万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

安倍首相の英独発言-経済の相互依存は戦争の抑止力となるのか?

2014年01月24日 16時03分41秒 | 国際政治
ダボス出席の安倍首相、日中関係と第1次世界大戦前の英独を比較(フィナンシャル・タイムズ(翻訳gooニュース)) - goo ニュース
 ダボス会議において、日中関係の行方について、第一次世界大戦前の英独関係を教訓として言及した安倍首相の発言は、海外メディアからは批判的な反応が相次いだようです。しかしながら、この発言、国際社会に対して、重要な問題を提起していると思うのです。

 国際政治学の世界では、つい最近まで相互依存論が持て囃されてきました。今では”ジャパン・ハンドラー”の一人として知られるジョセフ・ナイ氏などはこの論の先駆者でもあり、国家間の経済関係の深化はやがて相互依存関係を形成し、戦争の抑止力となることを主張しておりました。第一次世界大戦前の英独関係は、実のところ、この相互依存論に対する反論の根拠として取り上げられてきた経緯があります。戦争は貿易関係をも破壊しますので、合理的に計算すれば回避すべき行為となるはずなのですが、戦争を回避できなかった反証が存在しているのです。その回答は、純粋に政治的な理由以外にも、領土拡張によって天然資源を確保でき、かつ、資源獲得が貿易の消滅による損失を上回ること、経済ブロックや自国優位の経済体制を形成できること、自国企業のための市場や技術を獲得する、あるいは、自国企業が競争上有利となること…などを挙げることができます(第一次世界大戦の場合、イギリスの3C政策とドイツの3B政策の衝突…)。これらの諸点から、現在の日中関係を見てみますと、中国が、突如として尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、国連によって尖閣周辺海域における石油・天然ガスの埋蔵が報告された1960年代末以降のことです。また、中国は、アジア経済圏の中心国の地域に君臨できると共に、技術力においては日本企業に劣位しますので、戦争に勝利することは、日本国から技術を奪うチャンスともなります。つまり、少なくとも中国側には、日本国に戦争を仕掛ける動機があるのです(反対に、日本国から中国に対して戦争を仕掛ける動機は殆ど皆無…)。

 フィナンシャル・タイムズは、首相が”武力衝突は論外”と完全否定しなかったことに落胆したようですが、日中の軍事衝突の行方は、中国側の出方にかかっています。日本国は、中国から侵略的攻撃を受けた場合の防衛戦争あるのみなのですから、外国メディアの記者は、この質問を中国に対してすべきであったと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする