「マスカレードホテル」東野圭吾
「東野圭吾作品に新たなヒーロー誕生」,がこの小説のキャッチフレーズ.
「新田浩介」がそのニューヒーロー.
「容疑者Xの献身」の湯川学,「新参者」の加賀恭一郎に続く,第3のヒーローです.
湯川が科学者,加賀が経験を積んだ刑事であるのに対し,この新田浩介はまだ駆け出しの警部補.
犯人逮捕に至るまでのプロセスも,前者の二人とは全く違います.
湯川は科学的知識を駆使して犯人を追い詰める手法を取り,加賀は人間の心理を深く読み解いて犯人の心情の分析から事件を解決します.
彼ら二人に共通しているのは,ある段階まで行くと,彼らには犯人と事件の全貌が見えていること.
しかし,周りの警察官や関係者には見えていない,そういうフェーズが必ず存在するのです.
つまり,この二人はシャーロックホームズであり,エラリークイーンなのね.
しかし,この新田クンは全く違う.読者と同じ目線で事件に引っ張りまわされる.
犯人からも,事件とは関係ない人々からも結構痛めつけられる.
しかし,事件の要所要所で鋭いひらめきを見せて,難問を一気に突破する.
しかし,その上を行く犯人はさらに難しい問題を残していく.
そうですね,むしろこの新田浩介君はダイハードのマクレーン刑事に近いかもしれない.
ストーリーはもちろん全く違いますけどね.暴力もないし.
この新田君,鋭い分析力を持ちながら,若気のいたりか,ちょっとしたことですぐイライラしたり,自分の手柄にこだわったり,まあなんと言うか「お子ちゃま」っぽいところがあり,そこがまた魅力にもなっている.
鋭いだけの天才捜査官じゃ息が詰まってしまいます.
単細胞な未熟さと,時折見せるひらめきのアンバランスな混在こそ,この新田浩介なるヒーローの魅力なのですよ.
一流ホテルのフロント係である山岸尚美は,ホテルマンの鏡ともいえる役どころをこなしつつ,ひょんな縁で新田君とコンビを組むことになるが,しばしば激しく対立し,そして,...
おっと,これくらいにしておきましょう.
題名のマスカレードは,ご存知の通り,仮面舞踏会の意味です.
舞台である一流ホテルに訪れるお客は本来の自分ではなく,何かの仮面をまとってフロントに現れる.
その仮面とは?
そして,重要な点は,お客だけでなくホテルで働く人々も,葛藤に悩む自分を隠すため「誠意」という仮面をかぶって働いているということ.
新田君の奮闘ぶりが可愛くもあり,山岸嬢の名ホテルクラークぶりが爽快である点も読み応えがありますが,いろいろなお客が紡ぐ人生の機織模様が心に沁みます.
この辺は新参者の展開を彷彿とさせる.
安心して読める東野圭吾さん.
裏切りませんね.