書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「誓いの夏から」永瀬隼介

2014年02月28日 21時59分14秒 | 読書
「誓いの夏から」永瀬隼介




タイトルと表紙のビジュアルから,青春ミステリーかなと思って読み始めたら...

凄い凄い.
超ハードボイルドで,ページをめくる手が止まらない,第一級のサスペンスになっておる.

作者の永瀬氏の小説は初めて読みましたが,いやあ,こういう本に巡り合えるから,読書はやめられない.

物語は2部構成.
第1部は,高校の剣道部の主将を務める十川慧一が主人公.
彼のガールフレンドの広田杏子も女子剣道部員.
と,ここまでは青春小説風でしょ?

しかし,ここからが凄い.

彼女が家庭教師を務める一家3人が何者かに惨殺される.
しかも,杏子が家庭教師として男の子に勉強を教えている夜にその事件は起こった.

教え子の中学生を含め,一家3人が殺され,現金5千万円が金庫から盗まれる.

しかし,彼女だけはなぜか,生き残る.
この事件は,犯人が見つからず迷宮入りとなる.
ここまでが第1部.

第2部は19年後.

事件がきっかけとなって,杏子と不幸な別れ方をしてしまった慧一だった.
彼は何かを決意し,大学の法学部に進学し刑事になっていた.
杏子は,事件の関係者と思われる,ある警察官と結婚し,一女をもうけていたが,杏子の家庭を新たな悲劇が襲う.

ここで,刑事となった慧一が登場すると...

ここから先は読んでからのお楽しみ.

とにかく,物語展開が速く,しかも,途切れがないというか,ジェットコースターのように,次から次と新たな展開があるので,どこで休憩していいかわからない.

忙しい時や,明日までに完成しないといけない仕事や勉強があるときは,決してこの本を読み始めてはいけません.

「女ともだち」真梨幸子

2014年02月27日 13時40分33秒 | 読書
「女ともだち」真梨幸子




女の敵は女,というのは誰が言ったんだっけ?
良くも悪くも,圧倒的に悪い方が多いのだけど,すごい(コワイ)女の人がわんさか登場します.
どの女性も,コワイと同時に哀しい過去を背負っている.

主人公は,女性ルポライター「楢本野江」
時々企画ものの取材記事を書いているが,まだ署名入りの記事は書いたことがない.
30台も半ばを過ぎ,そろそろ一旗上げたいと,特ダネルポを探し回っている.

そんな時,ある高層マンションに住む2人のキャリアウーマンが,ほぼ同時刻にそれぞれの部屋で殺されるという事件が起きる.

野江はこれに飛びついた.....

というところから,話が始まるのだけど.

ストーリーは結構複雑で,ちょっと懲りすぎな気もする.

あと,偶然が重なったことで初めて成立する事件になってしまい,IQの高い犯人がスキのないアリバイを用意したり,密室を構成したりという意味での,ミステリの王道を行く小説ではない.

ただ,裏表紙の評にある,「女たちの心の闇」だの「ドロドロ濃度200%」だのという捉え方は違うと思う.
女性だから怖いということではなくて,後ろ向きの(ネガティブあるいは自己破滅型)思考に陥りやすい人を描くときに,女性というキャンパスを使って描いたような気がする.
もし,真犯人を男に設定してしまえば,そういう前提でいくらでもストーリーは作れるよねという気がする.

つまり,この作者は,「あえて」女性を使ったのじゃないかな.
そんな気がしてならない.

ストーリーは面白いです.
どんどん読めるし,どんでん返しも面白い.

別の題材でミステリーを書かせてみたい作家だと思う.

「解決まではあと6人―5W1H殺人事件」岡嶋二人

2014年02月25日 16時43分24秒 | 読書
「解決まではあと6人―5W1H殺人事件」岡嶋二人




おかしな二人 → 岡嶋二人
というペンネームの由来は有名ですな.
井上夢人,田奈純一という二人の作家の合作です.

以前,「どんなに上手にかくれても」の感想を書きました.

「クラインの壺」というバーチャルリアリティの名作も既読です.
感想はアップしていないのですが,トータルリコールを彷彿とさせる物語でした.

今回の「解決まではあと6人―5W1H殺人事件」は,今までの探偵ものとは一線を画する新しい試みの作品です.

私は好きですね,こういう実験的な作品は.

長編なんですが,5つのエピソードからなる.
一つ一つは,別々の探偵事務所の探偵が主人公となります.
だから,5組の探偵が出てくるのね.
そして,共通しているのは依頼人なんです.

でも,その依頼人が全体の主人公というわけではない.
その依頼人は,ある意図をもって,一つの事件を5つの調査内容に分解して,一つずつ別の探偵事務所に依頼するわけです.

つまり,全体像を知られたくないためですね.

全体を把握しているのは,その依頼人と読者だけっていう仕組み.

最後に全体の謎を解く警官,堀之内君が出てきて,決着をつけるという流れです.

僕としては大変楽しめましたが,ストーリーを左右する登場人物が20名以上出てきて,名前を覚えるのが大変.

人名をメモしながら読むことをお勧めします.

「父の詫び状」向田邦子

2014年02月23日 15時12分25秒 | 読書
「父の詫び状」向田邦子




向田邦子のエッセイ集

家族にわがままを押しつけながらも,愛情が見え隠れする,昔気質の父との葛藤.

描かれている時代は昭和.
戦前から戦後,昭和10年代から昭和30年代の世相と,その中でつつましく暮らす庶民のお茶の間が舞台のエッセイ.

昭和という新しい(?)時代を生きた,明治男の不器用さが腹立たしくも痛々しい.

自分勝手な父を半分憎み,半分愛する娘の複雑な心理.

しかし,ここで描かれる,父と子の関係は,現在では通用しない.
下手すれば,子どもの虐待で訴えられてしまう.

要は,倫理や常識とは,その時代との「癒着」によって成立しているものであり,普遍的な価値観での評価なんか意味がないということ.

ただ,解説の沢木耕太郎氏によると,巷では,このエッセイ集の評価はものすごく高く,エッセイ集の「真打」と呼ばれているらしい.

ふ~ん.

「ウツボカズラの夢」乃南 アサ

2014年02月23日 11時57分59秒 | 読書
「ウツボカズラの夢」乃南 アサ




未芙由(みふゆ)は高校を卒業して上京した.
未芙由の母親が死ぬと同時に,浮気相手と結婚してしまった父親に嫌気がさしてしまったからだ.
見も知らぬ女と,その女のことしか眼中にない父親の住む家庭に,自分の居場所など存在しないと思ってしまったのだ.
しかし,東京で頼りにしていた叔母(尚子)も,未芙由を大歓迎というわけではない.

尚子自身には悪意はないが,尚子の家族は,皆,ひとくせもふたくせもあるトンデモ人間ばかり.
よくぞ,こんなひどいキャラを集めたなと思うくらいの毒虫家族だった.

そんな,最悪の環境の中で,ある目的をもって,家族の中に溶け込もうとする未芙由.
ウツボカズラとは,ご存じ食虫植物.
肉食獣じゃなく,植物ってところがミソ.植物だけど恐ろしい.
世の中のご亭主の諸兄,ご自分の妻がウツボカズラで,自分はその罠に嵌ってしまったと思っていませんか?
そんな方こそ,この本を読んで,「よかった.自分の妻と家族は,まだ,まともだ」と安心してください.

「鬼の足音」道尾秀介

2014年02月22日 14時33分05秒 | 読書
「鬼の足音」道尾秀介





ミステリーというより,人間の心の闇から出てくる不可解な現象.
ホラーとも違うかな.
ホラーほどの不条理さはなく,あくまでも人の心が根っこにある.
ただし,心の闇といっても,「悪意」とは限らない.
誰かを守りたいとか,助けたいという気持ちに端を発する話もある.
しかし,心温まる善意ではなくて,やはり心の闇としかいいようのない精神状態から出てきているから不気味だ.
だからこそ,優れた小説になっているのも事実.

6作からなる短編集だが,道尾さんの趣味かな,キーワードは「カラス」と「S」

あまり精神状態が良くないときに読むのはお勧めできないでしょうね.
特に,心に闇を抱えている人は,読まない方がいいでしょう.
妙なことに背中を押されないとも限らない.

「教場」長岡 弘樹

2014年02月21日 14時27分27秒 | 読書
「教場」長岡 弘樹





うなりますね.
う~む
こんな小説読んだことがない.
ミステリーって全世界で何十万,何百万冊あるのかしらないけど,こんな物語はきっと,過去に例がないでしょう.
あっと驚くストーリーの連続.

1年ちょっと前に読んだ「傍聞き(かたえぎき)」に続いて,長岡弘樹さんの小説としては2冊目.
警察学校に入学した,警察官の卵たちの苦悩.
彼らを見守る担任教官の温かくも鋭い視線と,あっと言わせるカリキュラム.
同じ教壇に立つ身として,わが身の工夫のなさが恥ずかしくなる.
ただ,「金八先生」や「ごくせん」のようにみんな揃って卒業するぞ~,みたいなポリシーは全くない.むしろ適性の無いものはできるだけ早いうちに,退学する方が良いということも明言する.

私の「傍聞き」の書評で,
『ミステリー小説の評価ポイントを,
(1)トリックや意外性などのテクニカルなレベルの高さ,
(2)ヒューマニズムや愛情など心理面の表現レベルの高さ
の2つに分けるならば,
(中略)
そういう意味では,この「傍聞き」は(1)がやや強く,(2)も程よくバランスされているという評価だと思います.』
と書いたのですが,この「教場」も同じ傾向があると思いました.
ただ,(2)の中身がヒューマニズムというより,警察官になろうとした動機というか,それまでに背負ってきた人生を描ききっている点が違うかな.
いずれにしても,「人が職業を選ぶ」のではなくて,「職業がその人を選ぶ」のではないかという気にさせてくれる物語でした.

「このミス」2014年版の第1位.それも納得です.

「曼荼羅道」坂東 真砂子

2014年02月20日 11時51分43秒 | 読書
「曼荼羅道」坂東 真砂子




富山の薬売り・蓮太郎は,太平洋戦争中にマレー半島に渡り、薬の仕入れをする傍ら,現地妻サヤと暮らした.
戦争後はサヤを捨てて,帰国したが,しばらくすると,サヤは苦労に苦労を重ね,戸籍まで偽装して日本に渡り,富山の蓮太郎を訪ねる.
サヤの訪問によって,崩壊の危機に直面する蓮太郎の一家.

しかし,その裏には,単なる痴話げんかをはるかに超えた,戦争によって抉り出された人間の業が隠されていた.
蓮太郎とサヤ.そして蓮太郎の孫にあたる麻史とその妻・静佳.
2組の男女の葛藤が、時空を超えて「曼荼羅道」ですれ違い,立体交差しながら,螺旋的に絡み合っていく.

戦争という不条理の世界で,自らの蛮行を戦争のせいにしてしまう愚かな男達.
その男達によって平穏な幸せを奪われ,悲惨な人生を余儀なくされる哀れな女たち.

しかし,男を恨みながらも,恨むことに徹することができない女たち.

戦争によって正常な精神を奪われた男女だけでなく,平和な時代に生まれた男女も,自身の戦争体験はないものの,目に見えない心の病のDNAに苦しめられる.

痛いです.

ただ,頻繁な性描写が,人間の業を描くためにそれほど必要なものなのか,私にはわからない.
少なくとも,あんな極限状態の中で欲情する神経は,私には理解できない.
ま,小説だからな.

しかし,圧倒的な場面描写力には打ちのめされる.

さすが,第15回柴田錬三郎賞受賞作.