今月3月6日に、韓国側から唐突に公表された「元徴用工問題」の解決案については、韓国メディアを中心に‘日本国側にボールは渡された’とする見解が報じられたことから、日本国政府への提案として受け止められました。同解決案では、‘日本政府の包括的謝罪並びに日本企業の自発的貢献’への期待が記され、記者会見の席にあって朴振外交部長官は、「・・・日本側が呼応してくることを期待する」とも述べたからです。韓国側の提案⇒日本国側の合意⇒両国による同案の実施という今後の流れがイメージされたため、日本国内にあっても同解決案が報じられた途端、ネット上では批判や反対の声が一斉に上がることとなったのです。
同案に反応したネット上の意見やコメントには、同問題は、‘既に解決済みであるから韓国の国内問題である’とする主張が多々見られました。この見解をより詳細に述べますと、‘日本国政府の現在の公式見解は、「元徴用工問題」は「日韓請求権協定」によって解決済みというものである以上、同立場を貫くならば、今般の韓国の解決案は、韓国国内に置いてのみ法的効力を持つべき‘となりましょう。その後、韓国政府が公表したのは「強制徴用最高裁判決関連解決法」、即ち、日本国政府に向けた提案という形式ではなく、国内に向けた‘解決法’の公表となっている点に注目すべきとする専門家からの指摘もあり、日本国内での批判はトーンダウンしてゆくのです。
しかしながら、韓国側は、上述したように日本国側に対して‘日本政府の包括的謝罪並びに日本企業の自発的貢献’を期待しています。仮に、日本国政府が、この韓国からの一方的な‘期待’に応え、解決策として提案された「第3者返済方式」を認めた上で、韓国側の意に沿って「日本政府が強制徴用を含む植民地支配全体に対する痛切な反省と、また心からの謝罪を表明した「金大中-小渕共同宣言」の精神」を継承するとしますと、もはや韓国の国内問題に留まらず、結局、上述したように韓国司法機関による条約解釈の効果が日本国内にも及ぶこととなりましょう。
しかも、韓国政府の口ぶりからしますと、同解決法の公表に際して日本国政府内への‘根回し’があったような気配もあります。例えば、朴振外交部長官は、敢えて村山談話や河野談話といった論争的な談話を避けて「金大中―小渕共同宣言」を選んでいますし、「日本政府も、民間企業の自発的な(基金作り)参加には反対しないという立場だと聞いている」とも述べています。岸田首相も、韓国の提案に呼応するかのように、参議院の予算委員会で歴代内閣の歴史認識を踏襲する方針を示しており、水面下における両国政府、あるいは、アメリカのバイデン政権も絡んだ筋書きの存在が伺われるのです。そして、素早い岸田首相の反応こそ、日本国政府による韓国案の受け入れを予測した日本国内の世論の強い反発を招いたのです。
遂に岸田首相の退陣を求める声も聞かれるようになり、日本国政府は、路線の変更を余儀なくされたようにも思えます。日本国内の世論を考慮すれば、歴代内閣が示してきた歴史認識の踏襲は封印すべきでしょうし、韓国の最高裁判所から賠償命令を受けた日本企業に対しても、救済基金への拠出には応じないように要請すべきと言えましょう。
「元徴用工問題」については、日韓請求権協定に規定された紛争解決の手続きである仲裁、あるいは、国際司法機関に解決を委ねるのが本来の筋となるのですが、次善の策として、‘無反応’という対応もあり得るように思えます。ネット上に散見される意見のように、韓国の国内問題に留めてしまうのです。今般の韓国側の解決策にあっては、日本側の対応は‘期待’に過ぎず、たとえ無反応であったとしても、韓国は、法的な措置に訴えることはできないはずです。そして、厳しい反日世論の後押しを受け、日本側の無対応を不服として韓国側がさらなる措置を求めるに至ったときに(韓国側が’肩代わり’の求償権を日本国に対して行使する可能性もあるという・・・)、日本国政府は、あらためて国際法秩序に乗っ取った紛争の解決を提案すべきではないかと思うのです。