第二次世界大戦を引き起こしたアドルフ・ヒトラーが、ゲルマン民族優越主義を掲げて登場してきたことは、よく知られております。ところが、ヒトラー自身は、ゲルマン民族の特徴とされる金髪碧眼ではなく、本当のところはユダヤ系とする噂も絶えませんでした(ヒトラー自身が家系の調査を禁じたために余計に怪しまれたし、親族のDNA検査では中東系の配列も見られたとも・・・)。実際に、ナチス政権の高官には、ユダヤ系の人物が顔を揃えており、実に70%がユダヤ系であったともされています。
さらに、ヒトラーが率いた政党、ナチスの正式名称が、「国民社会主義ドイツ労働者党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei)」と邦訳されています。‘National’については解釈によって訳にも違いが生じますが、同党名には‘社会主義’や‘労働者’といった表現が含まれています。このため、一般的な理解では、ナチスは、共産主義と鋭く対峙する民族主義の右派政党なのですが、むしろナチスはその本質において共産党と同類ではないか、との疑問も呈されてきました(極右も極左も全体主義においては共通している・・・)。
これらの奇妙なちぐはぐさは、一体、何に由来しているのでしょうか。ここで、極右とは、極左と共に、世界支配を目的とした世界戦略の一環としての、国民動員のための偽旗作戦であったとする仮説を置いてみることとしましょう。そもそも、ナチスの前身とされるドイツ労働者党は、トゥーレ協会という秘密結社の会員であったジャーナリストのカール・ハラーを中心に設立されています。ヨーロッパ諸国では、政党というものが、カルト的な秘密結社を母体とし、しかも、複雑に枝分かれしているケースが見受けられます。例えば、トゥーレ協会はゲルマン騎士団の非公式のバイエルン支部であり、そのゲルマン騎士団には姉妹組織としてハンマー同盟があり、その背後には、新テンプル騎士団やリスト協会がある、といったように。フリーメイソンやイルミナティ等の暗躍により一般の‘民衆’をも革命に動員することに成功したフランス革命は、秘密結社式革命の成功体験となったのでしょう。
議会制民主主義の発展と軌を一にしたイギリスの政党政治に政党の典型を見てきた日本国では、政党とは基本的な政策方針を共にする合理的な政治団体と見なしがちであり、カルト的な側面については関心が払われてきませんでした。それ故に、今般、安部元首相暗殺事件を機に自民党と元統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係が明らかとなった際に、国民の多くは、‘あり得ない’、あるいは、‘あってはならない’こととして驚愕すると共に、強い嫌悪感を抱いたのでしょう。しかしながら、現実を直視しますと、日本国のみならず、アメリカやヨーロッパ諸国を含め政治の世界には秘密結社が蠢いており、そしてそれらは、一つの目的に向かって動いているようにも見えるのです。
その目的とは、先に仮説として示した世界支配、人類の徹底監視と非文明化を伴う全体主義体制の確立というものなのなでしょう(世界政府の形態であれ、分割統治の形態であれ・・・)。そして、この目的は、人々に知られることなく、密かに達成する必要があったはずです。真の目的を隠すという点においては、極右も極左も変わりはなく、何れもが、民衆には大多数の人々が願うような理想的なヴィジョンを先に掲げることで、自らの組織のために行動するように仕向けようとするのです(戦争への熱狂的な動員に導くという意味では、戦争恍惚師の役割・・・)。極左であれば、‘資本家による搾取なき平等社会’であり、極右であれば、‘優越民族による支配’を打ち出し、人々の心の奥に潜む自尊心をくすぐるといった手法です。何はともあれ、人々が自らの命を投げ出しても惜しくはないような目的を、自らの組織への支持を広げるための‘偽りの目的’として掲げるのです(自発性を引き出せれば大成功・・・)。
もっとも、‘真の目的’と‘偽りの目的’とは真逆の関係にありますので(メビウスの輪作戦)、自ずとあちらこちらから綻びが生じます。冒頭で述べたように、ナチスの場合には、明らかに非ゲルマン系の容貌であったヒトラーがゲルマン民族優越主義を唱えたという矛盾がありした。また、国民社会主義労働者党という名称も、数において多数となる労働者層の支持を得るための便宜上の命名であったかもしれません。民心を掴むことが重要であったのですから(ヒトラーは演説の訓練を受けていた・・・)。
そして、ナチスの思想的源流の一つがオーストリアにあるように、ゲルマン民族優越主義とは容易に国境を越える超国家的な性質を備えていました(ヒトラーは、大ドイツ主義を唱えてオーストリアを併合・・・)。さらには、ゲルマン民族のみならず、‘アーリア民族’という表現も用いられた点を考えますと、ドイツ、あるいは、ドイツ系国家という国家の枠組みを超える思想的根拠をも準備していたのかもしれません。最終的には、人種間闘争に持ち込めますし、侵略を正当化する理論としても利用することができるからです。
今日の世界を見ますと、新興宗教団体などの組織も大衆扇動装置として‘秘密結社’の役割を担っているように思えます。朝鮮半島を本拠地とする元統一教会はその最たる事例であり、こうした組織の多くは、おそらく、欧米の秘密結社と同様に世界権力の下部組織としてネットワークで繋がっているのでしょう(イエズス会や各国の極右、あるいは、政党なども含まれる・・・)。二度と同じ轍を踏まないためにも、世界支配の構造を理解した上で、持ち上げられるだけ持ち上げておきながら、結局はドイツ人を絶望の淵に突き落としたナチスの事例は、第三次世界大戦、あるいは、世界レベルでの全体主義体制の成立を未然に防ぐためにも、歴史の教訓とすべきではないかと思うのです。