若い頃、どうしても欲しくて、
アルバイトを頑張ったり、
小遣いをコツコツためて
ようやく手に入れ、宝物のように
大事にしたものが二つある。
ひとつは登山用の革製の靴、
いわゆるドタ靴といわれる靴だ。
結局この靴とは日本の百名山を
40以上を踏破した。
そしてもう一つが、カメラである。
買ったのは、スポット測光ができ、
シャッター速度が速いという
最新型の機種
「OM4」だ。
細かいところでは
TTLダイレクト測光というのも、
決め手の一つであった。
当時よく似た機能を持つカメラに
マルチ測光ができる
NIKONの「FA」という機種があり、
この機種とどちらにしようかと迷ったが、
家に「OM1」があり、
そのレンズ資産を受け継ぐことができるということから、
OM4に決めたものだ。
これらは当時の最新機種とはいえ、
当然フィルムカメラであるし、
オートフォーカスなどでもない。
自動なのは露出調整くらいで、
ピントは指先の微妙な動きで調整しなければならなかった。
そして使っていたフィルムは
もっぱらkodakのリバーサルフィルムだった。
普通のネガフィルムと異なるのは、
現像ムラがないことがひとつ、
そして最も特徴的なのは
ラチチュードの狭さだ。
といってもこれはあまり馴染みのない言葉ですね。
要するに、
フィルムに写る光の強さの幅が狭い
ということだ。
例えば、花の写真を撮るとき、
光の当たっている部分を
スポット測光し撮影すると、
ネガフィルムの場合は
背景の陰になっている部分もある程度写りこむ。
しかし、リバーサルフィルムだと、
影の部分は映らず真っ黒になるので、
対象物が際立つというわけだ。
そんなわけで、
普通のネガフィルムを使うことはほとんどなく、
もっぱらリバーサルフィルムを使っていたわけだ。
ところが、微妙な写り具合を求めて
写真撮影に凝ってくると、
このラチチュードの幅や
発色がロットごとに異なる微妙なムラが気になり始め、
気に入った出来の写真があがると、
そのフィルムと同じロットナンバーの
フィルムを探すようになってくる。
これはこれで、楽しくもあるのだが、
手間なことこの上ない。
そこで、品質が一定している
プロ仕様のフィルムを使う
ということになってくる。
もうずいぶん前なので、
もしかしたら間違っているかもしれないが、
前者がKR64、後者がKPR64といった
呼称になっていたように思う。
プロ仕様は冷蔵庫に入れて保管した。
そんなフィルム、
kodakは黄色の箱、
富士フィルムは緑の箱、
さくらはピンクの箱のパッケージであった。
それらは箱の色のイメージ通りに、
富士は緑の発色が素晴らしく、
さくらは人肌の発色がよかった。
kodakの黄色の箱は、
どの色もきつめに出ていた
という印象がある。
自然写真は富士、
スナップはさくら
と使い分け、
ここぞというときには
kodakを使用したもんだ。
doironの写真にまつわる製品のインプレッションは
そんな具合だったのだが、
ご存じのように、
OM4のオリンパスは
巨大な損失隠しで
今アップアップの状況だし、
アメリカのイーストマンコダック社は
この新年に破たんした。
残ったNIKONは早くもフィルムカメラに見切りをつけて、
デジタル路線で頑張っている。
いまのdoironの愛機も
NIKONのD80だ。
富士フィルムにいたっては、
最近はそのナノ技術を生かして
化粧品にまで手を広げている。
早晩社名も変わっていくだろう。
かくして、趣味の写真の世界も
随分と変わったもので、
カメラとフィルムは、
皮肉にも、
世相の負の部分を写して
変遷し続けているといえるのだ。