先週のガジ丸通信『いいとも』で、「「笑っていいとも」を略して「いいとも」と言う時、オジサンは変わらず「い」にアクセントを置くが、特に、若い女性たちは「とも」の方を高く発音する。初めの頃オジサンはそれに違和感を感じていた」と書いているが、語尾アクセントにしろ、頭アクセントにしろ和語(標準語)には抑揚がある。
「いいとも」はウチナーグチ(沖縄言葉)だと「ユタサン」となり、ユタサンはどこにもアクセントはない、平坦に発音する。沖縄語は概ね平坦である。例えば地名を例に挙げると、ナーファ(那覇)、スイ(首里)、クザ(コザ:現沖縄市)など、野菜を例に挙げると、ゴーヤー、ナーベーラー(ヘチマ)、シブイ(トウガン)など、動物を例に挙げると、マヤー(ネコ)、イン(イヌ)、ヒージャー(ヤギ)など、食物を例に挙げると、ヒージャー汁、ソーキスバ、ゴーヤーチャンプルーなど、みな平坦に発音する。
沖縄語の単語が概ね平板なのは、素人の私が考えるに、ウチナーンチュが怠け者だからではないか、あるいは、夏があんまり暑いので、言葉に抑揚をつけて発声する元気がないからではないかと想像する。「この言葉はどこにアクセントがあるか」なんて考えずに、全てを同じように平坦に発声する。この方が楽だと怠け者のウチナーンチュは思い、いかにも南国ののんびりした雰囲気と共に古からの伝統となっているのではないか。
ちなみに、ウチナーグチでも地方によっては抑揚の豊かな地域もある。単語のアクセントというより文章のイントネーションに地方性が現れる。話すのを聞いて「あんた糸満の人だね、あんた今帰仁の人だね、あんた北谷の人だね」などと、私はほとんど聞分けができないが、ウチナーグチをよく知っている人なら言い当てることができる。私が知る限りで言えば、首里方言(及びその近辺)はイントネーションも概ね平坦である。
倭国の友人達と話をしている時、彼らの概ねはナハはナに、シュリはシュに、チャンプルーはチャンにアクセントを置いて発音する。テーゲー(いい加減)で生きている私はそれが特に気になるということはないが、それが私にも伝染して、私もナハやシュリを頭アクセントで発音することがある。さすがに、由緒正しいウチナーンチュの私は、チャンプルーなどのウチナーグチ(沖縄語)は伝統に則った平板アクセントのままである。ナハだって、ナーファとウチナーグチで言う場合は平板アクセントになる。
もう少し言うと、ネコはネに、イヌはヌに、ヤギはヤにアクセントを置くが、それらをウチナーグチのマヤー、イン、ヒージャーにした場合はどれも平板アクセントとなる。
沖縄語で平板アクセントでない言葉は無いかと沖縄語辞典で調べると、「首里方言のアクセントは平板型と下降型の二つに分かれる」とあった。下降型もあるとは私は気付かなかった。同辞典には下降型の例として、ハナ(鼻)、ウマリドゥシ(生まれ年)、ターチ(二つ)などを挙げている。それらを実際に発声してみると、ハナははっきりしないが、ウマリドゥシやターチは確かに、初めの方にアクセントがある。勉強になった。
ターチが下降型なら他の数字はどうかと実際に発声してみる。ティーチ、ターチ、ミーチ、ユーチ、イチチ、ムーチ、ナナチ、ヤーチ、ククヌチ、トゥー。この内、ターチ、ミーチ、ユーチ、ムーチ、ヤーチ、トゥーが下降型だ、意外に多い。
同辞典をさらに捲ってみる。ハナを下降型アクセントにすると鼻となるが、平板型アクセントにすると花になる。カーを下降型アクセントにすると井戸となるが、平板型アクセントにすると皮となる。ユクを下降型アクセントにすると横となるが、平板型アクセントにすると欲となる。名詞だけでなく動詞にもある。カキユンを下降型アクセントにすると「欠ける」となるが、平板型アクセントにすると「掛ける」となる。それでも、同辞典の数ページを観察した限りでは8~9割方は平板型アクセントのようである。私が耳にしている限りで言っても平板型アクセントの方が断然多い。
平板型は穏やかに聞こえる。のんびりにも聞こえる。南の島の緩やかな時の流れにマッチしている。ウチナーンチュは面倒臭がり屋が多いからという説も消えないが。
記:2016.5.20 ガジ丸 →沖縄の生活目次