ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『結婚しようよ』

2007-12-07 23:58:05 | 新作映画
----『結婚しようよ』って吉田拓郎の歌だよね。
このビジュアルとはイメージが合わないけど、
どんな映画になってたのかニャ?
「いやあ。なんというか珍作だったね。
ていうか、いろんなこと考えちゃった」

----ん?どういうこと。
「少し長くなるけど、いいかな。
吉田拓郎の歌は、ぼくも彼が初めて出てきた頃、
そうLP「青春の詩」や「ともだち」は聞いていたけど、
途中からは遠ざかっていたんだ。
その分かれ目は第3回中津川フォークジャンボリー。
あのとき、ふたりの男がそれまでの岡林信康にとってかわって人気を博した。
ひとりがこの吉田拓郎で、もうひとりが加川良」

-----だれ、その人?
「やはり知らないか。
映画界では大杉漣が彼の大ファン。
ちなみに彼の“漣”という名前は
高田渡の息子でミュージシャンとして活躍中の高田漣から取っているんだ。
加川良の歌には、
この高田漣の赤ちゃんの頃の声が入った曲もある。
『子守唄をうたえない親父達のために』というんだけどね」

-----話がそれすぎ。
「ごめんごめん。
さて『結婚しようよ』の爆発的ヒットに乗って
その人気をメジャーなものとした吉田拓郎に対して、
加川良は地道に日本中のライブハウスを回る活動を続けていく。
後年、高田渡はこの加川良がスターダムに登らなかったことが、
以後の日本の音楽をつまらなくしたと嘆いているんだ」

----でも、吉田拓郎の功績が大きかったのは間違いないでしょ?
「それは確かにそう。
それまでの日本の音楽は分業制。
加山雄三、荒木一郎といったいくつかの例外を除いては
自分で作詞・作曲ということはありえなかったからね。
歌そのものを歌手がコントロールできるようになったのは
彼の成功に負うところが多い。
あっ、でも吉田拓郎の詩にも岡本おさみや松本隆といった
他のプロの手によるものが多いけどね。
さて、前置きが長くなったけど、
吉田拓郎の作詞した歌には“青春”“人生”といった直截的な言葉が多い。
そのあまりにも大上段的な構えに
ボクは徐々に嫌気がさしてきたわけだ」

----確かに、前置きが長いなあ。
そろそろ映画の話をしてよ。
なぜ“珍作”ニャの?
「まあ、待ってよ。
そのような“青春”“人生”を歌ってきた拓郎も、もう60歳。
そして彼の歌を聴いていた人たちは50歳を越えている。
そんなかつてのファンが吉田拓郎を今聞くとしたら、どういうことだろう?」

----やはり、昔を懐かしむとか、
俺の青春はまだ終わっちゃいないとか…そういうことかニャあ。
「そう、思うよね。
ところがここに描かれているのは
かつて自らもギターを持ってフォーク歌手を目指しながら
その夢を封印して、
代わりに家族を守ることにかけてきた男・香取卓(三宅裕司)。
そんな彼は、あるルールを家族に課している。
それはどんなときにも夕食は家族そろってすること。
その見慣れぬ家族団欒の光景を目の当たりにした青年・充(金井勇太)は
最初はビックリするものの、
それを『父親の権威主義』と彼に言ってしまう。
さて、映画はこの充と長女・詩織(藤澤恵麻)の恋、
そして次女・歌織(AYAKO)のバンドデビューなどを絡め、
次第に取り残されていく卓の姿を描く」

----ありゃりゃ。どこかで聞いたような…。
「うん。嫁ぐ娘と取り残される父親。
それまで60年代の東宝ファミリー映画の雰囲気を持っていたこの映画は、
ここにきて松竹の至宝・小津安二郎の世界を借用してゆく。
もちろん、まんまそのままではなく、
松方弘樹演じるさらに上の世代の男の言葉を借りれば
『乗り越えるべき父親としての壁を作れなかった世代』として
卓は描かれているわけだけどね」

----でも、さっき父親の権威主義って…。
「うん。卓からすると、
充のその言葉は自分の世代の生き方とはまったく相反する言葉。
だから、充にそれを言われた卓は反射的に彼を殴ってしまう。
しかし、充はその言葉をいい意味で使っているんだ。
だって父親に殴られたことなど久しくないわけだから…。
しかしどうもこの映画の内容が拓郎が歌う、
一見、カッコいいツッパった世界とは似合わない。
でもね、後で考えると
拓郎がブームを巻き起こしたのは『結婚しようよ』。
それは結果的に小坂明子の『あなた』の返歌ともいうべきマイホーム志向の歌。
いまでもホーボーのように地方をギター抱えて歌っている
加川良を始めとするURC出身の歌手たちとはやはり生き方が違う」

----ニャるほど。
だけど現実の中で生きるということは、
やはり吉田拓郎の歌の中のようなことだったのじゃニャいのかなあ。
仕事をして、家族を守って。
それが現実だよね。
だから、えいはいつまでもダメなんだよ。
ふらふら、ふらふらして。
「………mmmmmmmm」



(byえいwithフォーン)

フォーンの一言「それにしても長い話だニャあ」ご不満


※ほんと変わった映画だ度
人気blogランキングもよろしく

☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)index orange
猫ニュー

※もしもお時間があれば…
20年ぶりの加川良


※ちょっとCM。ドラマ仕立てです。(画像をクリックしたらスタート!)
「寒い家」