万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

AIIB債の“格上げ”か?ムーディーズの“格下げ”か?

2017年06月30日 17時18分37秒 | 国際政治
AIIBは、その不透明な運営と信用性の欠如から、これまで、何れの格付け会社からも格付けを得ることができず、AIIB債が発行できない状態が続いていました。ところが、今般、突然に、米大手のムーディーズが最高ランクの“トリプルA”に格付けしたことから、ようやくAIIBも外部資金の調達に漕ぎ着けたとの観測も流れています。しかしながら、同社の最上位格付け付与については、既に疑問の声が上がっています。

 第1の疑問点は、既に新聞紙上などで指摘されているように、中国関連の債権に対するムーディーズの矛盾した評価です。今年5月に、同社は、中国国債の評価を格下げしており、この評価に基づけば、中国が最大の出資国であるAIIB債の評価もまた、中国国債と同レベルとなるはずです。

 第2に、ムーディーズは、ポリティカル・リスクを全く評価に加算していない点です。AIIBは、加盟国の数こそアジア開発銀行を上回り、ユーラシア大陸をも越えた大所帯を形成していますが、それ故に、深刻な対立を抱える諸国も抱え込んでいます。当の中国は、南シナ海のみならず、カシミール問題をめぐりインドとの関係も悪化しており、AIIBにおける中国のパキスタンへの肩入れを考慮すれば、AIIB内部において加盟国間対立が表面化するシナリオも想定されます。インフラ関連事業は、“政治案件”が多いのですから、インフラ関連債については、ポリティカル・リスクを無視した評価は信頼性に乏しいと言わざるを得ません。

 第3に、アジアにおけるインフラ需要が巨額な資金を要することは確かなことですが、加盟国の返済能力には限界があることです。AIIBの設立は、世界銀行やアジア開発銀行に加えて、もう一つ、資金調達先が増えたわけですから、インフラ整備に取り組む諸国にとりましては朗報であったかもしれません。しかしながら、低利での融資とはいえ、インフラ事業には巨額の資金を要しますので、焦げ付かないとは限りません。さしもの中国も、最近では外貨流出に規制をかけており、AIIB債の“紙屑化”リスクが低いとは到底思えません。

 第4の疑問点は、AIIB債の発行通貨がはっきりしない点です。人民元建てであれば、中国国内で起債すればよいわけであり、敢えてムーディーズに評価を依頼したとしますと、米ドル建てが中心となるのでしょう。仮に、米ドル、あるいは、ユーロや円などの他の外貨での起債となれば、外貨建てで融資を受けた国の返済リスクはさらに高まります。それとも、起債は外貨、融資は人民元、返済は外貨といった“からくり”で、中国は、AIIBを外貨獲得の手段としようとしているのでしょうか。

 第5として挙げられる点は、賄賂が横行する中国の政治体質です。誰もが首を傾げるようなムーディーズの判断の裏には、習主席の面子にかけてAIIBを成功に導くために、巨額の“チャイナ・マネー”が動いたのではないか、とする疑いを人々に起こさせることでしょう。

 昨年、IMFが人民元をSDRのバスケット構成通貨に決定した際には、その判断に対する疑義が呈されつつも見切り発車しています。結局は、この時の約束は反故にされ、中国政府による人民元国際化のための措置は遅々として進んでいません。AIIB債に対する懸念が現実化すれば、ムーディーズは、自らの信頼性に傷をつける結果となり、格付け機関としての“格付け”を下げてしまうのではないかと思うのです。

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コメント (6)
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