MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

最初は考えない疾患

2017-04-16 18:28:05 | 健康・病気

4月のメディカルミステリーです。

 

4月8日付 Washington Post 電子版

 

The awful sores in her mouth were

symptom of something very serious

彼女のひどい口のびらんは深刻な病気の症状だった

 

By Sandra G. Boodman,

 2012年10月、Elizabeth Starrels さんはワシントンの耳鼻咽喉科専門医の診察椅子に座り、失意と痛みで涙を流していた。

 それまでの4ヶ月間、当時52才だった Starrels さんは悪化する口のびらん(糜爛)と戦ってきた。食べることはほとんど不可能となっており、ほとんど smoothies(スムージー:新鮮な果物や野菜をミルクセーキ状にした健康飲料)だけを摂取するようになっていた Starrels さんは体重が20ポンド(約9kg)減っていた。

 受診した歯科医や口腔外科医は、彼女が、抗生物質によってもたらされる口腔内真菌の異常繁殖による感染症である thrush(鵝口瘡)であると告げた。彼らが処方した洗浄液や薬物は短期間しか効果がないか全く効かなかった。

 次に彼女が受診した耳鼻咽喉科医は異なる意見だった。彼女の病気は炎症性疾患であると彼は考えた。MedStar's Georgetown University Hospital で働く公認看護師の Starrels さんは取り乱し、この痛みを抱えて生きていけないとその医師に訴えたが、彼の反応は素っ気ないものだった。

 「彼は、その痛みを抱えながら生きることを学ばなければならない、他に選択肢はない、と私に言いました」そう彼女は思い起こす。その医師は抗うつ薬の処方を提案した。

 しかし逆にその耳鼻咽喉科医の反応が刺激効果になったと Starrels さんは言う:抗うつ薬は必要なかったが、彼女には興味を持って快く彼女を支援してくれるような誰かが必要だった。一方で「看護師として、他の人たちを支援することができたのです。自分自身をではなく」と彼女は言う。

 それから2ヶ月が過ぎ、さらに数人の医師を経て、Starrels さんは新たな診断名を得ただけでなく、有効な治療を受けることができた。さらに彼女はオンラインでも、計り知れないほど貴重と感じるほどの援助を受けた支援グループによって勇気を得た。

 「私は診断を得たこと、そして治療があることを知ることができたことに大変感謝しました」彼女の痛みは今は消失しているという。彼女の慢性疾患は今は寛解しているが、それが長く続くことを彼女は望んでいる。

 

Dramatic weight loss 劇的な体重減少

 

 彼女が例の耳鼻咽喉科医のもとを訪れた9ヶ月前の2012年1月、Northwest Washington に住む Starrels さんはたびたび鼻出血で目が覚めた。彼女はそれを自宅の空気が乾燥しているためであり、大したことではないと考え治療を求めなかった。

 5月、彼女は唾液腺結石を発症しペニシリンを10日間投与された。原因不明に形成されるこの大きな害のない結石はカルシウムを含有しており、もし管を閉塞し唾液の流れを障害するようなことがあれば痛みや腫脹を引き起こす。

 病気が今は寛解している Elizabeth Starrels さんは、彼女が見つけた支援グループが計り知れないほど貴重だったという。

 

 その薬剤を止めて間もなく、Starrels さんにアフタ性口内炎(canker sores)に似た有痛性の口腔潰瘍ができたため歯科を受診、その後数回通院した。

 その歯科医が処方した洗浄液やクリームは有効ではなかったため、彼は同じビルの口腔外科医に彼女を紹介した。その口腔外科医は、彼女は鵞口瘡だと思うと彼女に告げたが、彼女にはそれに特徴的な白斑は見られず、むしろヒリヒリする痛みがあった。

 やがて、歯茎まで拡大していた口腔内のびらんに加えて、歯茎の組織が剝がれかけているようであることに Starrels さんは気づいた。

 食べることが大変辛くなっていたが、飲むことは耐えることができた。Starrels さんは、ほとんど噛む必要がなく刺激性のない食べ物であるヨーグルトやスィート・ポテトのほか、プロテイン・シェークや smoothies を摂取して生き永らえていた。

 例の耳鼻咽喉科医は、原因のわかっていない慢性自己免疫疾患である口腔扁平苔癬(oral lichen planus)と診断した。口腔の痛みを引き起こすこの疾患には感染性はなく、通常は局所麻酔効果のあるクリームで治療されるが、重症のケースでは炎症を軽減させる prednisone などの副腎皮質ステロイドが用いられる。口腔科の2番目の専門医も同じ意見だったが、提供できるこれ以上の治療はほとんどないと彼女に告げた。

 Starrels さんは別の方向に向かうべき時だと考えた。

 耳鼻咽喉科医受診から数週間後の11月、彼女はフィラデルフィアに出かけ、University of Pennsylvania の口腔医学の専門家を受診した。その一週間前、さらに彼女を失望させることになったのは、液体を含んだ水疱が胸にいくつか出現したことだった。

 その医師は Starrels さんの口を観察し、扁平苔癬ではないと思うと彼女に告げた。彼は、彼女の疾患がまれな自己免疫疾患である pemphigus vulgaris(尋常性天疱瘡)ではないかと考え、ただちに皮膚科医を受診し水疱の生検を受けるよう彼女を促した。水疱の生検はその疾患の診断の確定や否定に有用である。

 

Blisters 水疱

 

 尋常性天疱瘡(および天疱瘡と呼ばれる関連疾患)は、通常自己免疫系が、健康な皮膚細胞、特に粘膜を誤って攻撃する過剰反応よって引き起こされる重篤で根治不能の疾患である。有痛性水泡を生じる身体の部位によっていくつかのタイプの天疱瘡がある。最も多いタイプである尋常性天疱瘡はほとんどの場合、口腔の疼痛で始まり、他の部位の発疹へと進展する。感染性はなく遺伝性もみられないが、本疾患は地中海沿岸や中東の民族、および東ヨーロッパのユダヤ人においてよく見られる遺伝子と関連している。

 中年および高齢者に最も頻度が高い本疾患は世界中で人口10万あたり約3人が罹患し、炎症を抑える様々な薬剤で治療されている。副腎皮質ステロイドが登場するまでは、多くが致死的だった。

 「天疱瘡を持つ人はいずれも本疾患のリスクを増大させる遺伝子を持っていますが、その遺伝子を持つ1万人に約1人しか実際に天疱瘡を起こしません」そう述べるのは Johns Hopkins の皮膚科学教授 Grant J. Anhalt 氏で、彼は水泡性皮膚疾患の治療を専門にしている。その遺伝子を有する人たちのごく一部しか発症しない理由は研究者らにはわかっていない。

 Pennsylvania を受診した翌日、Starrels さんは生検を受けることができた。この手技は、Starrels さんの皮膚科医のパートナーで皮膚科学と病理学の両方の訓練を受けた医師である皮膚病理学者によって行われた。その生検で尋常性天疱瘡の予備的な確認が得られ、Johns Hopkins の病理学者によって確定診断が行われた。

 

‘A very good treatment’ “非常に良い治療法”

 

 数週間後、その皮膚科医の勧めにより Starrels さんは Anhalt 氏を受診した。

 「彼は大まかには次のように言いました。『この疾患には根本的治療法はありませんが、非常に良い治療法があります』」Starrels さんは彼にそう言われ、ホッとしたことを思い出す。

 Anhalt 氏によると Starrels さんのケースは典型的だったという。患者が診断を受けるまで平均で半年から1年を要するが、それは、口腔のびらんという明確な症状には多くの原因があり、さらに天疱瘡がまれであるということがその大きな理由である。彼女の頻回の鼻出血は本疾患の前兆だったと彼は言う。

 「天疱瘡を考えないのが普通です。その人の口腔の潰瘍が改善せず、その後皮膚にも潰瘍が出現して初めて本当の鐘が鳴るのです」

 彼を受診するまで、患者は当然のことながら不安に感じている。「彼らはインターネットを利用し、写真を見たり、ブログを読んだりしてこう思います。『あゝ何てこと、私の人生は終わってしまった』と」。

 本疾患の様々なタイプ(そのうちの一つのタイプの1990年の発見に彼は貢献している)の4才から89才までの300例の患者を治療してきた Anhalt 氏は rituximab(リツキシマブ)という薬の反復注射に期待を寄せている。この薬剤は関節リウマチや特定の癌の治療用として承認されている。先月、米国食品医薬品局は、第3相臨床試験にある本薬剤に breakthrough therapy status(画期的治療薬としての地位)、すなわち天疱瘡に対する承認を早め、保険適応を促進する指定を与えた。Prednisone やしばしば臓器の拒絶反応防止に用いられる免疫抑制薬の CellCept など他の薬剤もしばしば併用して処方される。

 他の薬剤で効果が見られない重篤なケースで既に治療に成功している rituximab は高価であり、一連の治療に約2万ドル(2,178,000円)かかる。天疱瘡の治療薬として承認されていないので「それに対して支払いを受けることには問題が起こり得ます」と Anhalt 氏は言う。しかし、早期の治療は、より迅速で、より長期の寛解につながる可能性がある。

 診断はショックだったが、原因を知ることができて安堵し、思いやりと専門的助言を示してくれた医師と出会えたことに感謝していると Starrels さんは言う。

 「私は苦悩の中にありましたが、ベストを尽くして頑張ろうとしてきました」と Starrels さんは言う。

 彼女は prednisone と CellCept の内服を始め、その後3回の rituximab の注射の1回目を受けた。彼女の保険は支障なく最初の回を補填してくれた。最終の回の補填については当初は拒否されたものの Starrels さんの要請により補填された。

 何ヶ月かを経て彼女のびらんと水泡はきれいになり痛みも消えた。彼女の最初の寛解は18ヶ月続いている。平均的寛解期は1.5年から2.5年続くと Anhalt 氏は言うが、寛解が10年以上続いた患者も一人いるという。

 Starrels さんはオンラインで、ある患者によって設立されたカリフォルニアに拠点を置くグループ、International Pemphigus および Pemphigoid Foundation から大きなサポートを得たという。本グループは彼女を他の患者たちと結び付けてくれ、難病を抱えて生きることの情動的、および実際的側面への対応に大いに役立っている。

 

 「実際、彼らに私の命は救われました」そう Starrels さんは言う。

 

 

 

天疱瘡についての詳細は難病情報センターのHP

診療ガイドラインを参照いただきたい。

 

天疱瘡は、自己免疫性に発症する皮膚・粘膜の水疱性疾患で、

表皮細胞間の接着機能が障害され棘融解(acantholysis)が生じ、

表皮内に水疱が形成される。

免疫病理学的には表皮細胞膜表面に対する自己抗体が

皮膚組織に沈着、あるいは循環血中に認められることを特徴とする。

免疫攻撃のターゲットは、表皮細胞間接着に重要な役割を持つ

カドヘリン型細胞間接着因子のデスモグレインである。

天疱瘡は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、その他の3型に大別される。

その他のサブタイプには、腫瘍随伴性天疱瘡、

尋常性天疱瘡の亜型である増殖性天疱瘡、

落葉状天疱瘡の亜型である紅斑性天疱瘡、疱疹状天疱瘡、

薬剤誘発性天疱瘡などが知られている。

 

尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris)は天疱瘡中最も頻度が高い。

特徴的な臨床的所見は、口腔粘膜に認められる

疼痛を伴う難治性のびらん、潰瘍である。

口腔粘膜症状で初発する頻度が高く重症例では疼痛のため

食事摂取が困難となる。

口腔粘膜以外にも、口唇、咽頭、喉頭、食道、眼瞼結膜、膣などの

粘膜に病変が出現する。約半数の症例で、粘膜病変に留まらず

皮膚にも水疱性病変やびらんを生じる。

びらんは、しばしば有痛性で、隣接したびらんが融合し

大きな病変(局面)となることがある。

皮膚病変の好発部位は、頭部、腋窩、鼠径部、上背部、殿部など

圧力のかかる部位に広がりやすい。

一見正常な部位に圧力をかけると表皮が剥離し、

びらんを呈する(これをニコルスキー現象という)。

 

落葉状天疱瘡で見られる病変の特徴は

皮膚に見られる薄い鱗屑、痂皮を伴った紅斑、弛緩性水疱、

びらんなどである。

紅斑は、爪甲大までの小紅斑が多いが、まれに広範囲な局面となり、

紅皮症様となることがある。

好発部位は、頭部、顔面、胸、背などのいわゆる脂漏部位で、

このタイプでは口腔など粘膜病変を見ることはほとんどない。

 

腫瘍随伴性天疱瘡は、悪性又は良性の新生物

(主にリンパ球系増殖性疾患)に伴い発症する。

びらん形成を主体とした重篤な粘膜病変と

多彩な皮膚病変を認める自己免疫性皮膚疾患で、

口腔を中心に広範囲の粘膜部にびらんを生じ、

赤色口唇に特徴的な血痂を伴う。

皮膚症状は緊満性水疱、浮腫性紅斑、紫斑など多彩。

閉塞性細気管支炎の合併に注意が必要である。

 

治療は、早期診断と十分な初期治療が重要である。

一般的には、まず副腎皮質ステロイドのプレドニゾロンを開始し、

その後減量を開始する。

再燃を認めた場合は、ステロイドを増量し、免疫抑制薬の補助療法を

併用する。

ステロイド増量のみでは減量の際、再燃する可能性が高い。

免疫抑制薬の併用に際しては、肝・腎障害、骨髄抑制作用、

感染症の併発に注意を要する。

治療抵抗例や重症例には血漿交換療法が行われる。

ステロイド内服などの通常の治療法に反応しない場合、

γグロブリン大量静注が行われることもある。

外用治療として、水疱、びらんの湿潤面には抗生物質含有軟膏、

ステロイド軟膏を塗布する。

口腔内のびらん、潰瘍には口腔粘膜用ステロイド含有軟膏、

噴霧剤などが用いられる。

 

尋常性天疱瘡は、一般的に落葉状天疱瘡に比べ難治性で予後が悪い。

特に口腔粘膜病変は治療抵抗性のことが多い。

ステロイド療法導入により、その予後は著しく向上したが、

その副作用による合併症が問題となる。

 

なおリツキシマブについては、本邦においても

まだ天疱瘡の治療薬として承認されていない。

天疱瘡の原因となる自己抗体は、CD20陽性の

Bリンパ球から産生されると考えられているため

抗CD20のモノクローナル抗体であるリツキシマブの

有効性が期待されている。

現在日本でも臨床試験が進行中であり、

早期の薬事承認が待ち望まれている。

 

 

最後に天疱瘡の診断基準を下記に載せておく。

 

<診断基準>

(1)臨床診断項目

①皮膚に多発する、破れやすい弛緩性水疱

②水疱に続発する進行性、難治性のびらんあるいは鱗屑痂皮性局面

③口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱あるいはびらん

④ニコルスキー現象陽性

(2)病理組織学的診断項目

表皮細胞間接着障害(棘融解)による表皮内水疱を認める。

(3)免疫組織学的診断項目
①病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部に

IgG(ときに補体)の沈着を直接蛍光抗体法により認める。

②血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG自己抗体(抗デスモグレイン

IgG抗体)を間接蛍光抗体法あるいはELISA法(またはCLEIA法)

により同定する。

[診断のカテゴリー]
①(1)項目のうち少なくとも1項目と(2)項目を満たし、

かつ(3)項目のうち少なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡と

診断する。

②(1)項目のうち2項目以上を満たし、(3)項目の①、②を満たす症例を

天疱瘡と診断する。

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