MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

漠然とした体調不良に潜んでいた大病

2024-05-30 16:49:05 | 健康・病気

20245月のメディカル・ミステリーです。

 

525日付 Washington Post 電子版

 

Medical Mysteries: She went undiagnosed until almost too late

メディカル・ミステリー:彼女はほとんど手遅れになるまで診断されなかった

When a 39-year-old woman complained of feeling off, her doctors mostly blamed stress. A key reason: She didn’t fit the profile for a devastating disease.

39歳の女性が身体の不調を訴えたとき、かかった医師はほとんどかストレスのせいにした。その主な理由:彼女が深刻な病気のプロファイルに適っていなかったからだ。

 

By Sandra G. Boodman,

(Bianca Bagnarelli For The Washington Post)

 

この数週間、Ann Malik(アン・マリック)さんは本調子ではなかったがどこが悪いのかを指摘することはできなかった。治療を要さない軽症の喘息の病歴がある以外、この39歳の女性は健康だった。そのため、彼女の家庭医が不快感と倦怠感の原因が軽度の貧血であると考えたとき Malik さんはその説明に安心し、良くなるだろうと考えた。

 しかし、鉄補給サプリメントを開始して2ヶ月後、彼女の体調は増悪した。

 「私は不安になり気が滅入りました」ロードアイランド州 Barrington(バーリントン)に住む Malik さんはそう思い起こす。当時彼女は、ベテランのトライアスロン選手である夫の Vinu(ヴィヌ)さんと共に始めた2つの小さなスポーツ関連のビジネスに携わっていて、3歳、5歳、7歳の3人の幼い子供たちを育てていた。プライマリケア医の助言により Malik さんは抗うつ薬の内服を始めた。

 しかしそれも効果がなかった。Malik さんの食欲は減退し、体重が減り、不眠となり、あらゆることに落ちこぼれた感じがした。彼女自身が不思議に思ったのは、医師らによって深刻な病気は何も発見されてなく、症状はストレスによる影響が大きいと考えられたにもかかわらず、自分が自身の健康にそこまで固執するのはなぜなのかということだった。

 彼女に最初に症状が現れて9ヶ月後、Malik さんは、自身にいかに予知能力があったかを知ることになる。その時彼女は集中治療室に入り生き延びるために闘う羽目になっていたのである。

 「とはいえ、その病名が私の頭に浮かんだことはありませんでした。一度たりとも」自身の受けた診断について Malik さんはそう話す。医師らがその疾患について話したことはなかったし、それを考慮していたようにも思えませんでした」

 その主な理由はこうだ:Malik さんは、その疾患のプロファイルに適っていない患者群の代表のようだったからである。彼女の症状が、そして後に彼女が知ったのであるが、彼女の画像検査の解釈では、よりありふれた病気に原因があるとされていたのである。

 Malik さんは別の点でも異例である:彼女はこれまでの通例を覆したのである。彼女が診断された2014年9月、彼女の疾患がかなり進行していたので、一ヶ月以上の余命は期待出来ないと、医師らは夫に伝えていた。

 ところが10年後となる現在、彼女は50歳の誕生日祝いを楽しみにしている状況にある。

 

Ann Malik さん (Ann Malik さん提供)

 

Ill-defined unease 漠然とした不安

 

 最初の徴候は漠然としたものだった。

 「どこかが悪いという感じがありました」と Malik さんは思い起こすが、それが貧血の診断につながった。飲み薬で鉄欠乏は改善したようであったが Malik さんの不調は深まった。彼女は、ベッドで横になった時、痛みはなかったが、なんとなく“膨満している”ように感じた右上腹部を見つめていたことを覚えている。

 Malik さんは、自身の健康に集中した不安や心配の漠然とした感覚が増大し徐々に消耗させられていく感じが増していた。「私はそれまで不安を伴う問題を抱えたことはありませんでした」と彼女は言う。

 彼女のプライマリ医はうつ病のスクリーニング検査(depression screen)を行った。これはこの問題を発見するように考案された質問票である。Malik さんによると彼女は「テスト結果が悪かったので、『ワォ、これはすべて心の問題なんだ』と思いました」という。3月ころ、医師からの提案で彼女は抗うつ薬の内服を開始した。さらに彼女は、薬物治療と身体活動を組み合わせることで気分が高まることを期待して運動目的でウォーキングやヨガの実践も始めた。

 しかし思うようにはいかなかった。Malik さんは5月には食欲がなくなり体重が減り始めていた。「食べ物が私にはおいしく感じられませんでした」そう彼女は思い起こす。さらに彼女は寝汗と不眠にも悩まされていた。

 彼女の夫が友人の医師に話したところ、彼は内分泌専門医を受診することを勧めた。甲状腺の異常など代謝関連の問題が彼女の症状を説明できる可能性があった。複数の血液検査の結果が吟味されたが正常だったためその内分泌専門医は Malik さんにストレスを減らすことを提案した。

 「その女医は、私が若い母親であり、仕事もしていたので、私には休暇が必要であることは確かに理にかなっていると説明しました」そう Malik さんは覚えている。「私は負担の多すぎる自身の生活のために体調が悪くなっているという事実を既に認めていました。でも私は、同僚たちも皆、私を同じことをしているのを知っていました。だから困惑していたのです」

 より実践可能な助言を求めて Malik さんは代替医療施術者を受診した。彼女は adrenal fatigue(副腎疲労)と診断した。これは医学一般に認められた診断名ではなく、正しくは fatigue(倦怠感)、anxiety(不安)、およびinsomnia(不眠)などの症状の集合的状態像である。

 彼女は Malik さんに特殊な血清を用いるとともに、食事を見直し、ストレスを軽減することを勧めた。「自分の症状は自身の責任だと感じました。ただうまく立ち回れていなかったのです」と Malik さんは言う。

 数週間後、彼女はひどい風邪をひき、それは数日間長引いた。

 

Battling pneumonia 肺炎と闘う

 

 7月上旬、Malik さんは Providence(プロビデンス, ロードアイランド州の州都)郊外の自宅にいて何とか頑張ろうとしていたとき血液を喀出した。動揺した彼女が家庭医に電話をかけると、その医師は胸部レントゲン検査のために彼女を紹介した。

 レントゲン検査では彼女の右肺の下葉にウイルス、細菌、真菌等によって引き起こされる感染症である肺炎が起こっているようだった。彼女に最近みられていた肉離れ様の胸部や背部の痛み、そして計10ポンド(約4.5kg)に及ぶ意図されない体重減少は肺炎で説明できる可能性があった。Malik さんによると抗生物質の内服を開始したところ「少し気分が良くなり始めたが、体調は良くならなかった」という。

 一ヶ月後、彼女は再び喀血した。今回は病院の緊急室に向かった。再度レントゲン検査を受けると、Malik さんは反復性肺炎と診断された。

 「『これは正常ではない』と夫は言いました」と Malik さんは思い起こす。夫婦は追加の検査を強く求めた。ERの医師は彼らに、もし心配なら肺の専門医にかかることもできると説明した。

 8月、Malik さんは呼吸器専門医を受診、そこで CT 検査が行われ彼女の右肺に病変の可能性が疑われる領域が認められた。続いて bronchoscopy(気管支鏡)が行われた。これは、内視鏡を用いて気道や肺を観察し生検標本を採取することのできる手技である。

 その生検の結果は確定的なもので衝撃的だった。Malik さんは肺がんで最も頻度の高いタイプの non-small cell adenocarcinoma(非小細胞腺がん)だったのである。

 Malik さんは愕然とした。「私は39歳でしたし一度もタバコを吸ったことはありませんでした」と彼女は言う。「それまでがんという言葉に言及した人は誰もいませんでした」25年前に彼女の祖父の1人を肺がんで失っていたが、彼は喫煙者だった。

 9月上旬にその知らせを電話で伝えた呼吸器専門医が彼女を安心させようとしたのを覚えている。「彼がこう言ったのを覚えています。『それが早期であればいいのですが』と。そこで私はこう考えました。『いいえ、私はずいぶん前から調子が悪かったのです』」彼女は腹部に原因不明の膨満感があったことを思い出した。

 早期に発見されてはいなかったという Malik さんは正しかったのだが、それからの24時間で彼女がどれほど重篤な状態に陥ってしまうことになるかについては誰1人として予測できていなかった。

 

Ann Malik さんとその家族 (Ann Malik さん提供)

 

Not a panic attack パニック発作ではない

 

 呼吸器専門医の電話の翌日、Malik さんと彼女の夫がその知らせに動揺しながら医師との面談に向けて心の準備をしていたが、まずは彼らの3歳の息子の未就学児のオリエンテーションを受けることになっていた。

 ほとんど眠れない夜を過ごしたあと、Malik さんは二重に見え、自身のブラジャーを止めることができないことに気付いた。「うわっ、あまりのストレスで見ることもできない」と彼女は言った。夫は何かさらに深刻なことが起こったのかもしれないと心配し、救急医療隊員を呼んだ。

 新たに診断されたがんによって「私がパニック発作を起こしていると彼らは考えていました」と Malik さんは思い起こす。

 病院で、医師らは Malik さんが脳卒中症状を起こしていると断定した。ステージ4の肺がんは彼女の左肺、肝、脊椎、および骨盤に転移していて、脳にも広がり脳卒中症状を起こしていたのである。「それはあらゆるところにみられましhた」と Malik さんは言う。

 医師らは夫の Vinu Malik さんに、彼女の余命は約1ヶ月とみられると告げた。

 

Genetic testing 遺伝子検査

 

 医師らは Malik さんには直ちに化学療法を始める必要があると考えた。彼女の年齢および彼女が非喫煙者であるという事実~肺がん患者は通常喫煙者か、診断時の平均年齢が70歳の元喫煙者である~から、彼らは Malik さんのがんには治療法を左右する遺伝子変異を持つ可能性があると考えた。

 彼らは ROS1(ロス1)遺伝子を含む様々な変異を調べる特異的な遺伝子検査を依頼した。ROS1 は患者の約1%から2%に関連しているとみられており、彼らは典型的にはほんのちょっとタバコを吸う、もしくは喫煙したことのない若い人たちである。なおこの変異は遺伝性ではない。

 ROS1 陽性がんには標的治療が用いられるが、標準的化学療法とは異なり、正常細胞は温存し特別な変異のある細胞を殺すように作られた経口薬のタイプによる治療となる。

 Vinu Malik さんは肺がんの治療を専門としている胸部腫瘍専門医チームがある Boston(ボストン)の Massachusetts General Hospital(マサチューセッツ総合病院)の医師と連絡を取った。Malik さんの最初の化学療法が良い結果を示した後、夫婦は、当時胸部腫瘍学のフェローだった Zofia Piotrowska(ゾフィア・ピオトロヴスカ)氏に会うために Boston まで1時間かけて車で北に向かった。10年後の今も彼女は Malik さんの担当医である。

 「Ann さんのケースはそれほどめずらしいものではありません」現在 Harvard Medical School(ハーバード大学医学部)の准教授である Piotrowska 氏は言う。非喫煙者の肺がんの認知度は増しているが、「不幸にもステージ4の患者はよくみられます」と彼女は言う。早いステージの肺がんはほとんど症状を起こさない。そして、女性の非喫煙者、特に若い女性では症状が他の疾患のせいとされてしまう傾向にある。

 Malik さんのように全く喫煙していない女性の肺がん症例が増加している理由はいまだ不明である。

 「確かに、彼女が喫煙歴のある年配男性であったとしたら彼女はもっと早期に診断されていたかもしれません」と Piotrowska 氏は言う。医師は「肺を持つ人は誰でも肺がんになり得る」ということを覚えておこことが重要である。

 Malik さんが肺がんであることを知って6週後、彼女の遺伝子スクリーニング検査で ROS1 変異が明らかとなった。これは低確率の良い知らせだった。「宝くじに当たったようで非常に心躍ることでした」と彼女は思い起こす。

 Malik さんは標的治療を開始したが、治癒不能ながんを再発させないために、無期限に恐らく生涯にわたって治療が必要になることを知って彼女は打ちひしがれた。

 「疾患の制御が目的です」と Piotrowska 氏は言う。「獲得耐性、すなわち打ち勝つために順応してがんが薬剤を回避する能力」が永遠の課題として残り、医師らには古い薬剤が効かなくなったあとの新たな治療法や治療薬の発見が求められます。

 彼女が診断されて何ヶ月も経って Malik さんは、肺炎を示しているとされた胸部レントゲン検査が実際には肺炎に似た所見を呈する肺がんが写っていたことを知った。彼女の経験は Harvard Medical School の教育症例として用いられておりマサチューセッツ総合の胸部画像検査部門のチーフによって書かれた放射線医学の教科書にも載せられている。

 2016年、新たな転移が Malik さんの脳に見つかり、放射線治療を受け治療は成功したと見なされた。2020年には彼女は放射線治療によって生じた壊死組織を摘出する脳手術を受けた。

 「彼女の脳が最大の問題ですが彼女は実に順調に回復しています」最近 Piotrowska 氏はそう話す。

 Piotrowska 氏によると ROS1 患者の生存期間の中央値は約5年だという(一方、非小細胞肺がんステージ4の5年相対生存率は約8%である)。Piotrowska 氏の他の患者にもMalik さんと同じくらい長く生存している人がいるが、「特に優良なグループの中でも彼女は飛び抜けた存在です」。

 病気を抱えた生活と、自分自身の生活とのバランスを「Ann さんは驚くほどうまくこなしています」とこの腫瘍専門医は言う。「彼女の物語はある意味では恐ろしいものですが、一方で希望にあふれるものでもあります」

 Malik さんも同じ意見であり、そのことが他の人たちに確立されたプロファイルに適合しない患者についてもっと広く考えることを促してくれることを期待している。

 「私は注意深く観察されていますが、自分のライフスタイルはもはやがん患者のそれではありません」と Malik さんは言い、恐ろしい診断を受けながら生きることを助けてくれる瞑想を信じている。彼女は最近 Boston 地区のライブの口承イベントで自身の病気について話し、彼女が始めた瞑想実践の一環としてがん患者のためのコースを開設している。

 Malik さんは「夫は常に最大の支持者となってくれました」と言い、彼女の子供たちが10代になったのを見届けられたことを幸運に思っている。

 「彼らが立ち直る力を学んでくれて、困難なことに立ち向かうことができると思っています」と彼女は言う。「生き延びていることに私がどれほど感謝しているかを彼らは知っています」

 

 

 

ここでは遺伝子異常を伴う肺がんについて記載する。

 

詳細は下記サイトをご参照いただきたい。

国立がん研究センター中央病院のHP(肺がん)

ROS1融合遺伝子についてはこちら

 

肺がんは非小細胞肺がんと小細胞肺がんの大きく2つに分けられる。

非小細胞肺がんが全体の約90%を占める。

非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分類される。

小細胞肺がんは非小細胞肺がんと比べて増殖速度が早く転移や再発を起こしやすく

治療内容が異なる。

 

切除可能ながんに対しては外科的に摘出術が行われるが、術後追加治療が

必要な患者や遠隔転移のあるIV期および術後再発肺がんに対しては

薬物治療や放射線治療が行われる。

薬物治療の中心は、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、

細胞障害性抗がん剤などとなる。

がん細胞の特定の遺伝子に変異が生じて発癌している場合、

このような遺伝子の変異をドライバー遺伝子変異と呼ぶ。

ドライバー遺伝子変異のある患者には変異により生じるタンパク質を標的とした

分子標的薬が使用される。

それ以外では免疫チェックポイント阻害薬、細胞障害性抗がん剤または

その両者が併用される。

 

現時点で使用可能な分子標的治療薬がない遺伝子変異も含めると、

がんと関連する遺伝子は数百種類あると言われている。

そのうち最も多い遺伝子変異は EGFR(上皮成長因子)遺伝子変異で、EGFRは

外部から刺激を受けると、がん細胞が増え続けるのに必要な信号を細胞内に伝える

役割を担っている。

日本人を含むアジア人ではこの遺伝子に変異を持つ頻度が高く

肺腺がんの約40%で認められる。非喫煙者女性の腺がんで多くみられる。

その他、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、NTRK、HER2、NRG1、

CLIP1-LTKなどの遺伝子の異常が確認されている。

 

記事中に出てきたROS1(ロスワン)は細胞の増殖に関わるタンパク質の一つである。

ROS1遺伝子の異常はこの遺伝子が他の遺伝子と結合した状態(融合)として

確認される。

他の遺伝子と融合したROS1融合遺伝子からROS1融合タンパク質が作られると、

必要のないときにも細胞が増殖しがんが発生しやすくなると考えられている。

ROS1融合遺伝子は脳腫瘍(膠芽腫)、肺がん、胃がん、胆管がん、卵巣がんなどで

確認されている。

非小細胞肺がんにおいてROS1融合遺伝子が確認される頻度は低い(1~2%)が

その中で若年者、女性、非喫煙者の肺がんで確認されやすいことがわかってきた。

ROS1融合遺伝子が確認された非小細胞肺がんに対しては

ALK阻害薬として保険承認されていた経口薬クリゾチニブ(ザーコリ®)が

有効であることが示され、2017年にROS1融合遺伝子陽性肺がんにも

使えるようになった。

またNTRK阻害薬として保険承認されていたエヌトレクチニブ(ロズリートレク®)も

2020年からはROS1陽性肺がんにも保険承認された(本剤も内服薬)。

ただこれらの薬剤も効果は永続的ではなく反応が乏しくなった後の治療は、

現状ではプラチナ製剤併用療法が基本となるが、

現在いくつかの他の新たな分子標的薬の治験も実施されている。

 

喫煙・受動喫煙だけが肺がんを引き起こすのではないこと、そして

そういったリスク因子を持たない女性肺がん患者が増加している事実を

しっかり認識しておく必要がある。

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