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妊娠中・産後の腰痛は当たり前?

2024-06-30 11:04:08 | 健康・病気

2024年6月のメディカル・ミステリーです。

 

6月22日付 Washing Post 電子版

 

 

Medical Mysteries: A new mother is felled by ferocious back pain

メディカル・ミステリー:新米のママは激しい背部痛で倒れた

While breastfeeding her new baby, she developed intense, unexplained pain that kept getting worse.

生まれたばかりの赤ちゃんに授乳していたとき原因不明の非常に強い痛みに襲われたがその痛みは悪化し続けた

 

By Sandra G. Boodman

(Bianca Bagnarelli For The Washington Post)

 

 Aimee Lucido(エイミー・ルシード)さんは最悪の時は去ったと思いたかった。彼女の娘 Lyra(ライラ)ちゃんが2023年7月に生まれて2週間後、カルフォルニア州 Berkeley(バークリー)に住む、当時32歳の Lucido さんに腰の痛みが出現したが、その痛みは当初は軽症だったがその後まともに生活できないほどに急速に増悪した。

 彼女の両親が支援するためにノースカロライナから飛んできた。彼らの10日間の滞在中は、夫が職場復帰してから Lucido さんへの負担が増していた乳児ケアの重要な柱である頻回の腰屈めや抱き上げの動作から解放された。

 「随分気分が楽になりました」そう彼女は思い起こす。彼女は児童書の作家だが、雑誌 The New Yorker や新聞 New York Times のクロスワードパズルの考案も行っている。

 

 しかし彼女の安堵は長続きしなかった。

 彼女の両親が去って数日後、Lucido さんは、ある日の早朝によろめきながらトイレに行ったとき意図せず激しく便器に座ってしまった。即座に腰に不快な震えを感じ、続いて電気が流れるような感覚が背骨に走った。続いて激しい嘔気に襲われた。痛みで意識を失うかもしれないと思った Lucido さんはトイレの床に横たわった。それから彼女は夫を起こし、ER に行く必要があることを彼に伝えた。ER では背中のひきつけを治療する薬が投与された。

 

Aimee Lucido(エイミー・ルシード)さん. (Courtesy of Aimee Lucido)

 

 その後、Lucido さんには一時的に歩行器が必要となり、シャワーを浴びたり、着替えをしたり、あるいは赤ちゃんの世話をすることもできないほどの強い痛みの未知の原因を明らかにするまでに、ERへの2度目の受診、数人の専門医への受診、さらにはラッキーな結果をもたらしたオンラインでの検索を要することになる。

 この病気は彼女の生活をひっくり返し、彼女の回復を可能とするために予定していなかった国内での移住が必要となったが、その経過には数ヶ月を要するとみられた。

 「私は心から皆さんにこの病気について知ってもらいたいです。というのも、認識の欠如こそがこの病気がしばしば重症化してしまう原因となるからです」と彼女は言う。もっと早期に原因がわかっていたら、そのリスクを減らし、被害を最小に抑えるために単純な手順を踏むことが Lucido さんにはできていたのである。

 

Slip and fall 滑って転ぶ

 

 特に問題のなかった妊娠中、そしてそれ以前も、Lucido さんはランニングをし、バーベルを持ち上げ、自転車に乗っていた。彼女に軽度の背部痛が起こった時、心配はしなかった。

 赤ちゃんを持つ彼女の友人たちが様々な疾患と取り組んでいたので、Lucido さんは背部の症状について少しは知っていた。2021年7月、彼女は自宅で滑って転倒し、木の階段の角に背部を打ち付けていた。X線写真で脊椎椎体の圧迫骨折が認められた。

 Lucido さんは回復するまで背部の装具を着用した。3ヶ月経って、「それまで一度も経験したことのないような怪我でした」と彼女は振り返った

 共に50歳代後半までに骨粗鬆症と診断されていた彼女の両親に促されて Lucido さんは渋る医師らを説得し骨密度を評価する DEXA scan(二重X線吸収法による画像検査)を受けた。この非侵襲的検査は高エネルギーのX線を用いるもので、彼女のスコアは -3.3 と、とりわけ若年成人にしては異常に低く、骨がもろく脆弱となり骨折しやすくなる病態である骨粗鬆症を示唆するものだった。

 2022年に Lucid さんが受診した内分泌専門医は、彼女が妊娠をめざしていたことを知り、彼女に十分な量のカルシウムとビタミンDを摂取し、子作りが終わったら再び受診するよう助言した(骨粗鬆症の薬は妊娠中は勧められていない)。彼女の骨密度が低いため、彼女には授乳期間を約6ヶ月に制限することを考慮した方が良いと彼は軽い態度で助言した。

 それから一年半が過ぎ(その間に出産し)彼女が最初にERを受診した後、Lucido さんは授乳が背部痛の増悪に関係するかどうか調べようとした。2人目の内分泌専門医、プライマリケアの physician assistant(PA, 準医師資格者)、理学療法医、および、数人の lactation consultants(授乳コンサルタント)からの返答は明確に“否”だった。

 彼らはそのような関連性は聞いたことがないと彼女に説明し、今のところ発見されていない何かが彼女の痛みを起こしていると考えた。

 

 

エイミー・ルシードさんと彼女の娘 ライラちゃん (Courtesy of Aimee Lucido)

 

.

 彼女が妊娠前に受診した内分泌専門医の予約を取ることができなかったので Lucido さんは2人目の内分泌専門医を受診した。Lucido さんは捻って筋肉を痛めたと思われるとその女性医師は説明した。

 「『骨粗鬆症だからという理由だけであなたから授乳のチャンスを奪いたくはありません』と彼女は言いました」そう Lucido さんは思い出す。

 彼女が ER を受診して数週間後の11月中旬には歩行が困難となっていた。Lucido さんは大量の抗炎症薬と筋弛緩薬を内服し、一日の多くをソファの上で過ごしていた。彼女を支援するために彼女の妹が東海岸からやってきた。

 プライマリケアとして彼女が受診した PA によって施行されたX線検査とMRIでは予測していなかったものが明らかになった:椎間板ヘルニアに加えて、彼女の下位脊椎に2ヶ所の新たな軽度な骨折がみられたのである。前者は通常、加齢による変性、あるいは外傷によって引き起こされる。それらの原因は明らかではなかったが、トイレでのエピソードの結果である可能性があった。

 Lucido さんが心配に思ったのはそれ以上の精査には誰も関心がないように思われたことだった。彼女は次に起こるかもしれないことを危惧する気持ちが強くなっていたことを覚えている。

 

Spilled milk こぼれた牛乳

 

 2023年12月上旬のある朝、Lucido さんが歯を磨いていると、腰に異様な痛みを感じた。それはまるで「自分の脊椎が2点でバランスを取っている2本の鉛筆でできているようでした」という。

 彼女は用心深く階下に降りていき、冷蔵庫から牛乳を取り出したが、調理台を見誤ったと思った彼女は牛乳パックが床に落ちるのを回避しようとして身体を捻って手を伸ばした。するとたちまち、自分の腰に火がついたような感じがした。Lucido さんは痛みで叫びながら床に倒れ込んだ。

 夫と妹がその部屋に駆け込むと彼女が胎児の様に丸くなっているのを発見し、911に連絡した。救急医療隊員が彼女に強力な抗炎症薬を飲ませ、彼女が sciatica(坐骨神経痛)かもしれないと言った。これは下肢に始まる神経痛でありしばしば椎間板の障害によって引き起こされる。

 ERでは医師は当惑している様子だった。Lucido さんが彼に、以前 Valium(精神安定剤)とリドカインで痛みが抑えられたと話すと彼はそれらを指示した。しかし、彼は Lucido さんからのX線検査の要求を拒否し、彼女には背中の固定装具や歩行器を提供することはできないと、その理由を説明することなく彼女に告げた。

 Lucido さんによると彼はイライラが増しているようだったという。背中のひきつけが「厄介である」可能性があることを彼は知っており、事実そう言ったことを彼女は覚えている。しかし彼の勤務時間は数時間で終わったが、彼女が帰るまで彼は帰ることができなかった。彼は杖を勧め、もし彼女が歩けないようであれば 『assisted living(介護生活)』となる可能性があると言った。

 彼女によると、結局、2回目の注射の後、歩行器が見つかったので、彼女はよろよろと足を引きずりながら病院を出たという。

 Lucido さんは生後4ヶ月の娘の断乳をしなければならないと考えた。「授乳があまりに難しくなっていました」と彼女は言い、自身の痛めた背中をかばいながら一時もじっとしていない赤ちゃんの世話をするには痛みを伴うねじ曲げが必要だったからである。

 彼女と彼女の家族はインターネットで情報を探し始め、骨疾患の治療を専門とする湾岸地域の数少ない内分泌専門医の乏しい受診予約を急いで取ることにした。

 Lucido さんは授乳回数を減らし、その後中止したところ彼女の痛みは軽減した。しかし12月下旬のある夜、寝ている時に身体を伸ばすと尾骨近くでなにかが弾けるような感じがした。X線検査で2箇所の新たな脊椎骨折が見つかった。

 

‘The clouds parted’ 雲間が晴れた

 

 一方、彼らの探索は報われた。Lucido さんの母親は不思議なほど聞き慣れた病気を記載している報道発表を見つけたのである。コロンビア大学 Irving Medical Center(アーヴィング医療センター)が 2018年に内分泌専門医の Adi Cohen(アディ・コーエン)をトップとして、pregnancy- and lactation-associated osteoporosis(PLO、妊娠・授乳関連骨粗鬆症)と呼ばれる稀な疾患を持つ女性を集め、研究し、治療するプログラムを立ち上げていたのである。

 若年発症骨粗鬆症―50歳未満で発症する骨粗鬆症―の重症型である PLO は妊娠後期あるいは授乳中に、母親のカルシウムの喪失が骨密度の一過性の減少を引き起こし発病する。約1000万人の米国民が罹患する高頻度の閉経後の骨粗鬆症と違って PLO は稀であるが、どの程度稀であるかはわかっていない。

 本疾患については70年以上前に記載されているが、その病態についてはほとんど知られていない。誤診されることが多く、多くの医師が症例を経験していない。

 カルシウムの喪失は授乳の中止後に回復し、人生の後半の骨粗鬆症の発症リスクに影響を及ぼさないようである。しかし PLO の女性ではカルシウムの減少は脆弱性骨折、すなわち転倒あるいはその他の外傷に起因しない骨折、をもたらし、深刻な背部痛を起こし得る。これらの女性の一部では閉経後骨粗鬆症を発症するリスクが高い可能性がある。

 治療の第一段階は授乳を中止することである。2023年の Cohen らによる PLO の女性177 例の2023年の調査では平均年齢は約32歳で、骨折のほとんどは最初の妊娠中と授乳中に発生していた。ほぼ半数例で5ヶ所以上の骨折が報告されており、通常は脊椎にみられていた。

 回復は様々である。骨密度の自然回復は出産後1年以内に起こり得るが一部の女性では骨粗鬆症の薬物治療が有効である可能性がある。

 「それはまるで雲間が晴れたかのようでした」その診断名について読んだとき Lucido さんはそう思ったことを覚えている。

 Lucido さんは Cohen 氏とEメールを交換した。彼女の理学療法医の助けにより、彼女はサンフランシスコにある University of California(カリフォルニア大学)で骨疾患を専門にしている内分泌専門医・Muriel Babey(ミュリエル・ベイビー)氏の迅速な受診予約を確保することができた。

 Babey氏は Lucido さんを PLO と診断し、彼女のケースには骨粗鬆症の家族歴を含む遺伝的素因が関っているのではないかと考えているという。彼女が授乳を中止して程なくして行われた2度目の DEXA 検査では Lucido さんの骨密度は -4.2 まで低下していた。そして彼女が授乳していた4ヶ月間に8ヶ所の骨折が認められた。

 妊娠可能年齢の女性で DEXA 検査を受ける女性はほとんどいないため(一般に本検査は65歳で始めることが推奨されている)、大多数の人たちは骨折をするまで骨密度が低いことを発見されることはない。

 「もし最初からきわめて骨密度が低い場合、合併症を起こす危険性があります」と Babey 氏は言う。彼女は Lucido さんに骨を強化することを期待して注射可能な骨粗鬆症の薬を投与することを推奨した。

 「私はずっと、ずっと良くなっています」5月に Lucido さんはそう話す。ニューヨークへの2週間の旅行から帰ってきたところだったが、その旅行ではたくさん歩いたそうで、それは1月には想像もできなかったことである。

 「私は希望にあふれていますが、かつてしばらくの間、それは『そもそも再び歩くことができるようになるだろうか』というものだったのです」と彼女は言う。

 彼女の診断は大きな生活の変化をもたらした。たちまちさらなる支援が必要だったので、Lucido さんと彼女の夫は3月に Berkeley の自宅を売却し、一時的にノースカロライナの Lucido さんの両親のもとに引っ越した。彼らは8月にニューヨーク市郊外へ引っ越す予定である。

 「遠く離れることはできないと考えたのです」と Lucido さんは言う。最近彼女は Cohen 氏の患者となり Columbia 大学の調査研究に登録されたからである。

 現在彼女は概ね痛みはなく、授乳を中止して以降は骨折もないが、Lucido さんの長期予後は不明確である。PLO の危険性があるとわかっていたら決して授乳していなかっただろうと彼女は言う。彼女は転倒することを心配しており、それを回避するよう用心している。彼女はランニングをやめ、前かがみには注意し、重いものを持ち上げないようにしている。

 Lucido さんが最も懸念し、腹立たしく思ったことは、とりわけ無力感を抱いていたときの自身の痛みのひどさについての周囲の懐疑的態度とその原因に対するあからさまな無関心だった。

 「私は入浴することもパンツを履くこともベッドから起き上がることもできませんでした。『健康な33歳がどうして原因不明の骨折を起こすのかについて誰も知りたいと思わないの?』と思っていたことを覚えています」と Lucido さんは言う。

 

 

 

pregnancy- and lactation-associated osteoporosis(PLO:妊娠・授乳関連骨粗鬆症)

についての詳細は以下のサイトを参照いただきたい。

 

PLO患者向けコミュニティサイト

済生会兵庫県病院のサイト

骨検:骨にも検診プロジェクト

 

PLO は産後骨粗鬆症や妊娠骨粗鬆症とも言われる。

妊娠・授乳期にみられる骨粗鬆症であるが、原因はよくわかっていない。

先天的要因に加えて、低体重、カルシウム摂取不足、運動不足、飲酒、

喫煙などの後天的な要因があると考えられている。

それ以外にはステロイド使用、クローン病やセリアック病などの腸の病気、

妊娠中の抗凝固薬使用、甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、腎臓病など

骨粗鬆症が起こりやすい病気でも発症する可能性があるとされている。

骨折を起こす例は初産婦が多く、およそ7割を占めているが

初産婦に多い理由はわかっていない。

 

妊娠後期になると赤ちゃんの骨を作るために母体より胎盤を通じて

カルシウムが供給される。このため母体のカルシウムは減るが、

妊娠中は胎盤から大量のビタミンD が放出されるため、

食事で摂取したカルシウムの腸管からの吸収が増えて不足分を補っている。

しかし出産後は胎盤がなくなるためビタミンDの供給が減少する。

これによりカルシウムの腸からの吸収が激減する。

また胎盤等から分泌されていたエストロゲンの分泌量も急激に減り、

骨吸収が促進され骨密度の低下につながる。

さらに授乳を行うとカルシウム(日本人で1日当たり200-250㎎)が

母親から乳児へ移動する。その減少分は母親の骨から補うことになり

母親の骨粗鬆症が進行し骨折を起こしやすくなる。

 

症状:

妊娠後期から授乳期(産後半年以内)に腰や背中の痛みで発症することが多く、

特に動作時や咳やくしゃみで、背中から腰にかけて痛みが走る。

骨折部位は肋骨、手関節、脊椎、大腿骨頸部など通常の高齢者の骨粗鬆症と

大きな違いはないが脊椎骨折が比較的多い。

脊椎骨折をおこすと痛みのために赤ちゃんの世話ができないため

入院が必要となることもある。

 

診断:

骨粗鬆症の検査には血液検査と骨密度検査がある。

血液検査ではTRACP-5bなどの骨吸収マーカーや

P1NPなどの骨形成マーカーの検査をおこない、

骨吸収と骨形成のバランスを見る。

骨粗鬆症ではTRACP-5bが正常値を超えて増加している。

骨密度検査は超音波で測る方法とレントゲンを使う方法がある。

妊娠中は超音波検査を、出産後はレントゲン検査を用いることが多い。

骨密度は若い人たちとの比較であるYAM(young adult mean)で

判定することが多く、閉経後骨密度測定では70%以下で骨粗鬆症と

診断される。

若年者でも70%以下を異常値とすることが多い。

腰痛や背部痛が続く場合X線撮影やMRIで調べるが、PLO による骨折の場合には

高齢者でみられるような明らかな圧迫骨折と異なり

X線撮影では見つけにくいことが多くMRIでの検査が必須となる。

妊娠中や出産後に腰痛が気になって病院を受診しても、

X線撮影のみでは「よくある腰の痛み」と誤診されてしまうことも多い。

 

治療:

脊椎の骨折に対しては鎮痛薬やコルセットで治療を行う。

骨折を生じた場合は、ビタミンDの服用を開始し、出産後であれば

骨密度の低下に応じて骨吸収抑制薬や骨形成促進薬が用いられる。

骨折すると母親のカルシウム値を維持するため母乳授乳を中止することが多いが、

一律に断乳すべきか否かについては議論がある。

 

PLOの予防で一番大事な点は自身の骨密度を調べておくことである。

特にやせて食事量が少ない人、好き嫌いが多く偏食のある人、

骨折歴のある人などでは注意が必要で、妊娠前(妊活中)の骨密度の測定が望ましい。

また妊娠中から食事でしっかりとカルシウムを取り、運動を行って

骨の強化を図ることも重要である。

 

とにもかくにも『閉経前でも骨粗鬆症になりうる』ということを

日頃から頭に入れておくことが大切だ。

 

 

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