ー徘徊 On The Road ママリン87歳の夏ー
2015年 日本
監督=田中幸夫 出演=酒井アサヨ 酒井章子
【感想】
私も十数年前から母と暮らしていて、母もアサヨさんと同い年。
しかも、撮影されている場所が、うちのご近所。
毎日通る場所がスクリーンに現れました。
なんか、他人事じゃないわあ。
ギャラリーを経営する章子さんは独身。
アサヨさんは夫を亡くしたあと、奈良で一人暮らしをしていたが、認知症となり、ご近所からも苦情が来るようになったので、章子さんが自宅に連れて帰って、それ以来、6年間同居している。
最初の半年程は、家に閉じ込めていると玄関ドアをどんどんと叩き、制止すると暴言、暴力で罵倒されたという。
ケアマネージャーに付いてもらって、デイサービスに通い出し、少しき落ち着いたものの、やはり扉を叩いて出て行こうとする。
ある日、扉を開け、都会の雑踏の中にママリンを解き放ったー。
母娘二人の会話は漫才のようにおかしかったです。
劇場内からも笑い声が起こっていました。
よく聞いていると、アサヨさんにはアサヨさんの言い分があるんですね。
アサヨさんは認知症になり、ある時からいままでの記憶がないんですね。
だから、目の前の章子さんが自分の娘だと言われても、自分の記憶にあるあっこさんは幼い少女なので、この人は知らない人だと思う。
もちろん、章子さんの家は自分の家ではない。
自分の家は故郷の門司にあるのだ。
そうではないと教えられ、納得したかに見えても、記憶の蓄積もないのですぐに過去に戻ってしまい、今ここにいる自分が理解できず、混乱し、不安でいてもたってもいられなくななるようです。
1日に4回の徘徊、雨が降っても、夜になってもマリリンは歩き続ける。
こういうお母さんをお世話する娘は本当に大変。
わかっていても、情けなく悲しい日々が続いていたことでしょう。
どこかで吹っ切った章子さんは素晴らしいと思いました。
ちんぷんかんぷんな会話を「一応会話になっているでしょ?まだ、人間性があるのね」という章子さん。
娘ならではの言葉だなあ、とじんわり目頭が熱くなりました。
人間の生命力って凄いし、生きようとするエネルギーも凄い。
老いても、認知症となっても、人は生きようとするのだなあ。
それが徘徊となってほとばしる。
ほんと、周りの人間にとっては大迷惑な話だけど、それも人生だし、私たちの未来だものね。
いい作品でした。
ロードショー公開ではないので、見る機会は少ないですが、ぜひご覧下さい。
第七芸術劇場では、4月24日まで上映日が延長されました。