「ほう、事務局も案を作ってくれたのかね。ありがとう。僕のはもう社長に出してあるけど、事務局のもあとで見せてもらうよ。」
と、会長は余裕綽々である。
そこには、文章に一家言を有する会長の強い自負がうかがえた。
とにかく、読んでもらえると言うことで、第一関門はクリアーできた。
S課長ともども、先ずはほっと胸をなでおろす。
翌朝、小生だけが会長に呼ばれた。
「参考になったよ。僕の原稿を少し手直ししてみた。これでどうかね。」
手直しの中味は、小生の原稿の中に入っていた相談役のエピソードや印象的なフレーズをちょっとずつ取り入れたものであった。
ただ、文章的には二つの異なる文体の文章をくっつけただけなので、文章の流れが原案よりも大分悪くなってしまっている。
ここで、会長の顔を立て、
「大変結構です。私の原稿を一部使っていただいて、感謝です。ありがとうございました。」と言えば、それで「ジ・エンド」。宮仕えの身としては、これでいきたい所だが、そうすると何のためにS課長と一緒に苦労したのか、何よりも、これがこのまま当日、弔辞として読まれたら、と考えると自分の保身だけを考える訳にもいかず、どう対応すべきかの決断を迫られた。
「会長、大変失礼で、申し訳ございませんが、手直ししていただいた部分が、『木に竹を接ぐ』ようで、文章全体の調和が損なわれているように思われます」と正直に申し上げた。
そして、次の瞬間、罵声が降って来ることを十分に覚悟した。
「そうか、『木に竹を接ぐ』か」会長はそう呟くと、
「わかった、今晩もう1回考える、明日まで、預かりだ」
翌朝、再度会長に呼ばれた。
「結論から言う、弔辞は君が書いたのが、ふさわしい。やはり、『餅屋は、餅屋』だ」と。
社長に提出済みの自分の弔辞を撤回し、事務局の面子を立ててくれたのである。
思わぬ結論に、身の置き所のないほど恐縮してしまった。
そして、あらためて会長の度量の大きさと、公正無私な態度に感激し、尊敬の念を新たにするとともに、「ご無礼をお許しください」と深々と頭を下げた。
社葬当日、会長が読み上げる弔辞をS課長と一緒にひとしおの感慨を持って聞いた。
今、振り返って見ると、「何とまあ、無茶なことをしたものだ」と反省することしきりであるが、このような無謀な試みに駆り立てたのは、ひとえに創業社長に対する、やみがたい敬愛の念がさせたのだと思う。
今から、19年前の小生の37年間の会社生活の中でも忘れられない思い出の一つである。
と、会長は余裕綽々である。
そこには、文章に一家言を有する会長の強い自負がうかがえた。
とにかく、読んでもらえると言うことで、第一関門はクリアーできた。
S課長ともども、先ずはほっと胸をなでおろす。
翌朝、小生だけが会長に呼ばれた。
「参考になったよ。僕の原稿を少し手直ししてみた。これでどうかね。」
手直しの中味は、小生の原稿の中に入っていた相談役のエピソードや印象的なフレーズをちょっとずつ取り入れたものであった。
ただ、文章的には二つの異なる文体の文章をくっつけただけなので、文章の流れが原案よりも大分悪くなってしまっている。
ここで、会長の顔を立て、
「大変結構です。私の原稿を一部使っていただいて、感謝です。ありがとうございました。」と言えば、それで「ジ・エンド」。宮仕えの身としては、これでいきたい所だが、そうすると何のためにS課長と一緒に苦労したのか、何よりも、これがこのまま当日、弔辞として読まれたら、と考えると自分の保身だけを考える訳にもいかず、どう対応すべきかの決断を迫られた。
「会長、大変失礼で、申し訳ございませんが、手直ししていただいた部分が、『木に竹を接ぐ』ようで、文章全体の調和が損なわれているように思われます」と正直に申し上げた。
そして、次の瞬間、罵声が降って来ることを十分に覚悟した。
「そうか、『木に竹を接ぐ』か」会長はそう呟くと、
「わかった、今晩もう1回考える、明日まで、預かりだ」
翌朝、再度会長に呼ばれた。
「結論から言う、弔辞は君が書いたのが、ふさわしい。やはり、『餅屋は、餅屋』だ」と。
社長に提出済みの自分の弔辞を撤回し、事務局の面子を立ててくれたのである。
思わぬ結論に、身の置き所のないほど恐縮してしまった。
そして、あらためて会長の度量の大きさと、公正無私な態度に感激し、尊敬の念を新たにするとともに、「ご無礼をお許しください」と深々と頭を下げた。
社葬当日、会長が読み上げる弔辞をS課長と一緒にひとしおの感慨を持って聞いた。
今、振り返って見ると、「何とまあ、無茶なことをしたものだ」と反省することしきりであるが、このような無謀な試みに駆り立てたのは、ひとえに創業社長に対する、やみがたい敬愛の念がさせたのだと思う。
今から、19年前の小生の37年間の会社生活の中でも忘れられない思い出の一つである。