万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

財務次官セクハラ辞任事件―侃々諤々の日本の言論空間は健全なのかも

2018年04月25日 15時11分19秒 | 日本政治
竹下氏「財務相辞めるのも一つ」 次官のセクハラ疑惑で責任論言及
 週刊新潮に報じられた財務事務次官のセクハラ発言は、次官の辞任によって幕引きとはならず、現在、マスメディアやネットにおいて議論が続いております。同次官は名誉棄損の廉で訴訟を起こす準備中とのことですが、この事件、様々な憶測や推理が飛び交っているところを見ますと、日本国の言論空間が、案外、健全であることを示しているのかもしれません。

 第一の主張は、この事件は、純粋に個人間の問題であり、財務次官の発言は、女性に対する差別的なセクハラであり、かつ、その地位を利用したパワハラである、とするものです。この説では、被害者は、同次官を取材したテレビ朝日の女性記者であり、加害者の立場にあるのは、同次官と対処を怠ったテレビ朝日の両者です。被害者の女性は、自らの判断によって世に被害を訴えるべく、週刊新潮社に情報をリークしたことになります。

 第二の推測は、テレビ朝日が意図的に女性に取材を命じることで、同次官に対してハニートラップを仕掛けたのではないか、とする疑いです。この推測は、しばしば財務次官擁護論と称されますが、同事件を冷静に眺めて見ますと、確かに、不審な点を見出すことができます。男性記者を担当とせずに女性記者を選んでいますし(容姿端麗のきれいな方なのでは…)、セクハラ被害を訴えても適切な対応を採っておりません。この説に従えば、被害者は同次官(もっとも、国民のために国家の財務を預かる財務次官が易々とハニートラップに嵌められたのは大問題…)、並びに、社からハニートラップを強要された女性記者であり、加害者は、テレビ朝日となります。あるいは、テレビ朝日は、自らの手を汚すことなく同次官を辞任に追い込むために、女性記者に対して他者への情報リークを指示した可能性も否定はできません。

 第三にあり得るシナリオは、世界大で拡大中のMe Too運動の起爆剤として、同事件が仕組まれた、あるいは、利用されたとするものです。近年、アメリカの映画界やイギリスの政界などにおいて同様の事件が発生しており、同様の被害を受けた女性達が名乗りを上げる運動が広がっています。日本国では、海外での出来事として報じられつつも、然したる関心は寄せられておりませんでしたが、本事件を切っ掛けとして、Me Too運動に参加する女性達が続々と登場しています。この見立てでは、Me Too運動に共鳴した女性記者が個人的、あるいは、組織の支援を受けて行動したこととなり、自らが勤めるテレビ朝日ではなく、週刊新潮にリークした理由も説明がつきます。このシナリオですと、次官、朝日新聞社、並びに、女性記者の三者にあって被害者と加害者の立場が判然とせず、三者とも被害者であって加害者である三つ巴の構図ともなります。

 以上にネット上などで散見される主要な意見を述べてきましたが(第三のシナリオについてはオリジナル…)、何れの見解にも一長一短があり、真相は未だに藪の中です。様々な可能性がある段階にあって、一つの意見に流されることなく、また、糾弾一辺倒となることもなく、議論が湧くのは日本国の言論空間が比較的自由である証でもあります。そして、これらの他にも、(1)取材のモラル、(2)政府高官の品位、(3)主観に基づくセクハラ認定の是非、(4)罪刑法定主義からの逸脱(退職金等を懲罰として不払いとするならば法的根拠が必要…)、(5)セクハラ等を利用した政治的粛清のリスク、(6)セクハラ防止策としての女性の活動制限の是非、(7)デリカシーのない無自覚な男性の問題…等々、本事件が提起する問題は数限りがありません。本事件は、男性であれ、女性であれ、より善い日本の社会を築くために議論する契機として活かしてゆくべきなのではないかと思うのです。

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コメント (10)
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