書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「空の中」有川浩

2014年09月26日 13時53分51秒 | 読書
「空の中」有川浩




原因不明の航空機事故が2件、連続して起きる。
2機とも、予告も前触れも何もなく、突然空中で爆発したのである。

どうも、空中に存在する「何か」に衝突したらしい。
しかし、高度2万メートルの上空に何があったのか?
いわゆるサイエンスフィクションとファンタジーの中間的なテイストの小説だが、奇想天外なプロットと人間力が事態を動かすという意外な方向性にあれよあれよという間に読み終えているという印象。

亡くなったパイロットの教え子の女性パイロット光希と事態の収拾のミッションを帯びたエンジニア高巳。
亡くなったパイロットの子供とそのガールフレンド。

2組のカップルが2組のストーリーを形作る。
そこに未知の生命体との不思議な関係が加わり、さらに政府機関の役人,、未知の生命体を殲滅すべきという困った団体等も加わり、ややこしい話になる。
その後正式にネゴシエーターとなった高巳の機転と柔軟な思考力のおかげで、自体はよい方向に導かれるが..

不思議な物語だが、読者の気持ちを掴んで離さない求心力には驚かされる。

SFだろうがファンタジーだろうが純文学だろうが、物語の価値は「人の気持ちをどこまで揺さぶるか?」にあることは間違いない。
この「空の中」がそれを証明している。

「笑う警官」佐々木 譲

2014年09月11日 11時18分48秒 | 読書
「笑う警官」佐々木 譲



最近,なぜか警察小説にはまっている.
「ピース」「慟哭」に続いて3冊目だ.
テクニカルな面では前の2冊の方が良くできていたが,この笑う警官は雰囲気が良いね.
読んでいて,自分が主人公の警官になっている感じがする.

札幌市内のアパートで女性警官が殺害される.
犯人はもと同僚の男性警官と特定され,直ちに部内手配される.指名手配と違って,公開されず,しかも射殺命令まで出される.

事の異常さと,現場の様子との乖離に気付いた所轄署の佐伯は,本部の思惑とは全く別に独自の捜査を開始する.

しだいに明らかになる,事件の本質と警察上層部との意外な関係.

この辺の一歩一歩,真実に迫っていく緊迫感が心地よい.

「慟哭」貫井徳郎

2014年09月10日 21時44分43秒 | 読書
「慟哭」貫井徳郎




連続する幼女誘拐殺人事件.
身代金要求は全くなく,かといって犯行現場からは,残虐性や異常性も感じさせない犯人.

不気味さだけが残る.
果たして犯人の目的は何か?

担当する捜査一課長の苦悩が深まる.

一転して,犯人の視点から,次の犯行への周到な準備と巧妙な誘拐の手口,そして奇妙な幼女殺人.

捜査一課長の視点からの苦しい捜査過程と,犯人の視点からの新たな犯行計画とその実行の描写が,シーソーのように交互に描かれる.

その平行線がどこで,どのように交わるのか?

不安定なシーソーの上で,大きなクエスチョンマークを描きながら,読者は2本の線の交わる点へと誘われる.

その交点で待ち受ける,仰天の結末.

っていうお話.

トリックのテクニックとしては「叙述トリック」というジャンルの推理小説ですが,ジャンルの枠を超えた,すごく骨太の,スケール感あるミステリーとなっています.

これは面白かった.同時に,フィクションでありながら,捜査一課長の心の傷に同情を禁じ得ない自分もいる.

「ピース」樋口有介

2014年09月05日 22時46分20秒 | 読書
「ピース」樋口有介



巧みなプロットと意外な結末.
絵に書いたようなミステリーだが,名探偵が真犯人を指さして,「犯人はおまえだ!」なんて時代遅れなことはしません.

もっとずっと深いです.おとなです.

この人ならこういうことが出来た,というように,可能性を提示することで,読者の想像力を刺激するという手法をとっている.

その話術というか,文章力というか表現力というか,まとめちゃうなら「物語力」が凄い.

こういうのを文章がうまい,っていうんだろうな.

樋口有介さん,今まで知りませんでした.

また,ミステリー界に一人お宝発見.

うれしいです.

蛇足ながら,あらすじが気になる人は以下をどうぞ.

元警察官がマスターをしている,埼玉県の田舎のスナックに,夜な夜な集まる怪しげな人々.

その中の一人が,猟奇的な方法で殺されてしまうが,その殺人事件は,全然別の場所で起きた猟奇殺人事件と手口が酷似していたことから,連続猟奇殺人に発展する.

事件を捜査する県警のベテラン刑事,坂森(この御仁が主人公)は捜査を進めるうち,昔は全然繋がりがなかったスナックの常連たちに意外な関連性があることに気付く.....

主人公の刑事,坂森は定年間近だし,真犯人を上げて手柄を立てようなんて野心はないし,一見やる気なさそう.でもそこが良いんだな.
いかにも,僕ちゃん切れ者だもん,なんて名探偵は胡散臭いでしょ.

そういう意味で,かっこいい.

もう定年になっちゃうので続編はなさそう?