いま大学の授業がおもしろい!
大学の教員養成に求められていること
大学で、これから先生になりたいという学生たちと学ぶようになって5年目を迎えています。「教育方法学」「現代教職論」「授業づくりの臨床研究」「作文教育のゼミ」とさまざまです。
これから先生になって現場へ出て行く一番手前の生徒の立場で学ぶ最後の時間をともに過ごしています。
子ども論、教師論、授業論、集団論、父母との協同等、実践を踏まえた教育理論を学びます。それだけでなく講義の中では手品、本の読み聞かせや紙芝居、お話の語り、詩や小説、文学作品を読む、合唱組曲を聴く、模擬授業をするなどさまざまな活動もして、教育の世界の楽しさも体験します。
自分が子どもだったら、どんな学校になってほしいか、どんな授業をしてほしいかを具体的に提案させ、その実現のすじ道をグループ討議の中で深めたりもします。
今日、大学での教員養成のあり方が問われていて、大学の現場でも模索・研究しています。何を学び、どんな力をつけて現場へ送るのかと。
▲現場のナマの姿を知り、人とのつながりを育む
私など非常勤講師がとやかく声を上げる身ではないのですが、現場を長く経験したものだからこそできる講義や発信できるものもあるのではと思っているのです。
学生の声を拾いながら、教員養成に今求められていることをいくつか書いてみます。
1.「今まで大学の先生にはかなり距離を感じていて自分の悩みなど相談できませんでした。先生が素を出して、私たちと対等につき合ってくださるので話しやすく、この間も胸につまってるものを聴いていただけて、ラクになりました」
人間づき合いをしてほしい、そして、悩みを心から聞いてくれる先生を求めているのです。
2.「自分の中の教師像、子ども観がガラッと変わり、今では確実に教師に真剣になっていこうと思えるようになりました。何よりも子どもの作文やその子の暮らしを聞いて、何回も泣けました。あんな小さな体で、この生きにくい時代を懸命に生きているんだと…」
今日の子どもをどう理解するのか、現場からのナマの姿を語ることが、教師になる夢をはぐくんでいくのです。しかも、学生たちは今日の子どもの姿の中に自分を重ね、自分を見つめ直し、自分という人間作りをしています。
3.「この講義は、毎回先生の手書きの『大学通信』がもらえて、学生どうしの意見や考えが交流できて、230人もいる教室なのになんか仲間みたいに思えて、ほっとするんです。先生、友だちができたんですよ」
人が信じられない、他人の目が気になる、一人ぼっちだ…と、孤独感を感じている学生が増えている今です。学生同士がつながり、その人の輪の中で、人づき合いの加減を学び、仲間を作り、恋もして、人間への信頼を育んでいくことが今日の大学生にとってもきわめて大事なことなのです。これ抜きに人間相手の教育の仕事は困難でしょう。
4.「この講義で一番イメージが変わったのは『モンスターペアレンツ』についてです。今までは、バカな親、困った親、こんな親とぶつかったらやっていけないと不安ばかりでした。しかし、親自身も今の生活や自分の生い立ちの中でいろんな苦労をしていて、わが子かわいさにクレームをつけるんだと知りました」
学生の一番の不安は、親との問題です。親たちをどう見て、どうつき合うのか、それが実践的に語られたら、見通しが少しずつ持ててきたと安心しているのです。
シンガーソングライターになりたい学生がいて、いつも一番前で真剣に授業を受けています。ていねいにノートをとり、先生の光ってる言葉を集めていると言います。最後の授業の日、この言葉から歌をつくり、みんなの前で歌ってくれると言います。今、大学の授業がおもしろい!
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)