万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ガーシー元参議院議員除名が示す‘ふざけた政治’の問題

2023年03月16日 12時02分47秒 | 日本政治
 先日、参議院院は、国会の欠席並びに陳謝の拒否を理由として、ガーシー氏から議員資格を剥奪する除名処分としました。同氏は、立花孝志氏が設立したNHK党(現在は政治家女子48党)から立候補し、前回の参議院選挙の比例区で当選を果たしています。得票数287714票、全体で10位となる票を集めただけに、同除名に対しては、NHK党の後身となる政治家女子48党などからも‘ふざけるな’とする反発が起きていますが、今般の一件は、劣化が止まらない日本国の政治の現状を象徴するような出来事です。

 そもそも、‘ガーシー’という議員名は戸籍上の本名ではなく、東谷義和が同氏の正式の氏名なそうです。国会議員が本名を名乗らない慣習は、国会議員が公職である以上、即座に改めるべきなのですが、通名の使用については、同氏の申請を受けて参議院が許可したというのですから驚かされます。議員職を軽く見ている点については、東谷氏も参議院も‘ふざけている’と言わざるを得ません。

 さて、懲罰についてなのですが、国会法の第122条では、四つの懲罰の一つとして除名を定めています(その他の懲罰は戒告、陳謝、登院停止)。また、同法の第124条には、不当欠席議員の懲罰に関する規定が置かれています。この条文では、正当な理由なく招集日から七日以内に召集に応じない議員は、懲罰委員会に付するとされます。政党女子48党の黒川敦彦幹事長は、国民の殆どが国会法を知らないにも拘わらず、東谷氏の欠席について後から『国会に来ないのはおかしい』として、騒ぎ立てるマスコミを批判しておりますが、それでは、東谷氏は、欠席が懲罰の対象となることを知りながら登院を拒んできたのでしょうか。仮に、国会議員である同氏自身が国会法を知らなかったとなりますと、これこそ、‘おかしい’ということになりましょう。また、逆に知っていたとすれば、当然に、国会に姿を現わしていたはずです。

 もっとも、欠席を理由とした除名処分につきましては、凡そ30万人の有権者が同氏に一票を投じているだけに、いささか慎重になる必要はありましょう。支持者を含めて誰もが納得するような除名の基準を明確にしませんと、懲罰権が濫用される怖れもあります。この点、国会では眠っている議員も目撃されており、東谷氏と実質的には変わらない議員も少なくありません。東谷氏には厳しく、自らには甘いとなりますと、国民に対しても示しが付きませんので、参議院は、国民に対して東谷氏の欠席の不当性を具体的な理由を付して説明すべきですし、今後は、国会議員の職務内容を明確にしてゆく必要もありましょう。

多くの国民は、政治家とは、議員席に座っていれば多額の歳費が転がり込む職業であると見なしています。この状態で東谷氏を罰しても、政治家に対する不信感が払拭されるわけではなく、むしろ、除名処分には、何らかの政治的意図が背景にあるのではないか、とする疑いも生じてきます。同氏は、YouTuberとして芸能界の暴露によって知名度を挙げてきたとされ、それ故に、将来的な政界の暴露をおそれての処分とする見方もあり得るのです。ウィキペディアを読みますと、NHK党(現政治家女子48)の立花氏が元NHK職員であったように、東谷氏も芸能界で働いていたからこそ、表にできない芸能人やタレント等の秘密の内部情報を収集ことができたようです。今後、同氏が政界で活動するとなりますと、国会議員である以上、政府、官庁、並びに政治家個人等の様々な情報をも入手し得る立場となります。政治的除名の疑いを払拭するためにも、参議院は、国民に対して十分な説明責任を果たすべきと言えましょう。

それにいたしましても、現在ドバイに滞在中とされる東谷氏の欠席理由は、自らの詐欺容疑からの逮捕並びに暴露への恨みからの暗殺を恐れてとのことですが、この言い分、正当な欠席理由となるのでしょうか。詐欺の容疑者であるならば、日本国の司法手続きに誠実に従うべきですし(内閣による逮捕許諾があり、同議員が所属する議院がこれを許諾すれば、国会議員でも逮捕される・・・)、暗殺のリスクがあるならば、警察に保護を求めることもできるはずです。東谷氏を擁護する立場から、除名は憲法違反であるとする主張も見受けられますが、除名を不服とするならば、憲法訴訟を起こすことも可能です。不満があれば、正々堂々と法廷で争うべきと言えましょう。

以上に述べてきましたように、日本国の政治の現状は、国民がため息をつくことばかりです。国会に向かって‘ふざけるな!’と叫ぶ政党女子48党も、その党名が政党女子48なのですから、明らかにふざけております。政治とは、人々の生活のみならず、時には国民の生命や財産などの基本権にも関わるのですから、国民に対して誠実かつ真面目であるべきではないかと思うのです。

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