書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「宇宙衛生博覧会」筒井康隆

2010年06月23日 09時42分15秒 | 読書
「宇宙衛生博覧会」筒井康隆



ここしばらく筒井病で伏せております.
筒井病は忘れた頃に再発する.
最後に読んだのはいつだったか?
過去のブログを見ると2006年にフェミニズム殺人事件を読んでいるので,4年ぶりの再発.
装丁がかなりはでなので,電車の中ではちと読みづらいかも.
ショートショートから中編まで取りそろえた作品集.
筒井康隆の初期の集大成といっていいのではないでしょうか?
奇抜なアイデア,狂気あふれるセリフ回し,ブラックと言うより「毒」のユーモア,目を背けたくなるようなスプラッター.
決して子供には見せられないです.

しかし,これらの非常識な物語の中に,筒井独自の思想と人生観が盛り込まれている.だからこそ,たんなるドタバタ劇ではない,文学としての地位を確保できているわけで.

筒井の物語は毒にあふれ,特定の登場人物の人格を否定していることは確かなので,一部の人権擁護団体などから糾弾されることもわかる気はするけど,筒井のような天才をはじき出すような社会には,断固反対する.
彼ほどの天才が直木賞(芥川賞でもいいんだけどね)の候補に3回も上げられながら,ついに受賞できなかったという事実が,日本の文学界の限界を示している気がします.

例えば,筒井の文章と石田衣良の文章を数頁ずつ並べて,どっちが直木賞受賞にふさわしいでしょうか?という質問をしたら,おそらく過半数が筒井に投票することは間違いないよね.

あ,石田衣良のファンさんごめんなさい.
彼の文章が下手という訳じゃなくて,石田衣良と比べてさえそうだから,ましてや他の作家と比べれば...という意味ですので.

数度にわたって,筒井を蹴落とした選考委員のうち最も発言力があったと言われている村上元三は随分筒井から恨まれているようですね.

でも,私に言わせれば直木賞なんて通俗小説の中でいちばん売れた本に与えられるご褒美賞だと思っていればいいんでないの?くらいのもんですよ.

気にすることはない.
無冠の帝王の方がかっこいいじゃん.その方が筒井康隆文学にぴったり合う気がします.

レビューになっとらんなあ.
まあ,いつものことだけど.

「朝のガスパール」筒井康隆

2010年06月19日 10時51分18秒 | 読書
「朝のガスパール」筒井康隆

筒井康隆氏による新聞連載小説.
朝日新聞に1991年10月から翌年3月まで連載された.

虚構の中の虚構.
単なる劇中劇ではなく,多層の虚構が混じり合い,影響を与えあう.
読者からの投稿意見や,パソコン通信 (懐かしい!)による読者の感想や主張が物語のストーリーに影響を与えるという仕組み.
そして,物語中に作家が登場し,その作家が,実際の作家である筒井を批判する.
誰が誰を批判しているのか?
読者は混乱に戸惑いながらも,筒井の術中に填っていく.
その作家は,読者の意見も実名入りで痛烈に批判する.
しかし,筒井から批判された読者はそれを喜々としてとして受け入れていることがわかる.
「俺って,あの筒井から批判されたんだぜ,小説の中で」
友達に自慢している姿が目に浮かぶ.

筒井独特のドタバタもあり,狂気の台詞もあり,もともとの筒井ファンを片手で満足させつつ,新聞読者という不特定多数の「一般人」にもう一方の手で筒井ウイルスを感染させていく.

私が筒井康隆氏を天才と賞賛するのは,ただでさえ読者を満足させるのが難しいSFという領域で,①虚構の多重構造という実験的な試み,②読者投稿意見を取り入れてストーリーを変えていくという試み,③読者や作家(ご自身)を劇中の作者が痛烈に批判するという発想,
これら,過去に例のない手法を取り入れつつ,新聞連載という強い時間的制限のもとで,なおかつ「とても面白い」ストーリーを書き上げるということを,やってしまうからである.
聖徳太子じゃあるまいし,これら,どれ一つをとっても難しそうな課題を一度にやってしまう人を天才と言わずにおれるものか.

感動というより,何でこんなことが出来るんだろうという,ため息をこめて...

日本語って難しい

2010年06月15日 17時43分08秒 | 日記
この間,東京出張に行ったとき,熊本空港のラウンジで読んだ雑誌に載っていた記事.
これらの日本語,どう思いますか?
記事の解説によると,全部,誤りだそうです.

(1)この自動販売機は故障中です.
(2)彼の噂話を酒の肴にした.
(3))彼の作品が注目を集めている.
(4)参院選で過半数を超えることができるだろうか?

私は別におかしくはないなあと思いつつ,解答を見てみると...

(1)この自動販売機は故障中です.
「故障」は正しく動作しない「状態」を表わすことばだそうで,状態に「中」をつけるのはおかしいとのこと.

(2)彼の噂話を酒の肴にした.
「肴」だけで,もともと酒の魚(さけのさかな)
馬から落馬したみたいになっちゃう?

(3)彼の作品が注目を集めている.
「注目」自体が人目を集めているという意味なので,これも「集める」は余計

(4)参院選で過半数を超えることができるだろうか?
これは私もわかった.
過半数自体が半数を超えているから,これ以上超えようがない.

いわれてみれば確かにそうだけど,でも上のような表現使ってますよね.

意味だって,立派に通じている.

通じればいいんじゃないかなあ?

やっぱだめか.

機械振興会館

2010年06月12日 18時08分16秒 | 日記
工学系の大学の先生や企業の研究職の人で,この名前を知らない人はいないでしょう.
東京タワーの真ん前にある,古い低層のビルです.
機械学会,電子情報通信学会など工学系の主要な学会の事務局があり,何よりも,多くの研究会がここの会議室で行われるので,多い人は年間10回くらい来る先生もいます.
私でも少ない年でも,年1回以上は来ている.

今回の出張は9月にある情報系のシンポジウムの企画に関する会議が目的でした.

出席者は50人くらいかなあ.もっといたかも知れません.

分野ごとに分かれて,時間と会場ごとの発表論文を決めていくのですが,決めるとなると結構時間がかかるもので,1時半から始め,結局終わったのは5時半です.4時間もかかってしまいました.

でも,先生方は皆良いシンポジウムにしようと努力していますので,不愉快な意見は出ず,いやな仕事ではありません.

一生懸命な人々と一緒に仕事をするのは楽しいものです.

「くたばれPTA」筒井康隆

2010年06月08日 09時18分33秒 | 読書
「くたばれPTA」筒井康隆




筒井康隆のショートショート集
主に昭和40年代に雑誌に掲載されたものを集めている.
ショートショート集といえば,何といっても星新一が有名であるが,筒井康隆も数冊だしている.
ユーモアこそショートショートの醍醐味だが,筒井と星とではその味わいが違う.
誤解を恐れずにいうならば,筒井ブラックと星ホワイト,かな?
ユーモアに毒の有る無しの違いと言っていいかもしれない.
もちろん,毒入りが筒井,毒抜きが星.

この毒には,耐性のある人と無い人がいる.
もし耐性の無い人が筒井の本を読むと強い拒絶反応を示し,嘔吐や下痢の症状を伴うこともあるという.

逆に,拒絶反応のなかった人は,例外なく,急性筒井依存症を発症する.
急性の人は,その後,筒井の短編長編を問わず,有り金すべて筒井の本につぎ込み読みまくるはめになるので,基本的に貧乏である.
しばらくすると,慢性筒井依存症に移行し,貧乏から脱出する.

一方,最初拒絶反応を示した人の中には,しばらくすると,なぜか,あらためて筒井の他の本を読みたくなるという人がおり,そのような人は慢性筒井依存症にかかっている可能性が高い.

これら慢性筒井依存症の人は,基本的に読書好きな人が多いため,時には伊坂幸太郎や東野圭吾に浮気をしつつも,数年に1度は,思い出したように筒井康隆の本を読み,心の平安を取り戻した後に,また浮気読書の旅に出かけるのである.

さあ,次の浮気相手は誰にしようかな?

「セイギノチカラ」上村佑

2010年06月02日 09時46分37秒 | 読書
「セイギノチカラ」上村佑



世の中がややこしいと,本には単純なものを求めたくなる.(ことがある)
そんな心境の人にぴったりの,痛快サイキッククライム小説.

主人公は,6人の超能力者.

でも,その超能力というのが,いずれもショボい.

せいぜい30cmの移動しかできないテレポーテーション(瞬間移動)とか,女性のブラのホックを外す力しか出せない念力とか...

しかし,彼ら超ショボ「サイキッカー」6人が力を合わ,極悪非道のテロリストから地球を救うのだ!!!

すべての設定がバカバカしいんだけど,なぜか引き込まれる.
どうせ,実際の世の中はもっとあり得ないことも起こっているんだしと言い訳をしながら,この小説を庇おうとしている自分に気がついて,びっくりする.

やはり,すべてを失っても最後に人を支えるのは,肉親や家族への愛.

これだね.
誰もが頭ではわかっていても,日常生活の慌ただしさのせいで見失っていること.

世の中,やはり,「愛だろ?愛!」

脚本化されることをかなり意識して書かれている気がします.
映画化されますよ.きっと.
サイキッカーの紅一点,玲子の役は新垣結衣ちゃんを強く推薦したい.