どうも、日本のトップリーダーには、「日本の国債残高のGDP比は先進国の中で最悪」という知識しかないようだ。一般国民なら、それでも構わないが、それだけで財政を語ろうというのでは、「何とかの一つ覚え」だろう。今日は、財政を知らない日経の論説委員の諸君への基礎講座である。
財政を知るには、この3年ほどの動きを振り返っておく必要がある。リーマンショックに見舞われた後の2009年度、その予算規模は補正後で102兆円であった。それが2010年度には、同じく補正後で97兆円になっている。つまり、昨年度1年間は、差し引き5兆円のデフレ財政を行ってきたことになる。
むろん、2009年度は、リーマンショックに対応するための緊急措置をしていたから、そこから予算規模を縮小していくのは当然ではあるが、その幅が、どの程度であるべきかについては議論が必要だ。トップリーダーは、財政当局の宣伝を鵜呑みにするのではなく、これができなければならない。
筆者の見方は、急速過ぎるというものだ。実際、年度後半になって、景気対策が次々に打ち切られると、景気回復は踊り場を迎えた。日本のトップリーダーは、景気対策を「ぶった切る」ことに快感を覚えるようであるが、経済にとっては、それが財政健全化のためであろうと、そうした急激さは危険である。きちんとした経過措置を設けなければならないことは、駆け込み需要とその反動で混乱したことを、改めて挙げるまでもない。
次に、今年の2011年度予算であるが、予算規模は92兆円である。前年度補正後の97兆円と比較すれば、差し引き5兆円のデフレ財政ということになる。四捨五入が重なっているので、正確な数字で言うと、4.3兆円のマイナスだ。そして、ここに東日本大震災が発生し、その復興のための補正予算をどうするかが、今の焦点である。
大震災の発生直後、日銀は、10数兆円の大量の資金供給を行い、債権買い入れ枠の5兆円拡大も実施した。このような経済ショックに対応して、金融緩和の措置を取るのはセオリーである。経済ショックは、生産、消費、設備投資へと波及していくから、財政も、復興に必要な支出も含めて、拡張の措置を取るというのが、これまたセオリーだ。
例えば、阪神大震災のときの1995年度は、災害対策に3兆円、景気対策に5兆円の財政出動を実施した。この年度のGDPは480兆円、経済成長率は2.3%だから、その大半を財政出動で確保したことになる。逆に、それをしていなければ、日本経済がどうなっていたかを考えると、恐ろしいものがある。
さて、今回の2兆円規模とされる補正予算であるが、予備費と予算の付け替えで財源を確保するようなので、補正後の予算規模には、まったく変化がない。つまり、大震災のショックに直面して、デフレ財政を敢えて変更しないという判断である。これは、正直、常軌を逸している。やるなら、せめて、極めて危険な行為をしているという認識を持ってもらいたい。
日経の論説は、当初予算の国債発行額を1兆円でも増やしたら、財政が破綻すると信じ込んでいるみたいだが、実態は、予算規模を4.3兆円拡張したとしても、前年度と同じになるだけのことで、デフレ財政を中立に戻すに過ぎない。これで財政が破綻するなど、あり得ないだろう。むしろ、経済ショックに直面しているのに、デフレ財政を貫く方が異常だ。
確かに、予算規模を前年度と同じに拡張すると、国債発行高は前年度の44兆円より増えることになるが、これは、今年度は埋蔵金の発掘額を減らしていることによる。形式的に増えたとしても、純債務の増加という観点では、実質的に同じである。何なら、国債増額でなく、埋蔵金の発掘という「経理操作」で用意することも可能だ。
昨日の朝日に掲載された、現役の会計検査院審議官の飯塚正史さんが提案する、「決算剰余金」を使うという「経理操作」には、思わず苦笑させられたが、他にも、いろいろな手はあり、それこそ、政治が決断し、財政当局にやれと言えば、いくらでも捻り出してくるだろう。もっとも、それならOKに宗旨替えするというのでは、経済学の見識が疑われるが。
改めて言うまでもないが、経済的な観点では、4.3兆円の国債増発を市場が消化できないはずがない。日銀の資金供給と債権買い取り枠の拡大で余裕があるし、大震災の被害が巨額だと騒がれても、長期金利は安定したものである。しかも、欧米には金利先高感があって円安方向なので、マンデル・フレミング効果で減殺される心配も少ない。そして、大震災のショックによって、経済の停滞から資金が余り気味になることは目に見えている。
もちろん、野放図な予算規模の拡大はすべきではない。筆者は、阪神大震災の復興予算が3.4兆円だったことを踏まえると、地震と津波の被害への対応は、5兆円程度で間に合うと考える。大雑把な内閣府の被害推計を基に、阪神大震災のときの何倍にもなると騒いだり、原発や停電の被害に怯え、「どれほど必要か分からない」というパニックになってはいけない。日本は、緊縮財政とパニックの極端に振れ過ぎである。
もし、どうしても国債を増発するのが不安なら、5兆円の増発分の金利と1/60の償還に必要な増税だけを行えば十分である。それは2000億円にも満たす、5%の法人減税を4%に留めるだけで十分に捻出できる。この程度の増税なら、国民的合意だの大連立だのが必要になるものではあるまい。
先日も取り上げた大和総研の武藤敏郎さんだが、昨日の朝日にあった「復興基金」と「連帯税」の構想は、筆者の前述の最低限の増税策と、理論的に同じものである。国が債務保証をし、利子と償還財源を連帯税で補填することと、赤字国債を発行し、利子と償還財源分を増税することは、経済的に変わりがない。ボイントは、最低限必要な増税は、意外に小さいということだ。
武藤さんは、財務省、日銀、民間シンクタンクを経験し、現実的な経済政策を立案するのに、最も見晴らしの良い位置に居る。その人が言っているのだから、信じてやってほしいね。少なくとも、君たち日経の論説より、遥かに良く財政を分かってるよ。ところで、委員長は、平田育夫さんから、誰になったのかな。「核心」でのデビューが楽しみだね。
(今日の日経)
計画停電、月内に原則廃止、夏場大口25~30%制限、家庭も15%節電。トヨタ国内は大半再開。中国、0.25%追加利上げ。1次補正財源、歳出見直しで1兆円。高濃度汚染水6万トン。経済教室・地方の財政支援・土居丈朗。
財政を知るには、この3年ほどの動きを振り返っておく必要がある。リーマンショックに見舞われた後の2009年度、その予算規模は補正後で102兆円であった。それが2010年度には、同じく補正後で97兆円になっている。つまり、昨年度1年間は、差し引き5兆円のデフレ財政を行ってきたことになる。
むろん、2009年度は、リーマンショックに対応するための緊急措置をしていたから、そこから予算規模を縮小していくのは当然ではあるが、その幅が、どの程度であるべきかについては議論が必要だ。トップリーダーは、財政当局の宣伝を鵜呑みにするのではなく、これができなければならない。
筆者の見方は、急速過ぎるというものだ。実際、年度後半になって、景気対策が次々に打ち切られると、景気回復は踊り場を迎えた。日本のトップリーダーは、景気対策を「ぶった切る」ことに快感を覚えるようであるが、経済にとっては、それが財政健全化のためであろうと、そうした急激さは危険である。きちんとした経過措置を設けなければならないことは、駆け込み需要とその反動で混乱したことを、改めて挙げるまでもない。
次に、今年の2011年度予算であるが、予算規模は92兆円である。前年度補正後の97兆円と比較すれば、差し引き5兆円のデフレ財政ということになる。四捨五入が重なっているので、正確な数字で言うと、4.3兆円のマイナスだ。そして、ここに東日本大震災が発生し、その復興のための補正予算をどうするかが、今の焦点である。
大震災の発生直後、日銀は、10数兆円の大量の資金供給を行い、債権買い入れ枠の5兆円拡大も実施した。このような経済ショックに対応して、金融緩和の措置を取るのはセオリーである。経済ショックは、生産、消費、設備投資へと波及していくから、財政も、復興に必要な支出も含めて、拡張の措置を取るというのが、これまたセオリーだ。
例えば、阪神大震災のときの1995年度は、災害対策に3兆円、景気対策に5兆円の財政出動を実施した。この年度のGDPは480兆円、経済成長率は2.3%だから、その大半を財政出動で確保したことになる。逆に、それをしていなければ、日本経済がどうなっていたかを考えると、恐ろしいものがある。
さて、今回の2兆円規模とされる補正予算であるが、予備費と予算の付け替えで財源を確保するようなので、補正後の予算規模には、まったく変化がない。つまり、大震災のショックに直面して、デフレ財政を敢えて変更しないという判断である。これは、正直、常軌を逸している。やるなら、せめて、極めて危険な行為をしているという認識を持ってもらいたい。
日経の論説は、当初予算の国債発行額を1兆円でも増やしたら、財政が破綻すると信じ込んでいるみたいだが、実態は、予算規模を4.3兆円拡張したとしても、前年度と同じになるだけのことで、デフレ財政を中立に戻すに過ぎない。これで財政が破綻するなど、あり得ないだろう。むしろ、経済ショックに直面しているのに、デフレ財政を貫く方が異常だ。
確かに、予算規模を前年度と同じに拡張すると、国債発行高は前年度の44兆円より増えることになるが、これは、今年度は埋蔵金の発掘額を減らしていることによる。形式的に増えたとしても、純債務の増加という観点では、実質的に同じである。何なら、国債増額でなく、埋蔵金の発掘という「経理操作」で用意することも可能だ。
昨日の朝日に掲載された、現役の会計検査院審議官の飯塚正史さんが提案する、「決算剰余金」を使うという「経理操作」には、思わず苦笑させられたが、他にも、いろいろな手はあり、それこそ、政治が決断し、財政当局にやれと言えば、いくらでも捻り出してくるだろう。もっとも、それならOKに宗旨替えするというのでは、経済学の見識が疑われるが。
改めて言うまでもないが、経済的な観点では、4.3兆円の国債増発を市場が消化できないはずがない。日銀の資金供給と債権買い取り枠の拡大で余裕があるし、大震災の被害が巨額だと騒がれても、長期金利は安定したものである。しかも、欧米には金利先高感があって円安方向なので、マンデル・フレミング効果で減殺される心配も少ない。そして、大震災のショックによって、経済の停滞から資金が余り気味になることは目に見えている。
もちろん、野放図な予算規模の拡大はすべきではない。筆者は、阪神大震災の復興予算が3.4兆円だったことを踏まえると、地震と津波の被害への対応は、5兆円程度で間に合うと考える。大雑把な内閣府の被害推計を基に、阪神大震災のときの何倍にもなると騒いだり、原発や停電の被害に怯え、「どれほど必要か分からない」というパニックになってはいけない。日本は、緊縮財政とパニックの極端に振れ過ぎである。
もし、どうしても国債を増発するのが不安なら、5兆円の増発分の金利と1/60の償還に必要な増税だけを行えば十分である。それは2000億円にも満たす、5%の法人減税を4%に留めるだけで十分に捻出できる。この程度の増税なら、国民的合意だの大連立だのが必要になるものではあるまい。
先日も取り上げた大和総研の武藤敏郎さんだが、昨日の朝日にあった「復興基金」と「連帯税」の構想は、筆者の前述の最低限の増税策と、理論的に同じものである。国が債務保証をし、利子と償還財源を連帯税で補填することと、赤字国債を発行し、利子と償還財源分を増税することは、経済的に変わりがない。ボイントは、最低限必要な増税は、意外に小さいということだ。
武藤さんは、財務省、日銀、民間シンクタンクを経験し、現実的な経済政策を立案するのに、最も見晴らしの良い位置に居る。その人が言っているのだから、信じてやってほしいね。少なくとも、君たち日経の論説より、遥かに良く財政を分かってるよ。ところで、委員長は、平田育夫さんから、誰になったのかな。「核心」でのデビューが楽しみだね。
(今日の日経)
計画停電、月内に原則廃止、夏場大口25~30%制限、家庭も15%節電。トヨタ国内は大半再開。中国、0.25%追加利上げ。1次補正財源、歳出見直しで1兆円。高濃度汚染水6万トン。経済教室・地方の財政支援・土居丈朗。