経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

地に着いた水産業の再生

2011年04月20日 | 経済
 今日の日経社説は、被災地水産業の再生。ようやく、取り上げてくれた。ベースになっているのは、農水省の構想であり、これも現実に則した内容で好感が持てる。エコタウンだの、文明災だのと、上滑りな議論ばかりが踊っていたので心配していたが、これで地に足の着いた構想になると期待したい。

 経済学ではおなじみだが、貿易自由化は、経済全体で見れば利益をもたらすが、それで損害を受ける者も出るため、利益の再分配で痛みを和らげることが必要であるとされ、それが合理的な政策だと言われる。

 今回の水産業の再生は、漁港を集約し、重点的な設備投資で効率化を図り、震災前よりも生産性の高い水産業を目指している。この方向は正しいし、復興のための予算も認められるだろう。その際、大切なことは、合理化される小規模の漁村や高齢の漁民の生活をどうするかである。

 そうした所の漁師が重点漁港を利用できるよう便宜を図るのは当然だが、それに加えて、道路やバス路線を整備して、婦人が加工場に通えるようにしたり、あるいは、住居を移すのを助けたりすることまで必要かもしれない。こういったことは復興の対象として見過ごされがちだから、十分な配慮がいる。そういう意味での総合的なプランが必要だ。

 また、合理化で引退を余儀なくされる高齢の漁師には、漁業権を借り受けることで「年金」を出すといった手当も必要である。住宅再建も、木造戸建ての復旧ではなく、将来的に高齢者専用賃貸住宅にもなる集合住宅を、津波にも耐える鉄筋中高層で建てることが必要であろう。総合プランには、福祉的要素も加えねばならない。

 日経は、とかく規制緩和を主張するが、その実現には、合理化で不利益を受ける人たちを、どう救うかの工夫がカギになる。規制緩和は、予算のかからないお手軽な政策に見えるが、利益再分配のためには、一定のお金が必要であり、それをどれだけ用意できるかで、社会の効率化が決まる。規制緩和ができない裏には、必ず、そういう問題が隠れている。

 さて、現場と関わらざるを得ない農水省は、現実的なプランを出してきた。必要な予算は、意外にも、一次補正で2000億円、二次でも数千億円だという。世間で言われるような、最大25兆円ともいう復興予算とはケタが違う。そろそろ、財政当局が増税のために仕掛けた「虚構性」に気づいても良い頃ではなかろうか。

 今日の日経には、まず、復興財源として、消費税を2~3%上げ、引き続いて社会保障へ恒久化し、更に引き上げるという記事が載っている。これが財政当局の本音だろう。復興の費用を2~3年の短期間で償還するというのは、財政の常識からは外れているのだが、そうでなければ、財政再建の「道具」にはならないからね。

 それにしても、消費税を2~3%引き上げるには、景気を失速させないために、同じくらいの物価上昇率がいる。その時の名目成長率は5~6%にはなっているだろう。取らぬタヌキの皮算用もいいところだ。こんな夢みたいなことを考えるより、足元の消費の停滞でも心配したらどうかね。まあ、デフレでもお構いなしに、やるつもりなんだろうけど。日本の財政当局の「自殺計画」への執心ぶりには恐れ入るよ。日経も、そろそろ現実に帰ってきたらどうか。

(今日の日経)
 健保組合4割保険料上げ。自家発電装置を増産。社説・被災地水産業の再生、企業化も視野に。東北の大型11漁港を重点整備、農水省検討、復興を機に。復興財源、消費増税に軸足、2段階増税案浮上。年金財源の転用合意。電力削減軽減探る。生保電力使用25%減へ。消費者心理最大の悪化、回復の兆しも。中国景気・減速感漂う消費。インドネシア東電にLNG。長期金利じわり低下、復興税で。経済教室・学歴インフレ・刈谷剛彦。

※電力供給の記事は役立つ内容。広野火力と揚水発電の関係が良く理解できた。消費回復の兆しなんて、まだまだ早い。長期金利は米国の影響の方が大きい。頼りにならん日本の政治家の復興税くらいで、市場は動くもんかね。
コメント (1)
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