万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカの入国禁止令一時差し止めの行方

2017年02月04日 14時29分27秒 | アメリカ
連邦地裁、入国禁止一時差し止め=全米で即時効力―ビザ無効は6万人
 トランプ大統領による入国禁止令に対して、ワシントン州シアトルの連邦地裁は、ワシントン州からの提訴を受けて同令の一時差し止めを命じたと報じられております。ワシントン州の主張に拠れば、同大統領令は、憲法で保障した法の前の平等、並びに、信教の自由を侵害しているとのことですが、果たしてこの連邦地裁による一時差し止めは、今後、どのような展開を見せるのでしょうか。

 トランプ政権側は、早期に連邦地裁の判断に異議を唱える方針なそうですが、この問題は、最終的には連邦最高裁判所の法廷で違憲か否かが争われる可能性もあります。その際、上述した法の前の平等や信教の自由と大統領令との関係が軸となるのでしょうが、最大の争点は、(1)信仰の自由は、国家、並びに、国民の安全に優先するのか、(2)憲法は、法の前の平等、並びに、信教の自由を外国人に対しても保障しているのか、の2点になるのではないかと予測されます。

(1)については、修正第9条では「本憲法における特定の権利の列挙は、国民によって享有されるその他の権利を否定し、または、軽視するものと解釈されてはならない」と定め、個人の基本的権利や自由の保障が無制限ではないことを明らかにしております。特に、イスラム教の場合には、殺人容認教義を含みますので、国民の最も基本的な権利である生命を脅かす危険があります。本訴訟では、イスラム教の教義そのものに踏み込んだリスク判定が行われるかもしれません。テロを許容する殺人教義を有する宗教も憲法は信仰の自由の対象として保障するのか、注目されるところです。

(2)に関しては、とりわけ法の前の平等が問題となりますが、この点についても、修正第14条第1節に関連する条文があります。法の平等保護を定めたこの条文では、「合衆国内において出生し、あるいは、合衆国に帰化し、または、合衆国の管轄権に服する全ての者」に限定しており、主として州政府に対して他州の合衆国に市民に対する不平等な扱いを禁止しています。”人”一般に対しては、「いかなる州も、法の適正な手続きなしに生命、自由、または、財産を奪ってはならない」と定めるに留まり、海外に居住する外国人に対して法の前の平等を定めているわけではありません。また、仮に、外国人までにこれらの原則や自由が保障されるとしますと、国内法の域外適用の問題も生じますし、究極的には国境管理の権限を完全に放棄する必要が生じます。

 以上に2点に絞って検討してみましたが、合衆国憲法上の条文からしますと、合憲判断が示される可能性の方が高いのではないでしょうか。法の前の平等も信教の自由も、何れも極めて重要な価値ですが、国家・国民の安全と比較衡量した場合、後者を優先する判断を頭から間違いと決め付けることはできないのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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