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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

問題山積のドイツの偽ニュース規制案

2016年12月30日 15時10分14秒 | 国際政治
うそニュース監視、ドイツが新組織検討 禁錮刑科す案も
 報道によりますと、ドイツでは、SNSで拡散される”偽ニュース”を規制するために、監視組織の設立を検討しているそうです。設立の理由は、アメリカにおけるトランプ氏の大統領選での勝利の一因には、事実に反する”偽ニュース”の影響があると見ているからです。

 このニュース、慰安婦問題で”偽ニュース”を配信した朝日新聞社が嬉々として報じているところに唖然とさせられるのですが、メルケル首相も、訪日に際して慰安婦問題で日本国に対して苦言を呈するなど、”偽ニュース”を信じ込んだ”被害者”とも言えます。現実問題として、”偽ニュース”がもたらす負の影響は計り知れません。しかしながら、それでも、この規制案には、深刻な問題点があるように思えます。

 第一に問題となるのは、虚実の判定が難しいケースがあることです。例えば、特定の場所における特定の人物の発言の有無に関するニュースであれば、実際に、その発言の有無を確認することはそれ程難しくはありません。先日も、パキスタン国防相がイスラエル前国防相の”偽発言”を真に受けて核攻撃を示唆する事件がありましたが、この一件では、程なく”偽ニュース”であることが判明しています。こうしたケースでは、聴衆が証言者となったり、録音・録画が証拠となって、虚実を判定することは容易です。しかしながら、虚実の判定が極めて難しくなるケースも想定されます。特に”陰謀”に関する偽ニュースは、”陰謀”という性質上、秘密情報やリーク情報となりますので、その真偽の判定には、情報機関の協力を要する場合も想定されるのです。特に、今般の規制は、ロシアによる工作を想定して、ロシアをターゲットとされておりますが、ロシア政権の内部から情報を正確に収集しない限り、真偽が判定できないこととなります。

 第二の問題は、”偽ニュース”が、事実である場合です。実のところ、真偽が不明のニュースの場合、事実調査に膨大な時間と労力を要するのみならず、真実である可能性も否定はできません。多くの人々が、”偽ニュース”を信じる背景には、確たる証拠はなくとも、経緯、状況、ならびに、当事者の内的心理を推測すれば、十分にあり得ると判断できる場合が多いのです。こうした場合、規制当局は、国民に対して誠実、かつ、正直に、事実であると公表してくれるのでしょうか。仮に、隠蔽したり、国民が納得するような証拠や根拠を示すことなく、”虚ニュース”であると決めつけるとしますと、情報統制として規制組織に対して国民が反発することとなります。

 第三に、規制の対象は、メディアではなく、SNSに限定されているようですが、アメリカの大統領選挙では、有権者に対して自社の支持候補のニュースのみに偏向したメディアの姿勢も問題視されています。仮に、監視組織に政治的な偏りが生じた場合には、この制度は、いとも簡単に、言論の自由に対する弾圧システムへと転換します。マスコミの報じるニュースだけが”事実”とされ、自らにとって都合の悪いSNS上のニュースは、全て、”偽ニュース”として葬り去ることができるからです。

 ”偽ニュース”規制組織は、それが、中立・公平な機関であり、国民からの信頼を得ることができれば、このシステムは、有権者を惑わす”偽ニュース”の排除という本来の目的に適うものとなりましょう。しかしながら、問題山積のまま見切り発車しますと、東独にかつて存在した人民監視機関に堕すこととなるのではないでしょうか。

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コメント (2)
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