舵を切り替えています。19世紀にあって、近代自由貿易体制の中心国となったイギリスは、14世紀から17世紀にかけては航海条例を幾度となく制定し、当時、海洋大国であったオランダ船を主要なターゲットとして、外国船籍貿易船の締め出しを行っています。第二次世界大戦後に、ブレトンウッズ体制の下で自由貿易体制の中心国となったアメリカも、産業の黎明期には積極的な保護主義政策を採っていました。

 今日、自由貿易体制の旗手として名乗りを挙げている中国も、過去の英米の通商戦略に倣っているのでしょう。中国の習近平国家主席は、今月10日に開かれたボーアオ・アジアフォーラムにおいて、金融等を含む各種分野において自国の海外市場開放を前倒しで実施する方針を表明しています。この方針の表明は、マスメディアやグローバル・エリートと称される人々からは称賛を受けておりますが、中国が規制撤廃に踏み切ったのは、同国が、自由貿易主義体制にあって勝者となる確信を得ている証でもあります。言い換えますと、イギリスやアメリカと同様に、勝者となる国のみが自発的に自由貿易主義を唱えることができるのです。

 例えば、市場開放政策の一環として、自動車市場における外資規制の撤廃が公表されていますが、この政策は、中国が上海汽車集団や浙江吉利控股集団といった自国の企業がグローバル市場を席巻するためのステップなのかもしれません。中国市場では、従来のモーター方式では劣位となるため、国策によってEV化が決定されており、外資規制が撤廃されたとしてもEV技術にあって必ずしも優位な立場にはない日本のメーカーの恩恵は薄く、むしろ、EV車のグローバル・スタンダード化によって、政府の後押しでEV技術において優位となった中国メーカーの日本市場を含むグローバル市場でのチャンスを広げる結果をも招きかねません。実際に、既に浙江吉利控股集団はボルボ・カーを買収し、上海汽車集団もダイムラーの筆頭株主となっており、EU内の自動車メーカーは、相次いで中国企業の傘下入りしています(もの、サービス、資本、人の移動自由化を原則として成立したEUには、中国の自由化要求に対する抵抗力がない…)。

 中国との間の技術差が縮小し、分野によっては中国が先行する今日、規模に優る企業に勝利を約束する自由貿易主義にあって、果たして、日本企業は、生き残ることができるのでしょうか(因みに、戦前の中国の主要な対日戦略は大陸奥深くに日本軍を引き込み、退路を断って撃破するというもの…)。識者のみならず、AIに問うてみても、‘必敗’という回答が出されるならば、敗戦を覚悟してでも大義のために闘ったとも言える戦前の判断よりも、自由貿易主義に身を投じる今日の日本国の判断は、相当に無謀、かつ、非合理的に思えるのです。

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