経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

大震災後のリスクとビジョン

2011年04月08日 | 経済
 残る大震災後のリスクは、間抜けな経済運営をすることだけになった。今日の富民さんの「大機」を見るが良い。これが日本経済の客観的な底力であり、これを普通に活かせば、天災から立ち直ることは難しくない。富民さん、久々に爽快だったよ。中堅どころの書き手は、浮き足立ったことばかりを連ねていたからね。

 あとは、今年度予算が前年度よりデフレ予算になっているという「事実」をわきまえず、大震災の経済ショックを受けても中立にすら戻さない、「度外れた」経済運営をすることによる「人災」だけが心配される。財源を国債にするか、年金の「埋蔵金」にするかという、経済的には同じことで、どうでもよい調整に時間を浪費する体たらくぶりだからだ。

 最大のリスクだった原発事故は、今の「良くない状態」が1年続くだろうが、一応の安定を見せている。周辺の放射能は、少しずつではあるが、薄らいでいこう。夏場の電力不足については、日経にはないが、鹿島共同火力の復旧などで5000万kwが確保できそうであり、平年の夏の最大需要5500万kwにあと1割に迫った。節電努力が加われば、経済活動の大きな支障にならないところまで来た。

 おそらく、大震災による4-6期までの経済活動の落ち込みは、大きく出ると思われる。大変な政治的労力をかけて既存歳出の削減を行ったところで、あとで景気対策を追加せざるを得なくなるだろう。阪神大震災のときがそうだったのであり、復興よりも多くの財政出動を景気対策に使っている。

 震災復興は、供給力の制約があって、徐々に進めるしかないから、復興予算を無闇に積み上げても無意味である。もちろん、他地域で建設需要を増やす公共事業や住宅投資の追加もできない。できる景気対策は、所得再分配の手法に限られるわけで、子ども手当を減らしておいて、今度は減税をするといった、ストップ&ゴーの極めてくだらない経済運営になろう。まあ、何もしないで経済を低迷させる可能性も高いがね。

 さて、レベルの低い経済運営の評論をしていると、こっちまで程度が落ちる気がしてくる。マクロの話は、このくらいにして、今日は、具体的な復興策についても触れておく。復興とは「漁業再生」だという話だ。

 関東や阪神の大震災のときは、都市の再生が必要だったが、今回の震災は都市で起こったわけではない。東北の「首都」仙台の中心部に大きな被害はない。再生の対象は、三陸沿岸の漁業の町であり、日本再生だの、復興庁だのといった上滑りな議論はやめてもらいたい。

 東北の漁業の課題は、資源管理型への転換であり、効率化・高鮮度化である。例えば、中小の漁船を、フィッシュポンプや瞬時の冷蔵装置を装備する「改革型」の大型まき網船に集約するといったもので、限られた水産資源を保全するために漁獲量を減らす一方、効率化や高鮮度化によって所得を高めなければならない。それが若い後継者を得ることにもつながる。

 したがって、単に地震や津波によって破壊された漁船や漁港を復旧して元に戻すのではなく、しっかりした生活保障をした上で、高齢の漁民には引退してもらう一方、高付加価値の漁業を実現すために、若手には十分な設備投資をしてやる必要がある。それには、ビジョンと予算が必要で、政治的なリーダーシップも欠かせない。報道される「復興委員会」のメンバーに、都市の専門家はいても、漁業のプロがいないのはどうしたことか。

 三陸沿岸の交通網の「復興」についても、ローカル線を復旧させるだけでは将来につながらない。もともとが赤字で、高齢化で存続が危ぶまれていたからだ。例えば、復旧の代わりに「基金」を設けて無料バスの運行で代替するとか、全面復旧をせず、道路と鉄路の両方を走れるDMVを導入するとかが考えられる。思い切って、高速道路に投資するという方法もあろう。いずれにせよ、新たなビジョンと予算が必要である。

 政治の役割とは、こうした新たなビジョンを掲げ、必要な予算は確保すると約束した上で、専門家と官僚を駆使して具体策を立案させることである。どうでもよい財源の手当策で延々と揉んでいる場合ではあるまい。日本のトップリーダーのレベルの低さに引きずられてしまい、本当のリーダーシップの「切れ味」を忘れてはならないのだ。

(今日の日経)
 宮城で震度6強、東北で広域停電。欧州中銀0.25%利上げ。追加引き上げに含み、混乱広げる恐れ。ポルトガルが金融支援要請。復興1次補正、国費で4兆円方針。日銀、11年度見通し大幅修正。電力制限、大口25%で最終調整。節電へ時間差操業。大機(富民)・日本は世界一の債権国、供給余力10兆円、所得収支の黒字12兆円、国内余剰資金10兆円。経済教室・中国の平和的発展・関志雄。

※ついにポルトガルが降参した。日本より財政赤字はひどくないのにね。なぜなのか、富民さんの「大機」を読んで考えてもらいたい。日銀も見通しを大幅に下げているのに、緊縮財政を継続させ、人災を呼び込むことの愚かしさが分かるというものだ。
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