万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

金正恩委員長の‘巻き込み作戦’に裏はあるのか?

2018年04月16日 15時54分21秒 | 国際政治
習氏、早期訪朝か…正恩氏と共産党幹部が会談
 昨晩、NHKスペシャルにおいて「金正恩の野望・第一集恐怖の暴君か戦略家か」と題する番組が放送されました。全てを視聴したわけではないのですが、同番組の最後の部分にあって、大変興味深い分析が紹介されております。

 おそらく、戦略家としての側面を強調するために収録されたのでしょうが、その分析とは、今般の北朝鮮危機における金正恩委員長の“巻き込み作戦”に関するものです。記憶が定かではなく正確ではないかもしれませんが、その分析の趣旨は、“金委員長は、最大限に危機を高め、戦争寸前までもってきたところで、一気に全世界を巻き込んで平和裏に問題を解決する”というものです。こうした手法は、北朝鮮が得意としてきた瀬戸際作戦の一種と言えそうです。

 仮に、“巻き込み作戦”の基本路線に従って北朝鮮が行動しているとすれば、今般の北朝鮮危機にあっても、金委員長は、世界を朝鮮半島問題に巻き込むタイミングを計って核やミサイル実験を強行したこととなります。つまり、北朝鮮には本気でアメリカ本土をICBM等で核攻撃する意思はなく、自らにとって好都合となる条件を勝ち取るための対米脅迫手段として危機を演出したと解されます。アメリカを交渉の場に引き出し、最終的に‘朝鮮半島を非核化’=米韓同盟の終了が実現するならば、北朝鮮としては、核・ミサイル開発は“大成功”となりましょう。

 しかしながら、同作戦の存在が国際社会に知られてしまいますと、その効果は半減するどころか、北朝鮮側に自らを滅亡に導きかねないリスクが生じます。何故ならば、北朝鮮の策略に気が付いたアメリカは、同国が要望する‘朝鮮半島の非核化’には断固として応じないでしょうし、否、国際法に反する武力による威嚇に及んだのですから、軍事制裁も辞さないことでしょう。結局、危機の演出によって北朝鮮は得るものはなく、同作戦は失敗に帰するのです。

 もっとも、北朝鮮寄りのスタンスの目立つNHKが、あえて同国の“巻き込み作戦”を報じたのには、北朝鮮側の意向が反映されていた可能性もあります。その意向とは、同作戦が“ばれ”て‘朝鮮半島の非核化’が実現しなくとも、北朝鮮の核・ミサイル開発・保有の真の目的は、“平和=朝鮮半島問題の交渉による解決”であるとする印象を、日本国内を始め諸外国に擦り込むことです。この推測に基づけば、米英仏のシリア攻撃に焦りを感じた北朝鮮は、米朝首脳会談に先立ち、既に“言い訳モード”に移行しており、同会談の席では、米軍による軍事制裁を回避すべく、同作戦の説明を以ってアメリカに“理解”を求める算段なのかもしれません。“本気ではなかった”と…。先日の金委員長と中国の高官との会談にあって、習近平主席の訪朝も議題に上ったそうですが、‘巻き込み作戦’の一環に見えながらも、これも、アメリカから理解を得られなかった場合に時間稼ぎに利用すると共に、‘保険’をかけようとしたのかもしれません。

 NHKが報じた‘巻き込み作戦’は、最終局面では戦争から和解へと180度転換するのですから、如何にも華々しく、平和の美名に隠れて勢力拡大を図りたい中国や北朝鮮が好みそうな戦略です。また、北朝鮮の本心は、アメリカを騙してでも核保有国の立場に伸し上がり、アメリカや周辺諸国を恐喝する手段を保持するとともに、通常兵器において劣る北朝鮮が、核保有によって軍事バランスを逆転させることにあったのでしょう(一方の中国は、対北警戒論から北朝鮮の核放棄を望んでいる…)。対米交渉の脅迫手段と実戦配備の両面から核・ミサイル開発・保有を急いだのが、近年の北朝鮮の実像に近いのではないでしょうか。何れにしましても、NHKの報道には裏がある可能性もあり、その制作意図を慎重に見極める必要がありそうです。

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