ー八日目の蝉ー
2011年 日本
監督=成島出 原作=角田光代 キャスト= 井上真央(秋山恵理菜=薫)永作博美(野々宮希和子)小池栄子(安藤千草)森口瑤子(秋山恵津子)田中哲司(秋山丈博)市川実和子(沢田久美(エステル))平田満(沢田雄三)劇団ひとり(岸田孝史)余貴美子(エンゼル)田中泯(タキ写真館・滝)風吹ジュン(沢田昌江)
【解説】
誘拐犯の女と誘拐された少女との逃亡劇と、その後の二人の運命を描いた、角田光代原作のベストセラー小説を映画化したヒューマン・サスペンス。監督は、『孤高のメス』など社会派エンターテインメント作品で定評のある成島出。誘拐された少女の大学生時代を井上真央が演じ、愛人の娘を誘拐する女性に永作博美がふんするほか、小池栄子や森口瑤子、田中哲司など実力派俳優が勢ぞろいする。(タイトルの「蝉」は、「虫」に「單」が正式表記)
【あらすじ】
子どもを身ごもるも、相手が結婚していたために出産をあきらめるしかない希和子(永作博美)は、ちょうど同じころに生まれた男の妻の赤ん坊を誘拐して逃亡する。しかし、二人の母娘としての幸せな暮らしは4年で終わる。さらに数年後、本当の両親にわだかまりを感じながら成長した恵理菜(井上真央)は大学生になり、家庭を持つ男の子どもを妊娠してしまう。(シネマトゥデイ)
【感想】
なかなか面白かったです。
原作がいいのでしょうね。
読んでいませんが。
テレビドラマ化もされたようですが、私は見ていません。
ということで、この作品だけを見ての感想ですが、二人の母と、その犠牲者といっていい娘の心情がとてもよく描かれていました。
秋山丈博(田中哲司)には、恵津子(森口瑤子)という妻がいたにもかかわらず、希和子(永作博美)とも付き合っていた。
希和子が妊娠を告げると、秋山の態度は一変する。
断腸の思いで堕胎した希和子だが、それがもとで、二度と子供を産めないからだとなってしまう。
しかも、恵津子が妊娠。
恵津子は希和子の存在を知り、訪ねて来てののしった。
空虚な気持ちの希和子は、秋山と別れを決心し、一目だけでもと思い、秋山の留守宅に上がり込み、赤ん坊だった恵理菜を見るが、魔が差して誘拐してしまう。
☆ネタバレ
希和子は恵理菜を連れて逃げ惑い、カルト集団「エンゼルハウス」に3年間身を寄せる。
そこに警察が入ることを知り、恵理菜を連れて小豆島に渡る。
エンゼルハウスで懇意にしていたエステル(市川実和子)の実家に身を寄せ、普通の親子として1年間幸せに暮らしていたが、全国紙の写真コンクールに二人の写真が掲載され、再び逃亡を企てたところで警察に捕まる。
そして、その裁判シーンから映画は始まるが、希和子には反省がなく、実刑となり、恵理菜は実母恵津子の元で育てられた。
4歳まで希和子に育てられた恵理菜は、恵津子になつかない。
恵津子はヒステリックにわめき出し、恵理菜は泣いて謝る。
どちらも、なぜそうなるか、わからない。
この母娘が失ったものは、永遠に取り戻せないのだろうか?
恵津子が狂うシーンは、ぼろぼろと涙が止まりませんでした。
やはり、私は実母の心情に添って見てしまいました。
彼女が悪く描かれているなんて、ちっとも思いませんでした。
彼女は荒れて当然、狂って当然です。
恵津子にはなんの非もないのですから。
悪いのは秋山丈博です。
一生をかけて償わないと行けないのは彼だと思います。
ある程度、自覚して努力をしているようすがあったので、救われていると思いました。
恵理菜にも、当然非はないのですが、実母を愛せないと言うのが後ろめたさになっています。
そして、希和子を恨んだり憎んだりしないといけないという思いも、すごいストレスになっていると思います。
しかも岸田孝史(劇団ひとり)と、希和子と同じような愛人状態になって、妊娠もして、さらに恵津子との関係が悪化します。
そこへ現れたのが、ジャーナリストの安藤千草(小池栄子)。
恵理菜の事件を記事にしたいという。
二人は、希和子との逃亡生活を追って、大阪から小豆島に旅をする。
これが、恵理菜の心の旅になりました。
そして、小豆島の写真館に残されていた希和子と幼い自分の写真。
そして、希和子が捕まるときに言った言葉。
自分が愛されていたことを知り、自分も希和子を愛していたことを思い出した恵理菜は、実母との関係修復への努力や、子供を産むことへの希望も見いだして、新しい人生に向かう決心をしたのでした。
女優さんたちが素晴らしかったです。
特に、小池栄子さん。
いつも健康で明るいイメージですが、今回の役はかなり不健康な精神の持ち主で、それをとてもうまく表現していました。
大柄な体を曲げて、おどおどした不安そうな表情がとてもうまいと思いました。
エンゼルハウスで育ち、恵理菜の幼いときを知る複雑で重要な役ですが、そういう千草だからこそ、恵理菜も心を開いたんだなあ、と感じさせる演技力でした。
永作博美さんは、これは彼女の役だろうなと言うほどでした。
一番の嫌われ者ですが、この役が観客から愛されなければ、観客には葛藤が生まれないでしょう。
井上真央も素晴らしかったです。
お母さん、特に子供を産んだばかりの母親は、感情的で神経質で野生さえ感じるほどです。
出産そのものが自然なことなので、当然だと思います。
そこをうまくフォローしてあげるのが父親の役目でしょう。
母親を安心させ、子育てに専念できる環境を作る。
それが、この作品のように、子供を奪われてしまうと言うのは母親にとって最悪の出来事です。
その犯人は、夫の愛人なんて、立ち直れないほどのショックでしょう。
私は、恵津子に深く同情し、この母に再び幸せが来るようにと、祈らずにはいられませんでした。
恵理菜の子供をかわいがって育てて、自分の失われた時間を取り戻せたと思えたらいいのですが…。
そういう予感で満ちあふれている、いいラストだと感じました。
私はああいうヒステリックで自己中な性格だから夫も実の娘も離れてしまったんだろうと思っちゃいました。
映画も、どちらかというと犯人である愛人と誘拐された子供の心のつながりを強調していたのでね(^^;
その状況で、理性的でいられるなんて、思えませんでした。
私は、実母には非はないという意見でした。
たとえ、ヒステリックで自己中心的な性格でも、それは犯罪ではないからね。
そういう意味で、希和子のしたことは取り返しがつかないことだと思いました。
原作があるから、内容は同じだと思うけど、えがき方は映画とドラマでは違うのかな~?
ドラマでは、永作博美の役が檀れい、森口瑤子役が板谷由夏、娘の井上真央役が北乃きいでした。
私は板谷由夏があまり好きではないのと、檀れいの「なんとかしてあげたい」と思わせるような演技に惹かれて、やっぱり檀れいが可哀そう、この幸せが少しでも永く続きますように・・・と願いながら見ていました。
どちらにしても、絶対に悪いのは妻がいながら離婚する気もないのに結婚をちらつかせて希望を持たせ愛人とつながり続け、身ごもらせていまい、堕胎させてしまった夫なんですけどね・・・
ドラマでは各回に【逃亡】【エンジェルの家】【悲しき女たち】【恋】【光の島】【奇跡】とぴったりの題がついていました。
ただ、最終回の【奇跡】は、逮捕され服役して刑期を終え、もう二度と会えないと思っていた『薫』と再開できたことだと思うけど、檀れいはテーブルに残された蝉のぬけがらで薫と確信したけど、呼び止められた恵里菜が振り返ったところで終わっていたのがちょっと残念。
恵里菜は育ての親とわかったのかな~?せめて「お母さん」と言い、抱き合って終わって欲しかったなあと、最後まで檀れいの味方をしながらみていました。
映画の終わり方も同じでしたか?
ドラマは時間が長いから、たっぷり描かれていたでしょうね。
映画で見ても、たぶん誘拐した女に観客は共感するでしょう。
そういうふうに作られているんだと思います。
それでも、私は人格を破壊され狂って生きている実母が可哀想でなりませんでした。
テレビで見ても、私はそう感じるのではないかな?
映画は誘拐犯とも再会せず、過去を受け入れて生きる決心をするところで終わっていました。
どちらがいいか、レンタルできるようになったら、見て教えてくださいね。