書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「今夜,すべてのバーで」中島らも

2015年03月23日 14時58分16秒 | 読書
「今夜,すべてのバーで」中島らも




タイトルだけ見ると,「酒好きの私立探偵が苦労しながら難事件を解決する小説」 かと思ったが,なんせ作者が中島らもさんだからね,そんなはずはない.

半分自伝?

アルコール中毒の凄まじい悲惨さと,完治の困難さがよくわかるドキュメンタリーにもなっている.
アルコール性肝炎で肝硬変になりかけの主人公,小島が,黄疸症状が出て入院してから,病院を抜け出している期間も含めて,退院するまでの七転八倒の療養記.
と書くと,中島らもさん特有のユーモアに溢れたエッセイと思われちゃいますね.
全然違います.全然!
ストーリーは極めて深刻.
アルコールに限らず,あらゆる薬物中毒の怖さ,正確には薬物依存症がどのようにして発症し,なぜ完治することが難しいかが,心理学的な学説も含めて懇切かつ内容てんこ盛りで紹介される.

彼の主治医の赤河が,良い味を出しつつ,アルコール依存症のうんちくを語る.
彼の解説からアルコール依存症は,体ではなく心の病気であることが良くわかる.

また,小島の亡くなった親友,天童子の妹さやかが小島を心配して,何とか彼に酒を止めさせようと奮闘するが,単なる愛情以上の隠された理由が最後に明らかにされる.

アルコール依存症は病気である.
大麻や覚せい剤依存症も同じと説く.
勘違いしてはいけないが,アルコール依存症は麻薬中毒と同じくらい社会に害毒を流す危険なものという意味である.
そのことがよくわかると同時に,その治療の困難さはむしろアルコール中毒の方が上であるとも.
なぜなら,違法薬物と違って,酒の瓶を持っていても,警察に捕まることはないし,お金さえ持っていれば,その辺のバーやスナックで注文すれば,いくらでも出てくるからね.

ひとつ興味深い一節を.

「お酒の味を楽しむことが目的で酒を飲む人」は依存症にならない.
「酔うことが目的で酒を飲む人」が依存症になる.

ふ~む.

「カラフル」森絵都

2015年03月21日 07時50分19秒 | 読書
「カラフル」森絵都



児童文学の森絵都さんが書いたファンタジー.

でもしっかりミステリーにもなっている.
謎は「前世」
死後あの世に旅立つ直前の魂が主人公.すでに,生前の記憶はない.
主人公は,生前に,ある罪を犯したと,妙な風体の天使から告げられる.
その罪のため,このままでは天国に行けない.
そこで,一度だけ,別の肉体(自殺したばかりの男の子)を借りて,現世に戻り,自分の罪を思い出せば,天国に行け,輪廻の輪に戻れるという.
借りた男の子の生活を辿りながら,自分の罪を思い出せるのか...

良いお話でした.
児童文学作家の作品なので,残酷な表現はなく,同時にリアルな現実とはちょっと違う世界の気もするけど,借りた肉体の人生に深く関わりながら自分の前世の罪を探す過程がとても新鮮で楽しい.

最後は感動.

阿川佐和子さんの解説も興味深い.

「村上ラヂオ」村上春樹

2015年03月19日 10時47分56秒 | 読書

「村上ラヂオ」村上春樹



膝の金属の抜釘手術の前日なので,重たい本は何だかなあと思って,思い切り軽そうなこの本を手に取った次第.

何度か村上春樹の悪口を書いたことがある手前,ちょっと書きづらいんですが,この本は面白かった.
それでも,悔し紛れに書かせていただくなら,彼の文学は好きになれないけど,彼の人柄は結構好きかも.

エッセイ集ですからもろに人柄が出ているけど,こんなおじさんがいたら,一緒に一杯飲みたいですね.

そんな感じ.

「神秘」白石一文

2015年03月16日 19時05分46秒 | 読書
「神秘」白石一文



白石一文さんの本は初読です.

読み始めてしばらくは,死を覚悟した主人公が人生について考える哲学的な小説かなと思ったのです.

その感じは必ずしも外れではないのですが,この本の凄いところは,それが「ミステリー」になっていることです.

4重にも5重にも重なり合った伏線が,最後の十数ページでぴたりと重なる快感ときたら...

スティーブジョブズの伝記や,死の病に関する有名な小説など,人の死を考えさせる「先行例」がいろいろと紹介されますが,この本を読んだ後では,それらの話が逆に陳腐なものに感じられる.運命の本質はもっと神秘的なのに,と思える.

篠田節子「仮想儀礼」(上,下)

2015年03月01日 12時07分39秒 | 読書
篠田節子「仮想儀礼」(上,下)




なかなか面白い本でした.

公務員を辞めてまで,ゲーム作家になろうと創作活動に専念した正彦だが,悪徳出版社にあっさりと騙され,ゲームのネタを奪われ,一文無しの状態で世の中に放り出されてしまう.

再就職を諦めかけたころ,ひょんなことから,ニセ新興宗教を起こすことを思いつく.
もちろん,目的は信者から金を巻き上げること.

だいたい,こんなことがうまく行くはずがないのが常識だが,意外にも幸運が重なり,正彦の口の上手さも手伝って,とんとん拍子に信者が増え,気が付けばひと財産築いてしまう.
しかし,そうなると,それを食い物にする輩や,信者を取り返そうとする家族も出てきて.....

篠田さんの文章が素晴らしい.

教祖,正彦の現実的で打算に満ちた思考と,信者たちの真摯で一途な様子が活き活きと描かれる.

全体的にはドキュメンタリー風の文体なのだが,客観性と主観性のバランスが絶妙で,ふと,あれ,この本,ドキョメンタリーだっけと思わせるほど,リアリティがある.

上下2巻900ページ近い大作だが,長さを感じさせないです.