万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

謎多き安部元首相暗殺事件-奇妙な裁判に?

2023年03月15日 12時17分24秒 | 日本政治
 昨年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前での応援演説中に安部晋三元首相が凶弾に斃れた事件は、元統一教会(世界平和統一家庭連合)に恨みを抱く山上徹也容疑者による犯行とされてきました。同容疑者本人も自らの罪を認めており、今年の2月3日には殺人罪等で起訴されています。しかしながら、二度に亘り週刊文春が山上犯人説に疑義を呈する記事を掲載しております。

 事件発生当初から、山上容疑者犯人説についてこれを疑う指摘がありました。その理由は、物理的に不可能ではないか、という疑問があったからです。3Dプリンターを用いた手造りとはいえ、一度に6発もの銃弾を発射できる銃によって至近距離から狙撃されれば、安部元首相は、画像で報じられたような姿ではなかったはずです(銃創はかなり酷い損傷らしい・・・)。また、元首相の傍に居た大勢の人々も、聴衆を含めてかすり傷一つ負っていません。こうした数々の不審点から、西大寺駅前にあるサンワシティ西大寺ビルの屋上からスナイパーによって暗殺されたのではないか、とする説が囁かれることとなったのです。しかも、安部元首相の命を奪った銃弾は極めて極小であり、体内で消える特殊な素材で造られていたともされます(殆ど出血がなかった点についても合理的な説明が付く・・・)。

 こうした科学的見地からの疑問のみならず、同事件に関する周囲の動きにも不自然さが目立っていました。狙撃されたにも拘わらず、人工マッサージが試みられたり、奈良県立医科大学附属病院への搬送にドクター・ヘリが使われ、必要以上の時間を要したり、病院と警察との間で銃創と銃弾の数等について食い違いがあったり、あるいは、狙撃現場のクライシス・シアターの存在も指摘されるなど、どこか、辻褄の合わない事ばかりが続いていました。しかも、犯人とされた山上容疑者は、襲撃の動機は元統一教会への復讐であったと述べており、新興宗教がらみの様相も呈してきたのです。

 おそらく、国民の多くも、背景となる真犯人の存在に薄々気がついており、それ故に、週刊誌の報道にもそれ程意外には感じなかったかもしれません。‘やはり・・・’という感の方が強かったのではないでしょうか。当時は、上述したスナイパー説も、‘陰謀論’としてかき消されてしまいましたが、コロナ・ワクチンを含め、今日では、陰謀論として否定されてきた事柄の多くが、事実であったことが判明してきており、安部元首相の一件も、振り出しに戻ってしまったのです。

 それでは、一体、真犯人は誰なのでしょうか。少なくとも、山上容疑者は、たとえ騙されていたとしても、共犯者であるがゆえの何らかの情報を持っているはずです。山上容疑者を7月8日に事件現場に向かわせ、手製の銃による襲撃の‘演出’に駆り立てた、あるいは、狙撃の‘演出’を命じた存在がいなければ、同事件は成り立たないからです。また、真の実行犯は、高度な狙撃技術を有するスナイパーとなりますので、組織的な背景の存在も凡そ確定します。言い換えますと、まずもって事件解明の鍵を握っているのは、山上容疑者となりましょう。可能性としては、(1)元統一教会と対立する教団等から計画を持ちかけられた、(2)敵対関係を装いつつ、元統一教会とは共犯関係にあった、(3)安部元首相の存在を障害と見なす内外の政治勢力から協力の依頼を受けた・・・などが考えられます。政治家の暗殺となれば(3)の可能性が高いように思えますが、近年の報道からしますと、安部元首相、自民党、並びにその支持団体である元統一教会は、保守とは言い難く、偽旗作戦を遂行していた節があります。このため、同元首相を悲劇の愛国者と見なすことにも無理があり(逆に、山上容疑者を英雄視する人々も・・・)、暗殺の動機となる政治的背景については、慎重に見極める必要もありましょう。

 事件現場では奈良県警はあっさりと現場検証を終えてしまいましたし、奈良地検も山上容疑者の自白内容を全面的に認めて起訴しています。日本国政府も含め、公的機関は、山上容疑者犯人説のシナリオに従って手続きを粛々と進めてゆくことでしょう。このままでは、真相は闇に葬られる可能性も高いのですが、一つ、事件解明のチャンスがあるとしますと、それは、裁判員裁判です。報道に依りますと、山上容疑者の裁判は、国民の中から抽選で選ばれた裁判員が裁判に参加する裁判員裁判に付されるそうなのです。

 裁判での論点は、山上容疑者の刑事責任能力ではないかとする報道もありますが、犯人山上説が揺らいでいるとしますと、そもそも山上容疑者は殺人の罪を犯したのか、という事実認定において根本的な疑いが生じます。裁判員の多くも山上容疑者の供述に不審な点や矛盾点を見出すかもしれませんし、検察による尋問にも物足りなさを感じるかもしれません。となりますと、同裁判員裁判は、有罪判決を勝ちとって事件を山上犯人説で決着させたい被告・検察側と、事件の真相究明を求める裁判員側(国民)が対峙するという、奇妙な構図となることも予測されます(なお、裁判官も裁判員と同様の疑問を抱くかもしれない・・・)。

ケネディ大統領暗殺事件では、犯人とされたオズワルドもまた殺害されたため、法廷の被告席に座ることはありませんでしたが、山上容疑者は、同事件のキーパーソンです。安部元首相暗殺事件を陰謀論の世界から引き出し、国民が事実を知る上でも、同事件の裁判員裁判は、極めて重要な役割を担うこととなりましょう。そして、同裁判は、今日の日本国における司法の独立性を示す意味においても重要であると思うのです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする