万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

移民制限ー米企業の反撃が共感を得られない理由

2017年02月05日 15時10分16秒 | 国際政治
企業トップ、輸入税に異論も=トランプ氏肝煎り会議―米
 日経新聞では、毎週日曜日に英経済紙フィナンシャル・タイムスからの転載記事を掲載しています。本日のテーマは、「米企業、移民制限に反撃を」とする題で、トランプ政権による移民制限に対して米企業が反転攻勢に出るよう訴えています。

 しかしながら、この反撃に勝利することができるのでしょうか。本記事の執筆者であるジョン・ギャッパー氏は、「グローバル企業は国境を越えた発想や人の流れ、国をまたいでの最も優秀な人材の採用、民族や国籍より起業家精神や才能を重んじる姿勢がいかに自分たち企業の競争力を高めてきたかを証明するほど、戦いの勝算は大きくなる」と述べています。しかしながら、この勝負の行方を占うには、何を以って”勝利”とするのかを明確にする必要があります。

 この点、”移民制限への反撃”と銘打つ以上は、勝利条件は、当然、”移民制限を解除させること”、即ち、移民政策における180度の政策転換となるはずです。となりますと、トランプ大統領を支持している多数のアメリカ国民の考え方を変え、移民受入の方向に向かわせる必要があります。つまり、大部分のアメリカ国民が、一部の米企業の言い分に共感し、移民受け入れ政策の方が望ましいと考えるようにならなければならないのです。しかしながら、上述したギャッパー氏の主張を読む限り、この”説得”は上手くいきそうにありません。何故ならば、氏が述べた通りの経営戦略を採ったことが、”グローバル企業”に対する国民の反感を招いたからです。反感の緩和策として反感の原因をさらに強調したところで、反感が収まるはずもありません。”国境の越えた発想や人の流れ”は、様々なリスクを国内に持ち込む行為ともなりますし、”国をまたいでの最も優秀な人材の採用”は、アメリカ国民の雇用機会の減少と同義ですし、”民族や国籍より起業家精神や才能を重んじる姿勢”も、起業家やCEOも含むハイレベルな分野においてもアメリカ国民の活動の場が狭まる結果をもたらしかねません。

 これでは”火に油”であり、自らに対する反省なしにエリート意識から従来の主張を繰り返すのでは、大多数の一般国民から賛同を得られるとは思えません。移民擁護論者は、自らが一般の人々と同じ立場になっとしても、行き過ぎたグローバル企業を支持できるのでしょうか。利己的で独善的な主張が他者の共感を得られるわけはなく、他者に対する思いやりや共感の欠如が、翻って、自らの主張に対する共感を呼ばない原因なのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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