折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

母と映画

2006-09-04 | 映画・テレビ
母は、近頃めっきり足が弱って、外出することが少なくなったが、少し前までは、近くにいる息子たちの所に、出かけて来ていた。

その時も、母が我が家に泊りがけで遊びに来ていたのだが、たまたま、小生に小用ができて30分ほど外出しなければならなくなり、留守中の慰みにと、見てもらったのが映画「砂の器」のビデオであった。




急いで用事を済ませて帰ってきた。
「ただいま、留守番させちゃってごめん。お茶にしようか」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

母は、テレビの画面を食い入るように見つめたまま、返事をしない。
テレビを見ると、場面は主人公の加藤 剛がピアノを弾きながら、子供の頃「業病」の父親と巡礼の旅に出る、回想シーンであった。

これから先が、この映画のクライマックスである。お茶は後回しにして
最後まで一緒に見ることにした。

時々、そっと母の表情をうかがう。身を乗り出すように、真剣に画面に見入っている。





「何て良かったんだろう。感動したよ。」と母が興奮を抑えかねて、堰を切ったように、しゃべりはじめた。


「業病の父親と子供が、あてどもない放浪を続け、行く先々で辛い目に会うのには、本当に哀しくて、胸が詰まってしまった。」

小生
「四季の織りなす風景が美しいだけに、余計哀しみが際立つね。」


「お前は、まだ小さかったから覚えていないかもしれないが、昔は、ああいう物乞いが家にも来ていたんだよ。」


「父親のいる駅に向かって、必死に線路を走る子供。駅舎での別離を前に固く抱き合う父親と子供、涙が溢れて止まらなかったよ。」

小生
「あの辛い旅の中で、きっと親子の『絆』がいっそう強くなったんだろうね。」


「『おらあ、しらねえ!!』と父親が声を振り絞る場面、圧倒されたよ。あの俳優の演技、凄かった。何と言う役者なの?」

小生
「『加藤 嘉』と言うんだけど、この映画で一躍有名になった。」


「わたしは、丹波哲郎が大好きなんだけど、『彼は、いま、父親に会っている。いま、彼は、音楽の中でしか、父親に会えないのだ。』と言うせりふも、思いやりがこもっていて、とても良かった。」

小生
「音楽もよかったろう。『宿命』と言う曲なんだけど、美しくも、哀しい、そして時に激しい音楽が、映画全体を盛り上げていたよね。」

次々に、感想が口をついて出てくる。
ビデオといえども、映画を母と二人だけで見たのは、初めてであり、見終わってお互いが、感想を話し合うと言うのも、勿論始めてのことであった。

「砂の器」は、映画はもとより、DVD、テレビ放映等で何回も見ているが、この母と一緒に見た「砂の器」は、特に印象深いものとなった。

<今日の1枚>

「砂の器」サウンドトラックより ピアノと管弦楽のための組曲 『宿命』

音楽監督=芥川也寸志/作曲・ピアノ演奏=菅野光亮/演奏=東京交響楽団/指揮=熊谷 弘