書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「癒し屋キリコの約束」森沢明夫

2020年11月03日 09時10分51秒 | 読書
「癒し屋キリコの約束」森沢明夫


昭和歌謡を流す純喫茶「昭和堂」が舞台.
ダブルヒロインの一人はこの店のオーナー・霧子さん,そして雇われ店長のカッキー.苗字が柿崎なのでそのモジリでカッキー.
霧子は四十路の美しい女性だが、毒舌で金にはがめつく、酒飲みで性格はだらしない。昼間から営業中の店内でビールを飲んでいるような女性.
しかし,昭和堂には裏の家業がある.
町の人々の悩みを解決する『癒し屋』だ。
霧子,カッキーは常連客とチームを作り,町の人々が持ち込む,悩みというか無理難題を解決してしまうのだ.
小説の3分の2くらいは,そんなお客たちのお悩み相談と霧子さんの見事な大岡裁きならぬ霧子裁きでホッコリさせられる展開.

しかし,後半は雰囲気が一転する.
カッキーがこの店に身を寄せることになった恐ろしい事件がカッキーによって語られる.
それは現代社会の闇ともいえるつらい話だ(ネタバレ回避のため内緒).
そして,最後は満を持して,霧子さん自身の過去の悲しいお話.しかもそのお話はまだ解決していない.
悲しいお話の原因は霧子さんとも関係があるのだが,そこを逆恨みして霧子さんの命を付け狙う「謎の人物」が登場する.さて,どうなる霧子さん.

まあ,ミステリーといえばミステリーなんだけど,犯人を見つければ「一件落着」となる探偵小説とは違う.
むしろ,犯人自身が本当のことを知って自分の過ちに気付き,犯人自身の心の救済がなされなければ事件の解決とは言えない.
この小説の素晴らしい点は,ここにある.
人は心を持つ動物だが,難しいのは,自分の心を喜ばせるものに人は気付かない.
往々にして,自分の心を傷つける言動をとってしまうものなのだ.
不幸な出来事があった時に,誰かを強く非難することで心の平安を取り戻そうとすることが典型的な例だ.
本当に自分を癒すものは何なのかというヒントを与えてくれる小説だ.

ハリウッド映画の原作には決してなりえないが,とっても素敵な日本映画の題材になりそうなお話である.
私がプロデューサーなら,監督:滝田洋二郎(おくりびとの監督),霧子:篠原 涼子,カッキー:有村架純
で制作するんだがなあ.ははは.