書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「最後の一球」島田荘司

2014年08月28日 22時59分04秒 | 読書
「最後の一球」島田荘司



御手洗潔シリーズのミステリー.

この「最後の一球」は一つの短編と,一つの長編という妙な組合せです.

短編の方は,ある悪徳サラ金会社に苦しめられる庶民の苦悩を描いたもの.
長編の方は,野球に人生を賭けた二人の若者の友情と葛藤を描いたもの...

と思ってしまうのです.途中までは.

しかし,,,解説はここまで.

島田荘司は「占星術殺人事件」で衝撃的なデビューを果たしてから,「ちょっと変わった」探偵ものを書く作家ということで有名でした.

保守本流の本格推理とは言いがたいが,えも言われぬ個性がある.

その個性は,ちょっと文章で説明するのは難しいなあ.

トリックは骨太です.スケールの大きさが特長ですが,人の心を描くのは非常に細やかで,そのバランス,いやアンバランス感が癖になる.

時々,何年かに1度くらいの割合で,無性に島田荘司さんが読みたくなる.

「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ

2014年08月27日 09時43分00秒 | 読書
「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ



何をいまさら.と言われそうな気がしますが...
記憶をたどれば,中学?高校?少なくとも40年以上前に読んだので,ストーリーはほとんど忘れており,逆に,その分,十分に楽しく読むことができました.

アガサクリスティで覚えているのは,「オリエント急行殺人事件」,「アクロイド殺人事件」そしてこの「そして誰もいなくなった」ですが,いずれも従来の推理小説の枠組みを壊す革新的なトリックを採用しています.

今となっては他の作家にまねされて,マンネリ化していますが,当時は,種明かしを読んで,本当にびっくりしたものです.
ただ,上記3冊の印象があまりに強烈だったため,第4の感動を味わいたいと思っていろいろとアガサクリスティを読んだのですが,これらを超えるものは残念ながら見つかりませんでした.
面白くないというわけではないのです.
どの小説もそれなりに面白い.
ただ,最初に上の3冊を読んでしまったのは,残念だったなあと思うことしきり.

「朝霧」北村薫

2014年08月24日 14時32分15秒 | 読書
「朝霧」北村薫




円紫さんと「私」シリーズ第5作
「六の宮の姫君」で一気に文学ミステリー路線に走りましたが,この朝霧もその延長.

「私」は大学を卒業し,社会人になっています.

勤務先は,学生時代にアルバイトしていた出版会社.

好きな本と文学に囲まれて仕事できる,ある意味理想的な職場に就職を果たします.

今回のテーマは「俳句」と「忠臣蔵」

それぞれ,歴史と文学の謎に迫ります.
といっても大げさなものではなく,ちょっとした言葉の陰に隠されたちいさな謎.

事件と呼べるほどですらない.
しかし,そこには男女の愛や裏切り等,「永遠のテーマ」的なものが見え隠れしている.
その控えめさが,この小説の魅力だと思う.

大向をうならせる歌舞伎の「見栄」みたいなものだけが小説の魅力ではないということ.

「六の宮の姫君」北村薫

2014年08月18日 22時22分47秒 | 読書
「六の宮の姫君」北村薫




北上次郎さんがタイトルページの紹介文に書いてある文章が,的確だ.
曰く,「わが国には稀な書誌学ミステリー」
芥川龍之介の短編「六の宮の姫君」をめぐる,謎.
謎と言っても,芥川と菊池寛の書簡,他の作品に綴られた,二人の「意図」を解き明かそうとする「私」の奮闘記でもある.

文学少女から文学の専門家に飛躍しようとする女子大生の推理を描いた小説である.

「円紫さんと私シリーズ」ではあるが,今回は円紫さんの出番は1か所のみ,それもわずかなページ数のみ.

あとの大部分は女子大生「私」の,芥川と菊池寛の記録の調査と分析に費やされている.

これは骨がある.読み応え十分.

理系で,しかも純文学をあまり読んでこなかった身には少々つらいものがあったが,ミステリーとして読み進めるのは十分興味深いものがあった.

「眠りの森」東野圭吾

2014年08月17日 11時54分21秒 | 読書
「眠りの森」東野圭吾




東野圭吾といえば,帝都大学理学部の湯川学准教授が主役を務めるガリレオシリーズが有名ですね.
「容疑者Xの献身」,「予知夢」,「真夏の方程式」などの名作が並びます.
しかし,シリーズものとしては,刑事・加賀恭一郎シリーズの方が歴史は古いようです.
「雪月花殺人ゲーム」が1986年に出ている.
ガリレオシリーズは一番早いものでも,「探偵ガリレオ」が1998年ですからね.

私としては,加賀恭一郎シリーズでは,この「眠りの森」の他,「雪月花殺人ゲーム」,「新参者」,「麒麟の翼」,「悪意」が既読です.

このシリーズの特徴ですが...
主役の加賀恭一郎が,推理の切れ味は必ずしも凄いわけではない.
特に事件の最初の方では,犯人や犯行の複雑さに翻弄され,読者と一緒になって,悩みまくります.
一方で,犯罪に関わった人々に感情を移入し,刑事にあるまじきセリフを吐いたりすることもある.被疑者に対する慰めの言葉を言ったりね.刑事はそんなこと言っちゃダメだろ!みたいな.
しかし,そこはそれ,あとで困ったことにはならないところが,ヒーローたる所以でね,うまくストーリーが繋がるようになっている.

この「眠りの森」はチャイコフスキーの「眠りの森の美女」からも推測できるように,ある有名なバレー団に起きた殺人事件のお話.
人生のすべてをバレーに掛けた女達と,それに関わってしまったばかりに不幸への道を辿らざるを得なくなった男達の悲劇の物語になっている.

加賀恭一郎は捜査を進めるうち,被疑者でも被害者でもないバレリーナ・未緒に恋をしてしまう.
まあ,これも運命なんだろうが,,,
おい,刑事が事件関係者に恋しちゃまずいだろ,と思った読者もいると思うが,いいんです,加賀恭一郎だけは許されます.
単なる恋じゃないんです.
事件のカギを握る恋なのです.
おっと,ネタバレはここまで.

いつもながら,最後は鮮やかな推理で解決へ向かいますが,すべて丸く収まる大団円ではないです.
苦悩に満ちていながら,一筋の光の射す未来に向かいます.

「夜の蝉」北村薫

2014年08月14日 23時16分17秒 | 読書
「夜の蝉」北村薫





「空飛ぶ馬」に続く,円紫さんと私シリーズ第2弾.

女子大生の「私」が,日常の暮らしの中で出会う何気ない「謎」.

それは,本屋さんの平積みの何十冊かの本が,上下逆に置かれていたこととか,友達数人で,誰かの別荘に行った時に,チェスの駒のクイーンがなくなっちゃったこととか,出したはずの手紙が別の人のところに届いてしまったこととかだったりする.

強盗や殺人事件が起きるわけではない.

「あら,変ねえ」,で済まそうと思えば済んでしまうことなのである.

しかし,「私」は,そんな小さな謎の裏に,何か人の気持ちの動きから生じた微かな波動を感じることができる.しかし,その理由はわからない.
そんな時,円紫さんに相談に行くのだ.

円紫さんの推理は,シャーロックホームズやエラリークイーンのように鋭い.
しかし,彼らより,遥かに暖かい.

人間の血の通った推理をする.

場合によっては,真相が判明しても,「何もしない」という結論に達することもある.
いや,むしろ,その方が多い,

「真実が全てだ」,などという子供じみたことは決して言わないのが快い.

謎の裏に潜む,人間の弱さとか可愛らしさが炙り出され,結果としてハートウオーミングな物語が紡ぎだされる.

今回,重要な役割を担うのは,「私」の姉である.

「私」と違って,超がつく美人であり,頭の良い女性である姉が抱える心の不安を,「私」と円紫師匠がどう癒すのかがポイントである.

人の本当のやさしさとは何かを問い直さざるを得なくなる.

優しくあるためには,賢くなければならない.優しくあるためには強くなくてはならない.
優しくあるためには,愛がなければならない.

「鷺と雪」

2014年08月13日 01時27分21秒 | 読書
「鷺と雪」高村薫




読書好きの友人に紹介された,高村薫の「ベッキーさんシリーズ」最終章.
何気なく手に取った1冊が,最終章だったというのは偶然です.

「円紫さん」もとても良かったが,「円紫さん」の方は,主人公に知恵を授けてくれる指導者役が落語家の円紫で,「ベッキーさん」では,お抱えの運転手さんであるベッキーさん.
気楽に話ができるという点は共通点ありと,言っていいであろう.
主人公は若い女性,お嬢様という点では明確に共通している.

しかし,決定的に違う点が一つある.

円紫さんでは,事件の原因はあくまで人の心の成したものであった.
従って,慎重に人の心を辿ってみれば,自ずと答えの糸口は掴めると言っていよいだろう.

しかし,ベッキーさんでは,「時代」が意外に大きくかかわっている.

人の心ではどうしようもない,何かが世の中を狂わせようとする.

その想いが最後に,表題作「鷺と雪」にて溢れる.
桐原勝久とベッキーさんの最後の会話には,あまりに重い時代の流れに抗すことのできない二人の憤りが,痛いほど伝わってくる.

そして,最後のあっと驚く展開.

ふ~む.

素晴らしい.