まほろばの泉

亜細亜人、孫景文の交遊録にある酔譚、清談、独語、粋話など、人の吐息が感じられる無名でかつ有力な残像集です

人間考学 偽満州の官僚 と現代官僚気質 11 9/27 再

2024-07-09 01:49:29 | Weblog

        佐藤慎一郎・もと御夫妻 新京にて  



「いゃ 偽満州は良かった。日本人も一緒に働いた。だが真面目な役人には困った。
なにしろ、賄賂が下まで流れてこない。四角四面な日本人は生活が窮屈だ。」

古老の語りである。

「日本は早く負けて日本に帰ったほうがいい。そうでなければ日本そのものが無くなってしまう。吾々は泥水でも生きていけるが、日本人は澄んだ水に生きてきた。吾々は日本でも生きていけるが、日本人は泥水に染まってしまう。泥水は色、食、財、という欲望に素直に生きる姿だ。一人ひとりがバラバラになってまとまらなくなる。アジアで日本が無くなってしまうのは忍びない。だから、早く日本に帰らないと日本人そのものが無くなってしまう」

新京、魔屈と云われた大観園の親分の忠告である。

その満州で最後の重臣会議があった。
終戦の翌日、城内では青天白日旗が翻った。丈夫な生地で作ってあった。
それまでの満州国旗より生地が良かった。
彼らは五つの旗印を持っていた。満州国旗、日の丸、解放軍、青天白日旗、ソ連国旗である。どの勢力が進駐してきても喝采をあげて旗を振った。

その時は張学良率いる国民党東北軍の旗である。
胸にはピカピカのバッチが輝いていた。
前日は満州国旗とそのバッチだ。
「前に張学良がいたとき、すこしは長続きするとおもって良いものを作った」
その状況の重臣会議である。あの満映の甘粕氏もいた。
この期に及んで「どうしたら・・・、こうしたら・・・」
すると「佐藤さんに聞いてみよう」という事になった。

会議に臨んで佐藤慎一郎氏は、いとも平然と・・・
「満州の人々に任せなさい」
至極当然だが、土壇場の重臣は四角四面に考え、また敗戦に際して己の身を運命に迎合した。
鐘や太鼓を打ち鳴らして開拓民を満蒙に送り込んだ高級軍人、官僚は土壇場で戸惑い、ためらった。そして我が身の安全を考えるもの、悲観するもの、逃避するもの、自決する日本人、あるいは国民党軍に協力するもの、さまざまに日本人の姿があった。それは異民族の地における土壇場の日本人、とくに点数至上の官制学校歴で立身出世した者たちの醜態だった。

それでも、゛掃きだめの鶴゛のたとえのように、生きざまを魅せた日本人がいた。
家族で満州に殉じた岸谷隆一郎、皇帝溥儀の信任厚かった秘書長工藤忠(鉄三郎)。
逆に、どさくさに日本人婦女子数百人を騙し集め、慰めとして進駐軍に贈った日本人会会長の某、電話線三本を切って夜陰にまぎれて遁走した高級軍人、高級官僚の家族、それは土壇場の日本人の明け透けな姿を現地住民にその印象を焼き付けた。


佐藤氏はその以前に関東軍作戦命令第一号から旧知の幕僚に聞いていた。今まで聞いているものは大きく異なっていた。多くは虚偽だった。愕然とした。あの王道楽土は何だったのだろう。死んでお詫びしなければならない。

日本刀を借りて二の腕に強く押したが、切れない。遺言血書のためだ。
すると近くにいたものが教えてくれた。「そっと置いてスーと挽くんですよ」
すると、ドバーと大量の血が出た、遺言どころではない。

晩年、笑い話のように語る佐藤氏だが、
『満州で死ぬ、それは自身の問題だった。死んでお詫びしなければということだ。それで女房子供を日本に帰したが、女房は途中の鉄嶺から引き返してきた。だれ一人日本人のいない列車で子供と戻ってきた。それから家を開放して日本人を援けた、やったこともない商いもした。戦犯収容所に入れられた。でも全て中国人が助けてくれた。山をいくつも越えて卵を持ってきたり、いつの間にかリック一杯の金も集まった。

洗面具だけで満州に来た。だから全て置いてきた。国民党は公文書を付けるから持って帰ってください、と云ったが僕にとっては意味の無い金だった。ただ人情だけは持ち切れないほど頂いた。そんな満州へ日本人が行った。行きがかりと云う者もいるが、やはりまちがっていた。軍に負けたのではない。あの人情には敵わなかったのだ』



彼らの姿で頭に浮かんだという。


「吾、汝らほど書を読まず、されど汝らほど愚かならず」


「物知りのバカは、無学のバカより始末が悪い」




あの偽満州の官吏の倣いは現代においても脈をつないでいる

国民を群れと模し、餌をまき、宴の出口には網がしつらえてある。

人間そのものを知らない連中のやることは、いつも一緒だ

そして策があばかても恥じることなく、土壇場で逃げ出す姿も変わらない

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