万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘コオロギ食’擁護論批判への反論は論点を‘ずら’している?

2023年03月13日 13時43分40秒 | 国際政治
 2023年3月6日付けてJBpressのウェブ記事として掲載された青柳陽一郎氏の「「コオロギ食」への差別行為が横行、嫌なら食べなきゃいいだけなのになぜ」と題する記事が、読者からの批判を浴びて炎上する事態に至ったそうです。同記事に対する批判の大半は、コオロギ食推進を擁護する姿勢に向けられているのですが、自らの記事へのバッシングには青柳氏も黙っていなかったようです。本日は、「私の「コオロギ食」記事を炎上させた人に問う「本当に記事を読んでいるか?」」という記事で反撃を開始しています。

 本日の反論記事を読みますと、名誉毀損罪に訴える構えを見せており、怒り心頭に発している同氏の様子が伺えます。‘いい加減に私の記事を斜め読みし、事実も確認せずに批判するのは許せない。私の評価と名誉を傷つけている!’と・・・。確かに、同記事に寄せられた批判の中には、暴言や誹謗中傷の類もあるのでしょう。いなごを食する長野が出身でもある同氏が抱く不快感は理解できないわけではないのですが、この反論、どこか論点が‘づれ’ており、火に油となりかねないようにも思えます。

 まずもって同氏は、自らの批判の多くは、虚偽やでっち上げの情報に基づいているとして、その誤りを指摘しております。例えば、コオロギ食に6兆円もの公的資金が投入されており、昆虫食ビジネスに補助金が支給されているとする情報については、農林水産省への問い合わせによって否定しております。対応した担当部署の「新事業・食品産業部 フードテック官民協議会事務局担当」の返答は、「昆虫食に限った補助金は特にない」であったそうです(補助金が存在しないなら、牛乳廃棄問題とも関係はないとする論法・・・)。しかしながら、この表現では、昆虫食も補助金の対象に含まれていることを暗示しています。担当者の返答は、「昆虫食は補助金の対象ではない」ではないからです。しかも、今年度から、飼料用の昆虫飼育事業に補助金が支給されているのは事実なそうですので、批判の根拠とされた同情報は、‘当たらずとも遠からず’ということになりましょう。

 また、青柳氏の問い合わせ先が農林水産省、しかも、一つの部署のみであったことにも、反論の根拠としての‘緩さ’があります。何故ならば、昆虫食ビジネスについては農水省が主たる管轄官庁なのでしょうが、大学や研究機関が昆虫食について研究する場合には、文部科学省の管轄となるからです。このため、昆虫食研究に対して科研費が支給されている可能性もあります。文科省の他にも経産省等も関わっているかもしれず、関連が推測される全ての省庁、並びに、地方自治体に問い合わせを行なわなければ、同情報の真偽を判断することはできないのです。

 加えて、同氏は、徳島県におけるコオロギ食の給食提供情報についても、事実とは異なるとして憤慨しています。給食としてコオロギ食が全員に供されたのではなく、同氏が説明するように、実際には希望者のみの試食であったのでしょう。この点は、同氏の指摘を認めるべきなのでしょうが、コオロギ食に反対する人々が、何故、給食に強く拒否反応を示したのか、この点については、理解すべきであったかもしれません。コオロギといった昆虫が食材として認められますと、給食の食材としても使われ、およそ強制的に食さざるを得なくなるからです。‘昆虫食先進地域’であるEUでは、2021年5月3日に、新規食品として乾燥イエロー・ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)の販売を許可しています(日本語名にすると余計に気持ち悪さが増してしまう・・・)。今後、日本国内でもコオロギであれ、何であれ、食材として昆虫が承認されれば、SDGsの美名の元で、積極的に学校給食に採用されるものと予測されます。今般の給食騒ぎは、未来を先取りした批判であったとも言えましょう。給食ともなりますと、‘嫌なら食べなきゃいいだけ’とも言えなくなってきます(食糧難や飢餓状態も同様・・・)。

 日本国政府がムーショット計画の一環として『地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料生産システムの開発』を進めていることは青柳氏も認める事実ですし、河野太郎デジタル相がコオロギを試食して昆虫食の宣伝塔となったことも事実です。こうした政治サイドからの不自然な‘昆虫食推し’は、ダボス会議にも象徴される世界権力の意向を抜きにしての説明は困難です。そして、青柳氏が名誉毀損を声高に訴える時、そこには、コオロギ食批判を自身への個人的な批判、すなわち、個人の問題に矮小化させてしまおうとする意図も読み取れるのです。真剣に議論すべきは、昆虫食の是非にあるにも拘わらず・・・。

 かつて、フランス革命にあって断頭台の露と消えたフランス王妃マリー・アントワネットは、「パンがなければお菓子を食べれば良い」と述べたことから、民衆の怒りを買ったとされますが(史実は別の人物の発言であったらしい・・・)、今般の昆虫食は、高みからまるで「パンがなければ虫を食べれば良い」と言われているようにも聞こえます。前者は閉じられた狭い世界に生きていたがゆえの無神経さからの発言かもしれませんが、昆虫食の普及を推進している勢力には、善意を装った悪意があるように思えます。善意からであれば、パンがなければ、現代の先端的なテクノロジーを駆使してでも、より安全でおいしいものを食べられるように提言したはずなのではないかと思うのです。

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韓国の‘元徴用工問題の解決方法’が標準モデル化すると?

2023年03月13日 13時38分51秒 | 国際政治
 先日、韓国政府が公表した「元徴用工問題」の解決策については、対中政策の一環として日韓関係の改善を急ぐアメリカの思惑があったとする指摘があります。この説を裏付けるかのように、同解決策が公表された直後に、バイデン大統領も歓迎の意を示しています。しかしながら、この解決策、仮に、‘植民地支配’に関する賠償請求問題を解決する標準モデルとされた場合、アメリカ自身にも返ってくるのではないでしょうか。何故ならば、同解決策には、日本国による朝鮮半島の統治を‘植民地支配’とする大前提があるからです。

 法的な側面からしますと、日本国による朝鮮半島の統治は、1910年8月22日に締結された韓国併合条約を根拠としています。日本国は、清国やロシア帝国とは戦いましたが、李氏朝鮮(大韓帝国)と戦争に至った歴史はなく、武力による併合ではないことだけは明白です。列強が勢力圏争いを繰り広げた当時の時代状況を背景に、対露政策の必要性から保護国から併合へと歩を進めたのであり、その手法も、たとえ当時の朝鮮半島の人々の意には沿わないものであったとしても、一先ずは‘平和的’であったと言えましょう。しかも、李氏朝鮮の莫大な債務を肩代わりした上に、朝鮮統治のおよそ全期間において財政移転も行い、莫大な投資を実施してきたのですから、日本国は一方的な利得者でも搾取者でもありませんでした(併合で得をしたのは、韓国のデフォルトによる損失を免れた国際金融・財閥勢力であったのでは・・・)。この側面は、仮に、将来において朝鮮半島の南北両国が統一された場合の、韓国側の財政負担額を推計してみますと、よく理解できます。低開発状態にある地域を発展させるためには、官民あげての莫大な投資や支援を要するのですから。

 条約の存在のみならず、その実態についても当時の行政文書等でも確認し得る歴史的な事実があるからこそ、日本国による朝鮮統治は搾取的な植民地支配とは言いがたく、国際法にあっても合法性を主張し得たのでしょう。実際に、1965年6月22日に署名され、今日に至るまで日韓関係の基礎とされてきた「日韓基本関係条約」にあっても、その第2条には、韓国併合条約について「もはや無効であることが確認される」とあります。あくまでも‘かつて有効であったものが今や無効となった’とする立場の表現であり、日本国政府のみならず、当事の韓国政府も併合条約の効力については認めており、‘違法’とは見なしていないのです。韓国のケースは、第二次世界大戦並びに朝鮮戦争を引き起こした冷戦構造にあって、好条件で日本国との間に基本条約及び請求権協定を締結し得た例外的な事例です。逆に旧宗主国に対してインフラ等の譲渡料を支払った国も少なくないのですから。

 このように、日本国の朝鮮半島統治は、比較的穏やかではあったのですが(同君連合でもあったオーストリアとハンガリーとの関係に近い・・・)、イギリス、フランス、オランダ、そしてアメリカの植民地支配が過酷であったことは、様々な史料により明らかです。植民地化の手法も、王族の取り込み、内部工作、内乱への介入のみならず、直接的な武力行使、あるいは、武力による威嚇もありました(もっとも、その実態は、国家による植民地支配と言うよりは、東インド会社や金融・経済勢力による過酷な支配・・・)。そして、天然資源を独占すると共に、現地の住民に対しても支配者として苛斂誅求の権を思うがままにしています。韓国が‘過酷な植民地支配’と言う時、それは、これらの事例を念頭に置いているのでしょうから、西欧列強による搾取型の支配が‘植民地支配’の一般的な形態なのです。

 例外的に有利な条件で独立した韓国が、仮に植民地支配を前提として‘強制労働’に対する対価を未払い賃金として請求できるのであれば、より搾取的な支配を受けたアジアやアフリカにおける旧植民地諸国も、自国国内の裁判所の判決により、同様の要求を旧宗主国にし得るはずです。韓国のケースは、たとえ、独立に際して両国間で条約や協定が正式に締結されていたとしても、国内裁判所の条文の解釈によって個人の賠償請求を認める前例となります。しかも、今般の韓国における賠償請求訴訟をみますと、原告団には「元徴用工」の子孫も含まれています。本人のみならず子孫にまで同権利の継承を認めるとなりますと、その請求額は天文学的な数字となるかもしれません。

 このように考えますと、アメリカによる同解決の後押しは、自陣営にとりましてはマイナス方向に作用する可能性は否定はできません。自由主義陣営を構成する国の大半が、全世界に広大な海外領土を保有していた列強国であるからです。イギリス、フランス、オランダのみならず、アメリカもフィリピン等を領有していた歴史があります。アメリカは、フィリピンから国内裁判所の判決を根拠とする韓国式の解決を求められた場合、一体、どのように対応するのでしょうか。

今後、国際社会において韓国式の解決方法が標準化しますと、国際社会は、大混乱に陥るかもしれません。そして、海外領土の獲得に際して中心的な役割を果たしていたのが東インド会社やイエズス会といった非国家組織であった点を考慮しますと、真の賠償責任は何処にあるのか、という問題をも問うていると思うのです。

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