経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

なぜ財政赤字は巨大になったのか②

2010年04月26日 | 経済
 ハシモトデフレは、緊縮財政で過激な所得の吸い上げをやった。内需が低迷し、在庫は急増、設備投資の腰を折ってしまう。また、資産価格の下落を招いて、不良債権に火をつけ、貸し渋りも引き起こした。円安にしたことで、アジア通貨危機の背景ともなる。考えられる最悪の結果と言っていい。しかも、そうなるからと、事前に内外から批判されていながら、押し切ったものだった。

 これは、財政再建を実現し、後世に負担を残さないという強い決意と善意によって行われた。まさに「地獄への道は善意で舗装されていた」のである。崇高な理念は、ときとして現実を見失わせる。こうして、日本は、自分で作った経済危機に対応するために経済対策を打たざるを得なくなり、意図とは反対に国債残高を急増させてしまう。

 その後、低レベルに嵌り込んだ経済を引き上げることは、更に困難になった。本当は、高い成長率が実現するまで、緊縮財政を我慢しなければならないのに、大きくしてしまった財政赤字を不安に思い、早々と緊縮財政に戻しては内需を低迷させるという繰り返しになった。大規模な外需に恵まれるという幸運がなければ、もっと悲惨なことになっていただろう。

 山の遭難でも、不安を抑えて好天を待つというのは尋常ならざる精神力がいる。慌てて動き回って体力を消耗し、死に至ることは珍しくない。日本は、今、そういう情況にある。日経の記事では、銀行が貸出先に困って、国債投資をせざるを得ないと書きつつ、将来のリスクを敢えて探すようなことをしている。

 いかに不安は募っても、今できることは限られている。成長を待って、需給ギャップが埋まり、物価が上昇してくるまで、増税をして所得を吸い上げることはできない。不安に負けて、経済状況に合わない急進的な政策を巡らすことを避けなければならない。10年度予算は前年度より10兆円も少なく、企業収益の上昇で法人税の増収も予想される。既に、何もしなくても、緊縮財政に向かっているのである。

 財政再建をするということは、政府が使用する貯蓄の量を減らすことである。政府が使わなければ、その代わりに企業部門が使わないと、需要が不足して経済が収縮に向かってしまう。経済学の教科書と違い、現実には、財政再建→金利低下→設備投資とはならない。そのため、設備投資の回復を待ち、企業部門が増やした分だけ、政府の貯蓄使用量を減らすという対応を取るしかない。

 迂遠に思われるだろうか。動きを見極め、すかさず打って出る「後の先」とは、剣法の極意だが、日本の経済政策に必要なのは、これである。物価が上がるまで心を静かにし、動きを見切って財政再建へと舵を切る。こうした政策を事前にアナウンスしておく技術的な鍛錬はもちろん、精神の修養なしにできるような技ではない。

(今日の日経)
 社説・構造改革あってこその政府・日銀協力。月曜経済観測・精華大センター主任。英語を選択科目に。弱者救済か成長優先か・アジア。バイオ燃料米軍が導入。50歳になったリクルート。国立研究開発機関制度の中間報告。ペーパーチェイス。

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