ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版034 空手家ユーナ

2007年06月22日 | ユクレー瓦版

 一年で最も日の長い時期となった。7時になってもまだ明るい。明るいからと言って飲んではいけないという法は無い。今日も私はユクレー屋の暖簾を潜る。
 毎度変わらない景色がそこにある。カウンター席にケダマンが腰掛けていて、カウンターの中にマナがいる。奥のテーブルに村の人数人とウフオバーがいる。

 「やあ、ケダ、帰ってたの。ウフオバーとオキナワに行ってくるって聞いてたけど、日帰りだったんだ。」
 「あー、空を飛んでの移動だったからな、早く済んだ。帰りにジラースーのとこへ顔を出して、ついさっき帰ってきたところだ。」と言いながらこっちを向いたケダマンの左頬が、少し赤くなっていた。
 「おまえ、頬がちょっと赤くなってるぞ。マナにぶたれたか?」
 「えっ、私?ぶってなんかないよ。」とマナは言って、ケダマンの顔を覗く。
 「あっ、ホントだ。髪に隠れて気付かなかったけど、ちょっと赤いね。」
 「あー、たいしたこたぁ無ぇよ。ぶたれたことには違いないがな。」
 「えっ、マナじゃなかったら誰にぶたれたんだ。まさか、ウフオバーか?」(私)
 すると、奥からオバーの声がした。齢とっても彼女は耳がいい。
 「何で私がぶつねぇ。ケダはユーナに殴られたのさあ。」
 「ユーナ?」と、マナと私が同時に声をあげる。
 「そう、ユーナ。」とケダマンが肯く。ここからはケダマンの語り。

 さっき、ジラースーの家に寄ったって言っただろ。そこで、ジラースーとオバーと俺は縁側に腰掛けて、三人でちょっとユンタクしたんだ。まあ、その日訪ねた首里や摩文仁のことなどが話題の中心だったんだが、ユーナの姿が見えないので、
 「ユーナはまだ学校から帰ってないの?」とオバーがジラースーに訊く。
 「いや、今日は学校休みだよ。友達のとこへ遊びに行って、その帰りに、晩飯の買い物をしてくるって言ってたが、もうそろそろ帰る頃だろう。」
 「そういえば、このあいだ『ユーナに空手を教えている』って言ってたよな。ユーナの修行はまだ続いてるのか?」と、今度は俺がジラースーに訊く。
 「あー、熱心にやってるよ。あいつ、なかなか筋が良くてな、もうだいぶ上達しているぜ。まあ、教える人間が良いからな。」
  「上達ってたって、まだ三ヶ月だろ?」
 「正式な空手ってわけじゃない。今は護身術だ。」
 と、その時、ユーナが帰ってきた。
 「あい、オバー。」
 「ユーナ、元気だったねぇ。」などと言い合って二人は抱き合う。その姿を俺とジラースーは座ったまま眺めている。ジラースーが言う。
 「ユーナに後から抱きついてみな。護身術がいかに身に付いているか分るぜ。」
 で、その通り、俺はやってみた。ユーナは見事に技を習得していた。俺がユーナの体に触れたとたん、ユーナは振り返って、両手で俺の手を振り払い、そして、右ストレートを放った。その一発は命中した。おかげで、俺の頬はご覧の通りというわけだ。
     

 以上がケダマンの話。ここから語りは私に戻る。マナが訊く。
 「痩せても涸れてもケダはマジムンでしょ。マジムンは人間より優れてるんでしょ。ユーナのパンチを避けられなかったの?」
 「うん、いや、ちょっと油断があったんだな。たかが小娘の、たかが三ヶ月の修行ごときにと思ったんだな。・・・それと、マジムンは人間より優れてるなんてことは無いぜ。本気で戦ったら、ジラースーに俺は勝てねぇよ。」(ケダ)
 「ジラースーってそんなに強いの?」(マナ)
 「あー、強いな。普段の気、気って体から発散される雰囲気なんだが、普段のそれは柔らかいんだがな、力を出すとな、圧倒されるほどの迫力があるぜ。」(ケダ)
 「私も知ってるよ。すごいよ。それを見たら、マナはさらに惚れるかもよ。」(私)
 「ふーん、そうなんだ。惚れたついでに私も空手を習おうかな。」
 「あっ、そうだ。そういえばその時も、ジラースーが強いって話になって、それで、ユーナが『わたし、本格的に空手を習おうかな』って言ってたよ。数年後には空手家ユーナが誕生しているかもしれないな。マナのライバルになるぜ。」

 恋に夢中のマナがジラースーから空手を習うたって、目的が別のところにあるので、マナが空手家になるというのには大いに疑問があるが、空手家ユーナは可能性がある。元々運動神経の良い子だ。まだ若いし、本気で修行すれば強くなるに違いない。

 記:ゑんちゅ小僧 2007.6.22


噛まない人々

2007年06月22日 | 通信-社会・生活

 私の部屋にはお茶漬けの素が時々ある。ちゃんとした朝飯昼飯を作るのが面倒な時のために置いてある。先週、久々(3ヶ月ぶりくらいか)にお茶漬けを食べた。飯碗1杯分のご飯(玄米)を丼に移し、永谷園の鮭茶漬けを振りかけ、お湯を注ぐ。
  お茶漬けは丼を手に持ち、口をつけて、箸でガシガシとかきこむ食い物なのかもしれないが、私はそうしない。丼を手に持たない、口をつけない、箸も持たない。私はスプーンで1匙ずつ口に入れる。しかも、米の一粒一粒を噛み砕くようにして食べているので時間がかかる。1杯のお茶漬けを食い終えるのに20分ほどを費やす。
 私の部屋にはスルメが概ね常備されている。夜遅くまで起きていて、小腹が空いたときなどに食っている。小さなものなら1枚、大きなものなら半分を食う。ガジガジと噛み、じっくり味わう。これにもたっぷり時間をかけている。

 私は子供の頃から「よく噛んで食べる」という習慣が身についている。それは親の影響では無い。子供の頃、「男のくせに、ちんたら食うんじゃない!昔の兵隊だったら殴られているぞ!」と父親によく怒鳴られた。父は今でもそのようだが、早食いなのである。母もどちらかというと「さっさと食べなさい」と言う方であった。祖母がのんびりした性格の人だったので、私の遅食いは彼女の影響かもしれない。
 私が兵隊だったら、そりゃあまあ早食いもするであろうが、「父上様、あいにく私は兵隊ではありません」なのだ。長じて、いろいろ知識を得るようになって、「よく噛んで食べる」ことが健康に良いということを知る。先ず、よく噛み砕いて飲み込めば胃腸への負担が少ない。そして、よく噛むということはたくさんの唾液が出るということ。唾液は虫歯予防になるらしいのである。その通り、私は虫歯が無い。金歯銀歯も無い。
 「よく噛んで食べる」ということはまた、これは私の素人考えなのだが、食物に旨味を付加するのではないかと思っている。「よく噛む」とより旨味が増すのではないかということだ。唾液がそういう働きをするのか、満腹中枢がそのような影響を与えるのか知らないが、よく噛むと美味しくなる。特に、玄米などは、流し込むように食っていたんでは何を食っているか判らない。一粒一粒よく噛むと玄米の美味さが味わえる。

 先々週の水曜日に、出勤したら「今日は現場に出てくれ」と急な社長命令があって、現場に出た。現場に出る際は、通常は弁当を持っていくのだが、急だったのでその日は弁当は無し。昼食はコンビニのおにぎりとなった。1年ぶりくらいに食う。
 コンビニのおにぎりはふかふかしていた。多くの人にとって、このふかふか感は美味しいと感じるかもしれない。よく噛んで味わうと「めぇみち」(友人のIさんがやっているおむすび屋さん)のおむすびの方がはるかに美味しいと私は思う。
 テレビのグルメ番組などで、「柔らかくて美味しい」などという出演者のコメントをよく聞く。「柔らかい=美味しい」は今の流行みたいだが、それはしかし、おそらく、「柔らかい→噛まなくて良い→楽→美味しい」という図式なのではないだろうか。
 私の職場の社長も早食いである。一緒に食事に行くと、私が半分も食べないうちに、彼は食後のコーヒーを飲んでいる。早食いの私の父と同じく、社長もまた短気者である。私は穏やかな方である。よく噛むのと噛まないとにはそういった性格への影響もあるのでは無いかと最近考える。柔らかいものばかり食べて、あまり噛むことをせずに育った人間は短気者になるのではないか。最近の凶悪事件を見ていてそう思うのである。
          

 記:2007.6.22 島乃ガジ丸