万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政府による‘タブー化’の問題

2023年02月28日 11時12分06秒 | 社会
 現代という時代は、情報化時代とも称されています。インターネットやIT等の普及により、人々の活動空間や生活空間はデジタル情報で溢れています。情報量が爆発的に増え、人々が様々な情報を入手しやすくなる一方で、昨今、新たな問題が持ち上がることともなりました。

 大手メディアの情報とネット情報が異なる場合でも、それが、両者とも民間の範囲に留まっているのであれば、たとえ内容が真逆であったとしても、それぞれ根拠や証拠を示して自らの正しさを主張することができます。大手側が有利ではあるのでしょうが、それでも、多くの人々が自発的に検証作業に参加したことで、虚実が判明することもあります。しかしながら、政府といった権力や権威が関わりますと、どうでしょうか。これらによる介入や圧力がありますと、公開性や客観的な検証性は著しく損なわれます。ここに、情報の問題は、情報統制という政治問題へと行き着くことになります。

 古今東西を問わず、為政者の多くは、情報統制や管理を支配の手段としてきました。権力や権威を保持するためには、国民に対して自らに関するマイナス情報を伏せておく必要があるからです。何れの国であれ、国民からの批判や民心の離反、そして忠誠心の消滅は、為政者の地位を危うくするのです。このため、情報統制が効果的な支配の手段となるには、国民の心理にまで及ぶ強い圧迫をかける必要がありました。つまり、為政者への批判を、社会全体を覆うタブーとしてしまえば、権力や権威は安泰であったのです。悪しき為政者であればあるほど、国民の間に自己規制の空気を醸し出すタブー化を渇望したことでしょう。

一方、今日の民主主義体制の国家では、言論や出版等を含む表現の自由が保障されていますので、原則としては、どのような情報であっても一先ずは公開することができます。しかしながら、多かれ少なかれ、タブーなるものが存在する国は少なくありません。タブーの問題は、アメリカでは、ポリティカル・コレクトネスとして表出していますし、日本国でも、タブーとして幾つかの‘カーテン’、例えば、‘菊のカーテン’、‘鶴のカーテン’、‘桜のカーテン’等があるとされています。いずれのカーテンもが、政治性を帯びたタブーです。

こうした定番の‘タブー’のみならず、昨今の状況を見ておりますと、政府によるタブー化のケースが相次いでおり、国民を誤った判断に導いている事例が後を絶たないように思われます。特に、ワクチン問題はその最たる事例であり、極めて強い政治的圧力が社会全体にかかったことは、多くの人々が感じたことではなかったかと思います。政府のみならず、国民全体に同調圧力が働くように、マスメディアのみならず新興宗教団体を含むあらゆる下部組織が総動員された観もありました。ワクチンリスクについては、政府からの嫌がらせや周囲からのハラスメントにより、初期段階で認識していた専門家でさえ口に出すことが難しく、たとえ指摘したとしても信じるに足りない陰謀論として片付けられてしまう状況が続いてきたのです。政府は、リスク情報を隠蔽するのみならず、リスクの指摘をタブー化することにより、国民全体に思考停止の魔術をかけようとしたのでしょう。恐怖心を利用するのですから、タブー化とは、恐怖政治の手段の一つとも言えます。

現代のタブーなるものも‘政府主導’あるいは‘官製’であるならば、そのタブーは、今も昔と同じく、権力や権威のマイナス情報、即ち、悪しき面を隠すために造られたのでしょう(悪事の隠れ蓑・・・)。マイナス情報が存在しなければ、そもそもタブーを設ける必要などないのですから。このような政治的なタブーは、定番のものであれ、政策的な意図によるものであれ、ないほうが善いに決まっております。否、ワクチン問題のように、政府によるタブー化こそ、無辜の国民の多くに被害が及ぶ事態を招いていた元凶とも言えましょう。

情報は、人々が判断や評価を行なうに際しての基礎的な材料であり、かつ、民主主義国家では議論の共通の土台ともなります。情報の重要性に鑑みればこそ、できる限り事実に即した正確なものであるべきですし、とりわけ公的な情報は原則として全て隠さずに公開されるべきです。国民をリスクに晒すタブー化が二度と起きないようにするためには、法律によって政府に対する情報公開の義務づけを強化すると共に、現状にあっても、政府によるリスク情報の隠蔽は、政府の怠慢行為に対する行政訴訟として裁判所に提訴するという方法もあるように思うのです。

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