goo blog サービス終了のお知らせ 

ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

見聞録007おおこの虫の見事

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 ユーナが一時帰島した日、夕方まではガジ丸とゑんちゅ小僧もユクレー屋にいて、マナと俺も加えた5人で大いにおしゃべりした。ガジ丸とゑんちゅが帰った後は、残った三人でさらにおしゃべりが続いた。
 「おめぇもよ、高校三年だろ。最後の一年くらいはよ、ユクレー島というぬるま湯からきっぱり離れて、少しは一所懸命勉強するとかよ、友達作って一所懸命遊んで、人付き合いに苦労するとか、努力するとかやってみたらいいんじゃねぇかと思うのさ。」
 「あんたみたいなグータラの口から、苦労とか努力なんて言葉が出るなんて思わなかったさ。あんたはさ、グータラして、十分生きているじゃないのさ。」
 「おー、グータラでも生きていけるさ。ところがだな、・・・あっ、そうだ。グータラで思い出した。」と、ここで俺はある話を思い出した。
 「グータラの話で面白いのがあるぜ。異世界の話なんだがな。」ということで、ケダマン見聞録その6が始まったが、
 「えっ、面白い話?私にも聞かせてよ。」とマナが言い、マナも話を聞くことなる。それ以降、ユーナがいない間、ケダマン見聞録はマナに語ることが多くなる。今回はユーナとマナの二人が相手。『おおこの虫の見事』という題の物語。


 昔、グータラな神がいた。神と言っても、そんじょそこらにいる神だ。やおよろずの神の一人だ。やおよろずって知ってるか?漢字で書くと八百万だ。八百万もいるのだからたいしたこと無いのさ。そんなたいしたこと無い中でも、その神は特にたいしたこと無い神で、名前をオオゴクツブシヘヒコと言った。ごくつぶしって知ってるか?漢字で書くと穀潰しだ。「食べるだけで何の役にも立たない者」って意味だ。それにオオ(大)が付くほどの者なのだ。で、怒った親に家から追い出され、鼻摘み者となって周りから疎まれて、天界からも追われ、地上に落とされ、放浪の身となっていた。

 彼が落とされた地上は前に語った『妖怪VS三匹の侍』と似たような、ある程度の体の大きさがあれば虫も動物も二足歩行をし、それぞれの言葉を持っているという世界だ。
 時代は『妖怪VS三匹の侍』の頃より古く、国の形もまだちゃんとできていなくて、あちらこちらにポツンポツンと村落があるだけ、生活が自然と共にあった頃の話だ。

 ある村は豊かで平和な村であった。そこの住人は、ここで言うアリのような形をした者たちであり、彼らはよく働いた。そのお陰で、村は豊かであり、ほとんどの住人が同じように働き、それに対し不満を持つ者もいなかったので、村は平和なのであった。
 それに対し、隣の村は争い事の絶えない村であった。その村の住人は、ここで言うキリギリスのような形をした者たちであった。彼らは総じて怠け者であった。つまり、ユーナのようなグータラだったわけだ。グータラたちは一所懸命働かない。冬に備えて食料を蓄えることもあまりやらない。それで、冬になると少しの蓄えを争うことになる。


 と、ここまで話して、マナが口を挟む。
 「どっかで聞いたことある話だなぁそれ。童話のアリとキリギリスじゃないの?働き者のアリと遊び人のキリギリスって話があったじゃない。」
 「その童話を書いた人も、ひょっとしたらその世界を見た人かも知れねぇな。ところがだな、俺の知っている話はまだ続きがあるんだ。」


 ある年のこと、例年に無く早く冬がやってきて、例年に無く寒い日が長く続き、とうとう、キリギリス村の食料は、春まだ遠いうちに尽きてしまった。そこである日、キリギリスたちは食料を奪うために、アリの村を襲った。
 だが、アリたちは強かった。キリギリス軍は腕力で全く太刀打ちできず、すぐに組み伏せられる。さらに、顎の力においては雲泥の差があった。アリのひと噛みでキリギリスは動けなくなった。アリたちは日頃よく働き、体を鍛えることにも怠りが無かったのだ。怠け者のキリギリスと比べれば、その体力の差は歴然としていたのである。
 結果、キリギリスのほとんどが傷を負い、戦いは1時間も持たずにキリギリス軍の惨敗となった、彼らは白旗を揚げて降参した。泣いて、許しを請うた。
 すると、アリたちは、それをすぐに許した。許しただけで無かった。やむなく負わせた傷の手当をし、また、キリギリスの事情を聞いて哀れに思い、食料の援助までした。さらに、その食料をキリギリスの村まで運ぶことまでやってあげた。

 その様子を、さっき話したグータラな神、オオゴクツブシヘヒコが見ていた。
 彼はアリたちの強さ、度量の大きさ、慈悲深さにいたく感動した。日頃一所懸命働くだけでなく、いざとなったら他人のためにもその働きを惜しまない姿に体が震えるほどの感動を覚えた。そして、アリの一匹に声をかけた。
 「何故、襲ってきたキリギリスを許しただけでなく、食料を与え、なおかつ、それを運んであげることまでするんだ?」と訊いた。
 「キリギリスたちも地上に生きる私たちの同士です。彼らがいなくなったら、地上から音楽の一つが消えてしまいます。それは悲しいことです。また、キリギリスを懲らしめただけで終わったら、その後彼らは私たちに恨みを持つでしょう。彼らが力をつければ警戒すべき敵となります。私たちは不安な日々を送らなければならなくなります。でも、彼らと仲良くすれば、私たちは安心して暮らせます。キリギリスの平和は、私たちの平和でもあるのです。『情けは他人の為ならず』ということです。」

 「何という徳の高さと知恵の深さであろう。」とアリの話すのを聞きながら、オオゴクツブシヘヒコは思い、
 「おおこの虫の見事!」と涙を流しながら叫んだ。そして、自分のグータラを深く反省し、その後彼は、アリたちに敬意を表して自分の名前をオオコノムシノミゴトと改め、心を入れ替え、他人のために一所懸命働く神に生まれ変わったとのことである。後、彼は偉い神となる。丸裸になって困っているウサギを助けたという話でも有名になる。
     

 以上で、この物語はおしまいであるが、ユーナに代わって今回はマナが質問する。
 「オオクニヌシノミコトって、大国主命ってこと。あの、因幡の白兎の?」
 「オオクニヌシノミコトじゃないよ、オオコノムシノミゴトだよ。でも、まあ、そういうことにいずれなる。つまり、これが大国主命の名前の由来ってわけだ。オオクニヌシノミコトの前はオオコノムシノミゴトと言い、その前はオオゴクツブシヘヒコという名前だったのさ。どうしようもないグータラでも、心を入れ替えて努力すれば偉くなれるっていう話だ。だから、ユーナも心を入れ替えて頑張れよって話だ。」
 「何言ってるのさ。その言葉、そっくりケダマンに返すよ。」とユーナ。すると、
 「違うよユーナ、心を入れ替えないままでグータラしていると、俺みたいになるぞって話なんだよ。『おおこの歳の繰言』なのさ。」とマナが続けて、「はっ、はっ、はっ」と二人の笑い声がユクレー屋に響いて、その夜は更けていった。

 語り:ケダマン 2007.3.23