花熟里(けじゅくり)の静かな日々

脳出血の後遺症で左半身麻痺。日々目する美しい自然、ちょっと気になること、健康管理などを書いてみます。

「新たな市場としてのイスラム圏」

2013年04月30日 11時34分19秒 | ちょっと気になること
東京都の猪瀬直樹知事のニューヨーク・タイムズ紙の取材での発言が、イスラム教国であるトルコ、そして、2020年夏季五輪に立候補しているイスタンブールを批判したと疑われており、国際オリンピック委員会(IOC)が東京都に注意喚起しました。
猪瀬知事は、真意が伝わっていないとして、NYタイムズ紙に反論していますが、海外メディアの取材での発言、特に宗教に関する発言は特に慎重にしなければならないにもかかわらず、不用意な発言をしたと受け取られても仕方がないと思われます。イスラム諸国の受けとめ方が気になります。

【産経新聞:4月29日】
「猪瀬東京都知事は今月14~18日、米ニューヨークへの出張中にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応じ、同紙が27日付でその内容を報じた。 同紙によると、猪瀬知事は、イスラム諸国で人々が共有しているのは唯一、アラーだけ。けんかばかりしている、などと発言したほか、日本の平均年齢などを引き合いに、トルコの人々が長生きしたいと思うのなら、日本のような文化を持つべきだ、などと語ったとしている。」

さて、さる3月29日付の日本経済新聞に「味の素・キユーピー、イスラム圏開拓を加速」という記事が掲載されました。味の素は、インドネアシアに2工場(ジャカルタ近郊、スラバヤ近郊)がありますが、ジャカルタ近郊の工場を増強して調味料を中東に輸出する予定。キューピーは新たにインドネシアのジャカルタ近郊に工場を建設し、マヨネーズを同国内需要向けだけでなく、中東などイスラム圏への輸出も行う計画とのことです。

多くの日系企業がインドネシアで事業展開していますが、メーカーでは食品以外が主でした。イスラム教徒は、ブタ肉を食べず、アルコールも避けています。したがって、イスラム教徒が国民の85%を占めるインドネシアでは、食品の生産にはイスラム教徒でも大丈夫という「ハラル認証」を取得しなければなりません。イスラム教になじみの薄い日本の食品メーカーがインドネシアヘの進出に二の足を踏んできたことは、想像に難くありません。

私がインドネシアに駐在していた時期の2001年当時、味の素社のスラバヤ工場で製造される調味料はイスラム教徒が摂取を禁止されている「ハラム」だと決定し、日本人管理者2名とインドネシア人幹部数名が拘束された事件がありました。 
インドネシアでの操業の歴史も長い日系企業の食物禁忌への対応はしっかりとなされていると思われていましたが、発酵菌の栄養源として使用している大豆分解物は米国からの輸入品であり、豚に由来する酵素が使われていた」のがハラムだと指摘された理由でした。まさに、輸入品の製造過程が盲点でした。 結局、最終製品には豚肉エキスは入っていないことが認められて、全員釈放されましたが、一時は、日本人社会への深刻な影響を懸念もされました。

我が国では、食物アレルギーへの関心が高まっていますが、宗教や信条・人生観による食物禁忌については、一部の関係者を除いて深刻にとらえられていません。しかし、一歩日本国外にでると、イスラム教徒、ユダヤ教徒には豚肉とアルコール、ヒンドゥー教徒には牛肉が禁忌であり、さらにはベジタリアンもびっくりするほど多くいます。毎年海外旅行者が数百万人いますが、旅行の場合には、こうした食物禁忌はあまり意識せずに済みますが、外国、特にイスラム教徒の多い国に駐在員となり、毎日、イスラム教徒と接していると、豚肉やアルコールの問題が避けて通れません。パーティなどでイスラム教徒の社員と気楽にアルコールで乾杯と言うわけにはいきません。

私が駐在していたときに、イスラム教を理由に、インドネシアから撤退された企業も目にしてきました。日本ではイスラム教へのなじみが薄く、TVなどで報道される過激派と直結してとらえられるなど、悪い印象を持たれます。 確かに、キリスト教徒は、朝夕のお祈り、日曜日に教会に行くのが普通ですが、ほとんどのイスラム教徒は一日5回の礼拝を欠かさず、金曜日の昼にはモスク(教会)に行き、さらに、一カ月の断食をおこなうなど、日本人からみると厳格すぎるように思えますが、過激な思想を持っているわけではなく、ごく一般的なイスラム教徒の姿です。このために工場運営が阻害されることはありません。要は、勤務時間中の休憩時間の配分と祈りの場の提供で解決できます。 私が勤務した工場は、クリーンルームになっており、ICカードで入退室が厳格に管理されていました。従業員は皆、規則をしっかりと守っていました。事前の教育をしっかり行えば、イスラム教の規律も会社(工場)運営の障害にはなりません。
事業展開、とりわけ、日系企業へのリスクという意味では、今や、中国や韓国のほうが遥かに高いと思います。

今や、イスラム教徒は16億人と世界の人口68億人の22%に達しています(アジア地域:62%、中東・北アフリカ:20%、サハラ以南アフリカ:15%、その他:3%)。 今後益々増加すると見られています。アメリカやヨーロッパ諸国でもイスラム教徒が無視できない程度まで増加していると、言われています。
したがって、経済発展の目覚ましいイスラム圏や人口増加の著しいイスラム教徒を新たなターゲットにするのは、必然的な流れです。 イスラムという言葉に臆病になってはいけません。新たなチャンスとして捉えるべきです。


【味の素・キユーピー、イスラム圏開拓を加速】
日経:2013/3/29
「味の素やキユーピーなど食品大手がイスラム圏の市場開拓を加速する。味の素はインドネシア第2工場に2014年6月、9億円を投じ液体調味料の製造ラインを増設。13年度からは粉末調味料を中東に輸出する。キユーピーもインドネシアでマヨネーズの生産・輸出を始める。イスラム教の戒律に沿ったことを示す「ハラル認証」を受けた工場を拠点とし、世界人口の4分の1を占める巨大市場を取り込む。
 味の素はインドネシア2工場のうち、ジャカルタ近郊のカラワン工場に新ラインを設ける。家庭で外食店のような味が再現できるテリヤキ味とオイスター味の液体調味料「サオリ」の生産能力を倍増させる。同工場はハラル認証を取得済みで、ライン増設により年間売上高を数年で現在の2倍以上の16億円に伸ばす。
 他のイスラム国への輸出も始める。35億円を投じて昨年12月に稼働した同工場は主に粉末調味料「マサコ」を製造し、第1工場と合わせ生産能力は1.5倍になった。13年度中にマサコをパキスタン、バングラデシュ、中東に輸出する。第2工場の敷地は16万7000平方メートル。8割が未利用で設備を増強しやすい。新たに認証を取る手間や中東での工場整備のリスクなどを考慮し、インドネシアに生産を集中した方が効率的と判断した。
 キユーピーも今年2月にインドネシアに現地法人を設立。10億円を投じてマヨネーズ工場を建設し、14年から販売する。数年後にはパキスタンやバングラデシュへの輸出も検討する。10年にマレーシアのマヨネーズ工場でハラル認証を取得し、11年にインドネシアへ輸出も始めたが、今後はインドネシア工場からイスラム圏を本格開拓する。
 マレーシアのハラル産業開発公社(HDC)によると、10年の世界のハラル食品の市場規模は6415億ドル(約60兆円)と05年に比べ7.6%増えた。インドネシア(2億4000万人)、パキスタン(1億8000万人)など人口が多い国もあり、さらに拡大する可能性が高い。
 リスクもある。インドネシアで01年、味の素はイスラム教徒が口にできない豚の成分を触媒に使った添加物で「味の素」を製造したとして逮捕者を出した。ハラルの普及啓発を進めるハラル・ジャパン協会(東京・豊島)の佐久間朋宏代表理事は「日本企業は中国や米国などに集中しすぎてイスラム圏の開拓がおろそかになった」と指摘する。」



【2013年4月30日 花熟里】

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