書く仕事

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「宇宙の果てになにがあるのか」戸谷友則

2018年10月29日 13時02分44秒 | 読書
「宇宙の果てになにがあるのか」戸谷友則



 はじめに,研究開発や技術系大学教育を生業とする同業者の皆さんに聞いてみたいことがあります.
 あなたはブルーバックス本を通勤電車の中で,表紙を隠さずに読むことができますか?
もちろん,なぜそんなことを聞くのかと思われる方もいるでしょう.
でも,わかっている人はわかっていると思うので,あえて理由を書かずにお気持ちを聞かせてほしい.
ちなみに,私は,人前では読むことができないので,表紙カバーを裏返して,白い面を表にして読みます.

ブルーバックスを読むことの恥ずかしさは,うまく説明できないのです.
だからこそ,同じ気持ちの人がいるのかどうかを知りたいと思った次第です.

 さて,この「宇宙の果てになにがあるのか」ですが,ビッグバン宇宙学の歴史と現状,そして将来の予想を極めて分かりやすく解説した啓発本ということができます.ただし,教科書的な説明ではなく,サイエンスを愛する気持ちがひしひしと伝わってくる,とても情熱的かつ明快な読み物となっている点が素晴らしいと思います.
 ビッグバン宇宙論は膨張宇宙論とセットで説明されるべきものですが,膨張しているという観測事実がビッグバン宇宙の実在証明になっている点など,実に分かりやすく説明されていて,なるほど~~ということがいたるところにちりばめられている.
 もうひとつ,この本の素晴らしい点は,数式をほとんど用いずに難解なインフレーション理論やダークマター,ダークエネルギーなどを説明してくれる点です.このことは実はとても難しいことです.難しいことを難しく説明するのは専門家なら誰でもできる.しかし,難しいことの本質を非専門家に分かるように説明することは,多くの専門家が大体失敗している.
その素晴らしさはわかるが,ではそうすればそれができるかは...
やはりわからない.

「噛みあわない会話と、ある過去について」辻村深月

2018年10月14日 21時56分29秒 | 読書
「噛みあわない会話と、ある過去について」辻村深月


過去に受けた「いじめ」に対する復讐劇を中心とする4編の短編集.

普通の小説と違うのは,復讐されるのが主人公(語り部)ということ.

語り部たる主人公はいずれもきちんとした社会人で友達も多く,人格的にも問題なさそうに描かれる.
しかし,このミスリードに騙されると,強烈な復讐劇が始まると,自分が責められているような恐怖感を感じることになる.
この辺の話の持って行き方は,辻村さん,天才的だ.

特に男性諸氏は,過去に一度や二度は,奥さまや彼女から,「あの時あなたはこう言ったでしょう」と,強烈な一撃を食らったことがあるのではないでしょうか?
あの恐怖が思い出されます.

確かに言ったけど,そんなつもりじゃない!!って?そんなことは分かってます.

でも,その恐怖を忘れたいと日々思っていらっしゃる方は,この小説は読まない方が良い.

人に責められるようなことは,全く身に覚えがないという「あなただけ」,この本をお楽しみください.

図書館で借りた本で良かった.一刻も早く,返してしまいたい.






「跡を消す」前川ほまれ

2018年10月09日 09時46分14秒 | 読書
「跡を消す」前川ほまれ



以下の記事には不衛生かつグロテスクな表現が含まれますので、ご注意ください。


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「特殊清掃」という仕事をご存知だろうか?
身寄りのない人が亡くなった際、警察の検分が終わった後に委託を受ける清掃業のことだ。
遺体は既に大学病院等に搬送されているので、主な業務は遺品の廃棄と、「部屋の清掃」である。

孤独死の場合、死後、日数が経って発見されることが多く、腐乱が進んでいることが多い。
たとえ遺体そのものは現場に無くても、遺体から流れ出した腐敗した体液は、遺体そのものよりも強烈な異臭を放つ。
その腐乱液は畳や床,場合によってその下にまで沁み込み,畳を剥がして,さらに床下の板にまで達するという.その場合,該当する畳はおろか,床板,さらに床下の板も削り取って廃棄しなければ,異臭は取れないという.

この小説は,そういう特殊清掃を請け負う業者「デッドモーニング」社の社員らの生きざまの物語である.

高校卒業後,定職につくこともなく,ブラブラとバイト生活を送る浅井航クンが主人公.
彼は,ふとしたきっかけで,上述のデッドモーニング社の仕事を手伝う羽目になってしまうのだが...

最初は,上に述べた現場のおぞましさに辟易しつつもバイトと割り切って働く航クンだが,何件か仕事をこなすうちに,最近亡くなった祖母の死とも絡み合わせて,人の死について真剣に考え始めることになる.
さらに,社長の笹川がこの会社を始めるきっかけとなった,ある事件を知るに至り,この仕事の意味に気が付いていくのだった.

「おくりびと」という映画があったが,コンセプトは近いものがありそうだ.
ただ,「おくりびと」は遺体そのものを大切に扱ってあの世に送る仕事,一方,この小説は,遺体が搬送された後の現場に,故人の想いを探す仕事という違いがある.

こういう物語に人生を感じてしまうのも,歳を取った証拠かもしれない.

「ヒア・カムズ・ザ・サン」有川浩

2018年10月04日 14時24分54秒 | 読書
「ヒア・カムズ・ザ・サン」有川浩



同じ着想に基づく二つの物語。

主人公は文芸誌の編集者、真也
彼には、物に触れると、その物に込められた想いや感情を感じとるという能力がある。

この能力のおかげで、彼は、人の気持ちに、そっと寄り添うことができる。

もちろん、その能力は悪用しようと思えば、人を傷つけることも可能だ。

また、人に寄り添うつもりでも、余計な深入りをすることで、不信感を買ったり、気持ち悪く思われることもありうる。

両刃の剣といえる。

しかし、編集者として、作家という難しい人種と付き合うために、その能力が大いに役立つこともある。
一方で,ガールフレンドのカオルとの付き合いにはできるだけこの能力を使わないように努力している.

以上が2つの小説に共通するバックグラウンドだ.

しかし,2つの小説は連作ではないし,スピンアウトものでもない.全く独立した別々の小説である.

ただ,2作に共通する「作者が言いたいこと」は,人がお互いに向き合って生きるということは,職場でも家庭でもなかなか難しいことだが,最後は「許すこと」であるということだろう.

相手のダメなところごと相手を許し,受け入れることで,真の愛情に気が付く,ということだろうと思う.

この小説を読み終えて,しみじみとそう思う.

ちなみに作者の有川浩は,「ありかわひろ」と読み,女性である.