それは 2005年7月の晩だった。
夫婦の寝室で。
いつもの亭主の愚痴が
急に湿り気を帯びてきた。
「オレは 何をやってたんだろう?」
「オレは 毎日 一生懸命やってて
何やってたんだろう?」
「あんなに一生懸命働いて
何になったんだろう?」
「バカみてえ。」
義母が 亭主の顔を見て 誰だかわからなかった、
と 帰ってきた亭主から聞かされた直後だったから
きっと そのことで
ショックを受け、がっかりしているのだろう、
と思ったが
本人は 違う、と言う。
もう 一月も前から こうだった、と訴える。
一月。
ちょうど 一大イベントがあった時期だ。
きっと 燃え尽き症候群だったのだ。
それに 義母の病気の進み具合とか
思い通りになってくれない子供たちへの苛立ちとかが
複雑に絡み合って
「もう、何もかも嫌」になっちゃったのだろう。
なるべく冷静に話を聞いたつもり。
暗がりの中の、隣のベッドで。
亭主は 普段考えられないくらい
へろへろになっていて
弱みをさらけだしていた。
けっこう強いオトコでいたいタイプ。
強がりも多い。
無理もする。
虚勢を張ってでも 強い自分を
自分と周りとに 認めさせたいタイプ。
妻にも 子供にも 親にも 友達にも。
その夫が へろへろになって
弱いダメなオトコになっている。
これは 余程のことだわ、と
私は内心ドキドキしていた。
亭主は 自分のベッドで 私の側に
頭を近づけた。
「いいコ いいコ して。」
びっくりした。
恋愛中には 「いいコ、いいコ」したことが
あったかもしれない。
結婚して20年は なかったと思う。
いつも 自分が中心で つっぱしっている亭主が。
私は 手を伸ばして
精一杯 優しく いいコいいコをするしかなかった。
強がらずに 自分から
「いいコ いいコ」を求めてくるなんて。
これは 亭主の 久々の進歩かもしれない。
その晩は
いつまでも いろんなことを語り合った。
亭主は 自信を失って 非常に弱気だった。
今なら 素直に
私の言う事をきいてくれそうな雰囲気だったので
私はチャンス、とばかり
いろいろな要望を出した。
そんな対話さえ このところ ほとんど無くなっていた。
久々の 言葉の キャッチボール。
亭主は 私の言葉に対して
今まで聞いたことがないほどに
素直な返球を返した。
娘や私が ネットにはまって(?)いるのが
楽しそうで 羨ましかった、と亭主は言った。
私は 今自分が一番面白いと思っている
ブログを亭主に提案した。
前から 仕事の関係の ホームページを開く事を
夢に見ていた私だった。
どうやら 私には ホームページは難しそう。
または、面倒そう。
でも、ブログなら。
いろんな人に訪れてもらって
コメントをいただいて
交流を図れるブログなら。
亭主はこの提案に興味を示し、
それでも仕事で時間を割けないから、と
亭主と私、ふたりの共同作業で
ブログを開設しよう、という話になった。
内容は 亭主も以前から 暖めていたものがあると言う。
それを 私が打ち込んで・・・。
夜はどんどん更けていって
翌朝 私は眠かったけど
亭主はスッキリした顔で起きてきた(遅い時間に)。
私はひとりでワクワクしながら
準備した。
そしたら、私の窓に紹介する?どうする?
とか 悩んだり。
結局 亭主の仕事は 8月の終わりに
また多忙を極めるようになって
色々な計画は立ち消えになり
亭主は 強がり亭主に戻り
新たなブログは始まらない。。。