万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロボット・AI時代の構造改革の手段としての保護主義

2017年02月07日 15時21分10秒 | アメリカ
IT企業が異議申し立て=入国禁止令「米産業に損害」
 トランプ政権が推し進めている保護主義政策に対しては、マスメディアをはじめ辛口の論評が目立ちます。アメリカの保護主義によって世界経済は打撃を受け、消費者も損失を被るとする見立てが大半ですが、保護主義は、果たして”絶対悪”なのでしょうか。

 ところで、米国の中間層の破壊については、製造業でも導入されるようになったロボットが主因とする説明もあります。つまり、保護主義を採用しても現状は変わらない、とする消極的な米企業擁護論です。しかしながら、この説は、現実には、メキシコへの移転計画を有する企業は多数ありますので、説得力は薄いと言わざるを得ません。もっとも、ロボット導入に関しては、移民不要論に加えて、莫大な電力消費量を考慮しますと、エネルギー資源の豊かで安価な国ほど有利ですので、むしろ、中国から米国内への製造拠点回帰の効用を説明します(この点では、エネルギーコストの低いメキシコの優位性は変わらない…)。

 現状では、ロボット導入の影響が限定的であったとしても、将来的な変化を予測すれば、上述した製造業の回帰では事足りず、新たなロボット時代に適合した経済構造の構築を目指す必要がありそうです。つまり、生産ラインにおいて安価に大量の製品を製造するロボット生産にシフトしたとしても、’人の働き場’を確保しなければならないのは、AIの普及による人材超過問題への対応としても急務なのです。この問題は、アメリカのみならず、全ての諸国の課題でもあります。そこで考えられるのは、ロボットやAIに任せる分野と、人の能力が活かされる分野を上手に両立させる方向で、産業構造全体を転換してゆくことです。では、どのようにすれば、両立は可能なのでしょうか。

 将来的な変化への対応策としては、経済を生態系的に多様化、並びに、複雑化することも一案です。特に食生活、並びに、住空間といった日常の生活に関わる分野では、大量生産方式から少量高品質製品への転換を図ることができれば、’人の働き場’を確保することができます。敢えて非効率を選択することによるサバイバル戦略とも言えます。小規模な企業は、たとえ耐久性が高く、良質の製品を製造していても、これまで廉価な輸入品に押されて淘汰一辺倒でありました。規模の経済のみを追求し、”安かろう、悪かろう”の発想では、雇用は減少の一途を辿るのみであったのです。しかしながら、小規模な企業による多様なニーズに応える生産は、’人の働き場の確保’問題の解決策となるかもしれません。

 こうした転換を図るには、大企業レベルでも際限のない買収による巨大化や金融支配を抑制する必要がありますが(ジュラシック・エコノミー化の抑制)、とりわけ、農業を含む食関連の分野や軽工業分野における中小経営の保護措置が必要となりましょう。保護主義の採用が、ロボットやAIの時代の到来に即した産業構造の転換への道であるならば、より肯定的な評価があってもよいのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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