万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

問われるイスラム系カーン市長の責任ーロンドンテロ事件

2017年06月05日 15時08分51秒 | ヨーロッパ
英、テロ容疑者の捜査本格化=ISが犯行主張―パキスタン出身27歳主犯格か
 イギリスでは、マンチェスターに次いで首都ロンドンでも、ワゴン車の暴走による凄惨なテロ事件が発生しました。主犯と目されるテロリストは、パキスタン出身の27歳の男性であり、ISが犯行声明を出したとも報じられております。

 首都ロンドンと言えば、EU離脱を問う国民投票を前にして、史上初めてのイスラム系市長が誕生しています。当選したサディク・カーン市長は、移民2世とはいえ、今般のテロ事件の主犯と同様にパキスタン出身者のイスラム教徒であり、その当選に際しては、多様性、あるいは、寛容の精神の勝利として報じられたものです。近年、テロ事件が相次ぐ中、労働党党員や有権者の中には、ロンドン市長にイスラム系の政治家を据えることで、イスラム過激派の動きを内部から抑えてもらうとする期待もあったのかもしれません(”イスラムを以ってイスラムを制する”とする発想…)。あるいは、敢えてイスラム教徒を多様性の一つとして受け入れる姿勢を示すことで、イスラムの攻撃性を和らげようとしたとも推測されます。

 ところが、これらの淡い期待は、今般のテロ事件で吹き飛んでしまったかのようです。当のカーン市長に至っては、”テロが起きても怖がるな”とするリベラル特有の欺瞞的なコメントを述べるにとどまり、大西洋を隔てたアメリカのトランプ大統領にまで無責任として批判されています。テロに対する恐怖心の有無は表面に現れているわけではありませんから、テロを抑止する効果があるとは思えず、また、恐怖心という人間の本質の放棄を人々に迫るのですから、非人間的な手法と言わざるを得ません。結局、カーン市長は、テロリストを厳しく断罪するよりも、同郷のテロリストを庇い、テロの責任をイギリス国内のイスラム教徒に対する一般イギリス人の偏見や差別に転化したいようなのです。

 今般のロンドンのテロ事件は、ロンドン市長という要職を任せても、イスラム教徒は満足しないことを示しております。そしてこの事件は、首都の治安を預かり、人々の安全を守る立場にあるカーン市長に対して、その立ち位置と責任を鋭く問うていると思うのです。

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コメント (4)
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